掲載日:2022年06月28日 試乗インプレ・レビュー
取材協力・写真/GASGAS MOTORCYCLES JAPAN 取材・文/佐川 健太郎
GASGAS ES700
スペインを代表するモーターサイクルブランド、GASGAS(ガスガス)が手掛ける初のストリートモデルがSM700/ES700である。共通のエンジンと車体を持つ両者だが、SMがスーパーモタードに対しESはデュアルパーパスの位置づけ。最高出力75ps(55kW)を発揮する水冷4スト単気筒OHC4バルブ排気量692.7ccエンジンを軽量クロモリ製トレリスフレームに搭載し、2種類のライドモードとリーンアングルセンサー付きのABS&トラコンなどの電子制御に加えスリッパークラッチを採用している点も同じ。
違いは主に足まわりで、ES700はWP製サスペンションがオフロード寄りにセッティングされ、前後21/18インチのワイヤースポークホイールを採用。タイヤも本格的なオフロードにも対応したブロックタイヤが装備され、オールラウンド性能が高められているのが特徴だ。
ガスガスは特にオフロード界で目覚ましい実績を残してきたが、2019年からはKTMグループの傘下に入り開発体制を強化している。直近では2022年のダカールラリーで優勝を果たすなど早くもトップクラスで戦える実力を証明してみせた。
贅肉をそぎ落としたスリムな車体に長い足と高いシートなど、ES700はそのままレースにも出られそうなまさにビッグエンデューロという雰囲気だ。走り出しの第一印象は車体の動きがゆったりしていて250ccクラスの4ストコンペマシンなどに比べると、やはり車体も重いしバンドリングも穏やか。サイズとパワーに合わせた味付けになっているのだろう。一方でエンジンは低中速トルクが分厚く、アクセルひとつでフロントが宙に舞う感じはビッグオフならでは。それでいて、1万rpm近くまでストレスなく伸びていく高回転での余裕もある。単気筒とはいえ最新の水冷4バルブエンジンらしく洗練されている。
試乗コースではまず高速道路やワインディングを走った。ブロックタイヤに21インチのワイヤースポークホイールなど見た目は完全にオフロード仕様なのだが、アスファルトでも意外と“ちゃんと走る”。タイヤのグリップも安定していて、しなやかな長い足が路面の凹凸を滑らかにいなしてくれる。ESはたしかにオフ寄りのセッティングなのだが、オンロードでも十分快適で安心した走りが楽しめることが分かった。ES700の本分はどんなシチュエーションでも躊躇せずに走れるストリート向けの多目的マシンなのだ。
続いて林道コースにもトライ。大きな石が転がるガレ場やホイール径の半分ぐらいありそうな段差のあるロックセクション、フロントを取られそうな砂地など刻々と表情を変える険しい道でも、スロットルさえ開けていれば何事もなかったように乗り越えていく。瞬発力のあるエンジンと剛性バランスに優れたクロモリ製トラスフレーム、そして強靭なWP製サスペンションが高次元でバランスしている。自分のレベルではそれを引き出すまではいけないが、きっとそんな気がする。
最近はアドベンチャー流行りで各メーカーから最新モデルがリリースされているが、ダートでの走破性能と自在性では群を抜いている。ES700をアドベンチャーモデルにカテゴライズするか否かは別として、やはり単気筒ならではの軽量・スリムな車体はオフロードでは大きなメリットだとあらためて思った。
ガスガスとは「アクセルを開けろ!」という意味だとか。その名のとおり、エキスパートがガチでぶっ飛ばせる高性能マシンである一方で、戦闘モードを解いて長閑な田舎道をトコトコとのんびり走っても楽しめる。しなやかなサスペンションは乗り心地にも優れ、クラッチも軽く、スロットル開度に対するFI制御も繊細なのでストレスを感じないなど最新マシンの良さを実感。また、ツーリングバッグなどを付けて旅仕様に仕上げれば、余裕のパワーを生かしてロングツーリングもきっと快適にこなせるはずだ。林道好きのトレール派の人にはステップアップとしてもおすすめだ。