掲載日:2022年04月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/渡辺 昌彦
HUSQVARNA NORDEN 901
ハスクバーナは北欧スウェーデン発祥の老舗モーターサイクルブランドである。モトクロスやエンデューロをはじめとするオフロードレースで多くの勝利を重ねてきた。その後、紆余曲折を経て2013年からKTM傘下となり、2020年ダカールラリーでは総合2位を獲得するなど大躍進。その余勢を駆るように今回ハスクバーナ初のアドベンチャーモデルとして「ノーデン901」がデビューした。オフロードの名門がついに冒険への扉を開いたのだ。
スウェーデン語で「北」を意味するNorden。沈んだマットグレーと鮮やかなフラッシュイエローの対比が、まるで北欧の長い冬に差し込んだ春の光のようにも見える。丸型ライトやボディ一体型カウルなど、どこか80年代のラリーマシンを思わせるレトロ感のあるデザインが印象的だ。
かなり大柄なマシンをイメージしていたが、実車は写真で見るよりコンパクト。ノーデン901は車体とエンジンなど主要コンポーネンツをKTM890アドベンチャーと共有するが、外装をはじめエルゴノミクスは独自に開発されたものだ。
エンジンは水冷並列2気筒75度位相クランクを採用するKTMではLC8cと呼ばれる新世代ユニットで、Vツイン的な歯切れのよい鼓動感とトラクション性能を引き出しているのが特徴。最高出力105psも890とも共通スペックだ。
一方、WP製の前後サスペンションはストローク量(フロント220mm/リア215mm )がSTDの「890」とガチオフ仕様の「890R」のちょうど中間的で、シート高(854mm)や最低地上高(252mm)も同じく。標準タイヤもオン&オフ仕様のスコーピオンラリーSTRで、シート形状もタンデムを想定した前後セパレートタイプとするなど、オンとオフ両方の特性をバランス良く盛り込んだモデルになっていることが分かる。
また、電子制御も890アドベンチャーと同様、4種類のライディングモード(ストリート、レイン、オフロード、※エクスプローラーはオプション)にコーナリング対応のABS&トラクションコントロール、クイックシフター、クルーズコントロール、MSR(エンブレ調整)などをフル装備し、オールラウンドな走りに対応している。
まずは駐車場で慣らし運転してみたが、跨ってみるとシートも思いのほか低めで車幅もスリムなので足着きもこのジャンルとしては良好。ドコドコしすぎず極低速から滑らかに出てくるトルクと軽いクラッチ操作によって発進もしやすい。感心したのはハンドル切れ角の大きさで、滑らかなエンジン特性と左右振り分け式の通称「ロワータンク」による低重心化と相まって極低速も安定、Uターンも苦にならない。
箱根のワインディングで試走したが、低中速トルクにパンチがあって高回転までスムーズに吹け上がる。車重200kg強とこのクラスとしては軽いこともあり、何速からでもアクセルひとつで弾けるように加速する。アップ&ダウン対応のクイックシフターも節度あるタッチ感で正確に入るので気持ちいい。絶対的なパワーとか凄いメカとかではなく、こういうところが実は大事なのだ。
ハンドリングも軽快かつ安定感があり、フロント21インチのスポークホイールらしい大らかさ。乗り心地は柔らかめで、WP製の長い足が荒れた路面でも滑らかにいなしてくれるので安心。コーナリング中にわざとアスファルトが剥がれた凹凸を踏んでみたが何事もなかったようにスルー。ちなみに当日の朝は雪がちらつく冷え込みだったが、スコーピオンラリーSTRは乗り始めから接地感が豊富でグリップに確信が持てたことも大きい。
また、スリムだが高さのあるスクリーンや大型カウル、グリップガードなどの防風デバイスが風を和らげてくれるので大いに助かった。たぶん高速ツーリングでもクルーズコントロールとともに大きな恩恵をもたらしてくれるはず。過酷な環境ほど有難みを感じる、こうした汎用性の高さはアドベンチャーモデルならではである。
ベースが890アドベンチャーということでどうしても比べてしまうが、アグレッシブなKTMに対してノーデンは若干乗り味が柔らかいというかジェントルな感じ。KTM690エンデューロとハスクバーナ701エンデューロでもそう感じたが、サスペンションやディメンションなどのちょっとした味付けの違いでキャラを作り分けているのかもしれない。
そして、いよいよ注目のオフロードだ。山肌を利用した特設コースを試走したのだが、これがなかなか面白く、ちょっとした上り下りや芝生やダート、池を渡るセクションも用意されるなどコンパクトだが変化に富んだレイアウト。そこをトレッキングする感覚でゆったりと走り、ひとつひとつのセクションを丁寧に走破していくのがとても楽しかった。
初めはオフロードモードで走り始めたが、パワーの出方は穏やかになる一方でABSとトラクションコントロールの介入度は抑えられて、滑りやすい路面でのコントロールがしやすくなる。右手に直結したダイレクトなエンジンとダート路面をしっかりと掴むトラクションの良さに加え、ノーデン901の軽量スリムな車体の恩恵が感じられた。ステップワークで車体の向きを変えて、あとはサスペンションと電制に任せてアクセルを開けていけばオーケー。ヌタヌタ路面でもフロントブレーキでしっかり止まれるし、自分の意志で適度にテールを流したりもしやすい。250ccトレールバイク並みとはいかないが、巨大アドベンチャーでは気後れするセクションでも自信を持ってトライできた。
ノーデン901のプロモ動画を見ると、本来は北欧の森や巨大なフィヨルドが大地を削る海岸線を突っ走っていくイメージ(?)なのだと思うが、こうした身の丈に合った遊びも楽しめる扱いやすさを持ったマシンなのだと実感した。
さらにもう一歩踏み込んで攻めたい人にはエクスプローラーモードがおすすめ。これはKTMのラリーモードに相当するもので、トラクションコントロールレベル(9段階)やスロットルレスポンス(3段階)を細かく設定できる。路面に合わせて走行中でも左手スイッチで簡単にトラクションコントロールレベルを変えられるのが秀逸。例えばスロットルを最強レベルにしておけば、トラクションコントロールでスライド量を調整できるため、いざというときには瞬発力を引き出して短い助走で段差を乗り越えたりできる。これはラリーを知り尽くしたKTM、もといハスクバーナならではのデバイスと言える。
通勤にも使えるサイズ感で、週末エスケープからタンデムでのロングツーリングまで楽々こなす。その気になれば、旅先で山岳ワインディングや林道を含む壮大なランドスケープも楽しめる、穏やかな顔をした実力派冒険ツアラーである。