KTM最新モデル 790アドベンチャー/R 海外試乗レポート

掲載日:2019年04月15日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文/佐川 健太郎  写真/KTM  衣装協力/HYOD

KTM 790アドベンチャー/R 試乗インプレッション

790アドベンチャー
低重心タンクが生み出す安定感のある走り

KTM 790アドベンチャー/Rの試乗インプレッション

まずSTDだが、アドベンチャーモデルとしては足着きが良く、身長179cmの自分だと両足がべったり着いてヒザも少し曲げられる余裕がある。これには790アドベンチャーで新採用されたロワータンクも効いている。20リットル容量の燃料タンクが車体両側の低い位置に左右に振り分けられてレイアウトされたおかげで、通常のタンクまわりがスリム化されているためニーグリップしやすく足も着きやすい。上位モデルの1290/1090アドベンチャーなどに比べてもだいぶ軽くコンパクトだ。

LC8cと呼ばれる790DUKE系の水冷並列2気筒エンジンは、75度位相クランクと435度の爆発間隔が特徴的なパルスを生み出していて、Vツインのような鼓動感がありながら2軸カウンターバランサーのおかげで振動が少ない。単気筒並みの軽量スリムさと相まって、まさにオフロード向けのエンジンであると昨年790DUKEに試乗したときから感じていたが、それが今回の試乗会でまさにど真ん中のストライクであることが実感できた。ひと口に言うと、とても元気でトラクションが効いていて尚かつスムーズなのだ。

KTM 790アドベンチャー/Rの試乗インプレッション

ロワータンクはハンドリング面でも有利だ。常に砂塵が舞うモロッコのアスファルトは日本に比べるとだいぶスリッピーだが、それでもこの低重心タンクと前後の長いサスペンション、フロント21インチのオン&オフ用タイヤのおかげで非常に安定感があり、多少凸凹が気になる路面でも安心してコーナーを駆け抜けることができた。

実はそこにもラリーマシンの発想が生かされているという。ダートはもちろん、アスファルトでもこれだけの大容量タンクが通常の位置にあったとすれば、当然ながらトップヘビーになりグラつくはずだ。最初ワインディングではコーナーへ向けて車体を傾けていく際に“おきあがりこぼし”のような低重心ゆえの重さを感じたのだが、長距離になるほどその安定感が疲労低減にも貢献していることが分かってきた。シートは座面がフラットで座り心地も良く、強風と砂塵が吹き荒れる中ではハイスクリーンとグリップガードの有難さを実感できた。

KTM 790アドベンチャー/Rの試乗インプレッション

MTCやコーナリングABSなどの電制の進化も著しい。オンロードで標準とされるストリートモードではバンク角に応じて最適なトラクションや制動力に調整してくれるため、荒れたワインディングでも安心してアクセルを開けたり強めにブレーキ操作ができるし、フラットダート(といっても拳大の石が転がるが)ぐらいならオフロードモードに切り替えて普通に入っていける。ちなみにオフロードモードでは出力特性が穏やかに、トラクションコントロールとABSの介入度は減ってテールスライドなどを許容する設定だ。

790アドベンチャーR
サハラ砂漠でラリーモードの威力を実感

KTM 790アドベンチャー/Rの試乗インプレッション

「R」ではさらにこの新型マシンのキャラが明確になった。ブロックタイヤにオフロード設定の超ロングストロークの前後サスはオンロードではどうかとも思ったが、実際にアスファルトを走ってみるとタイヤのグリップはいいし、しなやかでコシのある長い脚が路面のギャップを吸収して乗り心地もすこぶる良いではないか。シートこそ高めだが、それは走破性とトレードオフの関係なので止むなし。ただ、STDのシートとも互換性があるので足着きを良くしたい場合はシートだけ交換する手もあるだろう。

「R」の真骨頂はやはりダートだ。360度見渡す限り地平線が広がるアフリカの大地をスロットル全開で突っ走る快感は何にも代えがたいものである。フラットに見えて所々に崩れた岩が露出する、ありのままの自然の荒野でマシンを信じてスロットルを開けていく。そんな真似ができるのも頑強なフレームとレーシングスペックのWP製サスペンションの性能があってこそだ。

特に印象的だったのがラリーモード。「R」にだけ備えられたスペシャルモードで、最もアグレッシブな出力特性が特徴だ。エンジンの瞬発力を生かしてスロットルを開けた瞬間にフロントを軽くできるため、多少のギャップであればそのまま走破できてしまう。

KTM 790アドベンチャー/Rの試乗インプレッション

そして初挑戦だったデューン(大砂丘)では、まとわりつくパウダーのような細かい砂に悪戦苦闘しながらもLC8cのパワーと軽量な車体、そしてラリーモードのおかげでなんとか走破することができた。ラリーモードにはMSCの9段階のトラクションコントロールのレベルをスイッチひとつで瞬時に切り替えられる機能が付いているため、固くしまった土や砂など刻々と変わる路面に応じて素早く対応することができるのだ。

KTM本社の開発スタッフにも話をうかがったが、790アドベンチャーはオールラウンド性能に秀でたマシンということだった。最近はアドベンチャーバイクが世界的に流行りだが、たとえば今主流のリッター超クラスのモデルの場合、高速巡行性能は優れるが本格的なオフロードに入っていくには相当な腕前と度胸が必要になる。一方、250ccクラスなどのエンデューロモデルであればオフロードは得意だが荷物を積んで、あるいはタンデムでロングツーリングに出かける気にはなれないというか実質的にムリだろう。その点、790アドベンチャーはこれ1台でサハラ砂漠のような究極のオフロードから、1日数百kmを高速道路で移動するような強行軍でもこなすことができる。パニアケースなどのオプションも充実しているので本格的なバイク旅も可能だ。つまり1台で幾つもの異なるセグメントの魅力を合わせ持っているということだ。

KTM 790アドベンチャー/Rの試乗インプレッション

それを実感できたのが今回のモロッコでの体験だった。あらゆるシチュエーションを乗り越えていくトータルでのポテンシャルの高さと長距離性能。それはまさにラリーマシンの姿そのものだ。もちろん、こうした非日常だけでなく普段使いの中では扱いやすいパワーやサイズ感なども大きなメリットになるだろう。日常から冒険まで軽々とこなしてしまう、そんな懐の広いマシンだ。

KTM 790アドベンチャー/Rの詳細写真は次のページにて

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