

掲載日:2012年08月20日 試乗インプレ・レビュー
取材・写真・文/田宮 徹
シート高はKLX250より30mm低く、このことからD-トラッカーXの足着き性は見た目から受ける印象ほど悪くない。身長167cmの筆者がまたがると、両足の裏が半分ほど接地。車重もそれほどないため、問題なく支えていられる。ライディングポジションは、オフコンペティションモデルに近いイメージ。つまり、小さめの燃料タンクにシートが被さるように配置されていることから車体のかなり前側に座ることができ、一方でシートがフラットで長いためかなり後ろに座ることもできる。慣れてきたら、積極的に体重移動を行ってマシンを操るのも楽しい。ハンドル幅は広く、絞り角はほとんどなく、こちらもオフロードモデル譲りの設定となっている。
DOHC4バルブの水冷単気筒エンジンは、最新の排ガス規制に適合化させたことなどから、先代より控えめな24馬力の最高出力。極低回転域のトルクは、やや少なめな印象がある。それでも、燃料供給がF.I.化されている恩恵もあって、クラッチをつないだまま人が歩くような速度で走らせても、エンジンがストールすることはない。そして、3,000回転以上をキープしていれば、それほど高回転まで到達していなくても、日常的なシティランは心地よく行える。
さて、中回転域でもスムーズな吹け上がりだが、DOHC4バルブエンジンが本領を発揮するのは7,000回転あたりから。レッドゾーンは10,500回転からで、7,000~10,000回転がもっとも元気のよい範囲といった印象だ。この回転域をキープしていれば、車体が軽めなこともあり、D-トラッカーXはなかなかに鋭い加速を披露する。しかも、パワーが多すぎないため、例えば初心者であっても、回し切る喜びを味わえるのがうれしい。一方で上級ライダーであっても、伸びやかな加速感に満足できるだろう。
ちなみに、6速100km/h巡航時のエンジン回転数は約6,500回転。もっともおいしいゾーンよりもちょっと下をキープする設定で、このことから高速走行にも余裕があることがわかってもらえるだろう。この手のモデルは、高速走行時にギャップを通過することなどで車体にブレが出る場合もあるが、D-トラッカーXは高速走行時の車体安定性も非常に良く、安心して乗ることができた。
一方で低中速域では、軽さと安定感、そして旋回性の良さがうまくバランスされている点が魅力。とくに低速域では、やや多めにハンドル舵角が付く傾向で、つまり曲がりたい方向にハンドルがちょっぴり多めに切れながら、それほど車体を寝かせなくてもクルンと旋回できてしまう。しかしその角度は、大きくイン側にハンドルが切れ込んでしまうほどではなく、怖さはない。車体が軽めなこともあり、タイトなエリアではかなり軽快に走れる。
さらに、中高速域になると、この軽快感に安定感が加わる。特に高速ワインディングでの旋回時には、時に路面に吸いつくようなフィーリングがあり、おそらく初心者でもおもしろいようにマシンを寝かせていけるはずだ。もちろんその時に、車体が寝るだけでなくしっかり向きを変えてくれる。どの速度域でも、イージーにスポーツライディングを楽しめる旋回性能だ。
ちなみに、コーナー進入でリアタイヤをスライドさせる、いわゆるモタード走りもしてみたが、純正装着されているIRC製タイヤは、グリップ力に不満はないがスキール音がかなり多め。その点で、もしクローズドコースを走らせるなら、タイヤは変更したいと感じられた。しかしもちろん、街中を普通に走るぶんには、このタイヤでなんの問題もない。
ブレーキは前後ともディスク式だが、フロントはシングルディスクに片押し2ポットのキャリパーを組み合わせていることから、制動力を不安視する人がいるかもしれない。しかし心配は無用。カチッとしたレバータッチのフロントブレーキは、車体が軽いこともあり、高速域からでもググッと車速を落としてくれる。コントロール性もかなり良く、その気になればジャックナイフも簡単にできる。
フルアジャスタブル式のリアサスペンションを装備するなど、かなりスポーティな印象のD-トラッカーXだが、使いやすい荷掛けフックやラバーで覆われたステップを採用するなど、日常の使い勝手も考慮されている。いっぽうで走りのほうも、トンガリすぎておらず、市街地でもワインディングでも扱い切れる優しさがある。つまり、幅広いレベルのライダーと用途に合うモタードなのだ。
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