掲載日:2013年07月19日 特集記事
文/ダートライド編集部
多くのメーカーが、排気量を80ccから85ccにアップしてから長い間、グラフィックチェンジなどのみの変更に留まっていた“ミニモト”クラスで、カワサキが2014年モデルに様々なリニューアルを果たした新型を投入した。数々の注目点がある、新生KX85の細部を見てみたい。
4ストローク450ccと250ccがフルサイズと呼ばれるのに対して、ミニモトと言われる事の多い2ストローク85ccモデルだが、キッズからハイアマチュアまで多くのライダーにとって親しみやすい車格が1番のメリットで、そのパワーや特性は250ccトレール車の比でない。やはり生粋のレーサーの顔を持ち、また小さい車格はホイールベースが短い事から、バイクの上でのライダーのセンターマス・スポットが非常に狭く、ライディングテクニックを磨く上で最適な、馬鹿に出来ないクラスのバイクでもある。
そんな85ccの2014年KXの特徴は、出力を向上させたエンジンに、性能を進化させたシャーシ、凹凸を減らす事で空力特性を向上させたボディデザイン、そして新しいシートや変更出来るハンドルポジションなどを装備する。イヤーが替わっても、「グラフィックチェンジだけでしょ」と言われてしまいがちなこのクラスにおいて、飛躍的な進化を遂げている。まず、出力が向上したというエンジンについて見ていこう。
改良された2ストローク85ccエンジンは、すべての回転域で出力アップとトルクアップを果たし、また向上幅が非常に大きい事から、従来の高回転を特徴にしていたモデルとは異なる印象になっているという。エンジン出力のグラフを見ると、MAX値で19.6%ものアップを果たしている。これの要因はなんだろう。まずはじめに、ピストンのリングをシングルに変更(2本から1本に)する事で、摩擦のメカニカルロスを最小化した。それと接するシリンダー壁面は、電気メッキコーティングからニッケルメッキに変更され、耐久性が大きく向上している。これらの変更に加え、燃焼室のスキッシュエリアを修正する事で、エンジンパフォーマンスを向上させる事が出来たようだ。レスポンスについても、PWK28セミフラットキャブレターのノズルジェットをシリンダーの近くに配置する事で、さまざまな回転域での鋭いレスポンスを実現。当然、キャブレターの設定は新しいエンジンにマッチするよう最適化されている。厚さ0.42mmのメッシュカーボンリードは、理想的なレスポンスを生み出すために45度に設定。この結果、中低速域のレスポンスを高めることに成功している。パワーアップに欠かせない確実な点火と燃焼は、精密なデジタルCDIイグニッションを採用することで実現した。
他には、合成樹脂ブロックをクランシャフトに設置する事で、クランクケースの容積を縮小。その結果、圧力比率が変更されエンジン性能向上に貢献。2ストロークKXの特徴であるKIPSバルブも改良され、シーリングを改良することでエンジン性能を大きく高めた。パワーアップに適するように、クランクピンのネジ圧力をより高め、大径クランクシャフトをφ81mmからφ83mmに変更し、剛性を高め耐久性を向上させてもいる。ポートはそれぞれ、排気側の形状変更でエンジン性能の向上を果たし、掃気側の形状も改良する事で、性能アップに貢献している。ラジエーターは、縦200mmから240mmに、横110mmから112.6mmに大型化。冷却性能を5.6kWから8.5kWへと向上させ、エンジン性能の向上に対応する。
エンジンパワーが上がると昨今は排気音が気になるところだが、環境に考慮したマフラーはパワーを犠牲にする事なく騒音レベルを軽減させた。ガラス繊維とバッフルプレートの間にある金属繊維のレイヤーが、ガラス繊維の寿命を延ばし、またマフラーエンドは泥詰まりを防止する形状を採用した。
足回りも大きな変更を受けている。フロントサスペンションは、径がφ36mmとなる倒立タイプで、ダンピング(減衰)性能を改良し、大きなボトミングを防止するために構造を一新。ポートスタイルバルブから新型のシムスタックタイプのバルブ(KXFモデルと同様)への変更によって、大きな圧縮をしながら、リバウンドのダンピング力を増して、高速走行と乗り心地性能を向上させた。細かな所では、ボトムケース(アクセルブラケット)を12.5mm短くし、チューン時のクリアランスを拡大させている。リヤのユニ・トラックサスペンションは圧側、伸側、プリロードの減衰力調整が可能で、圧縮機構を変更する事で、ゆっくりとしたストロークでも優れた減衰力を発揮し、安定した乗り心地に寄与する。スプリングを約150g軽量化してもいる。
ブレーキは、フロントとリヤのペタルディスクブレーキは、KXFモデルと同様の仕様で、強力な制動力を実現、フロントブレーキにはデュアルピストンキャリパーと大径φ220mmのディスクを、リヤはシングルピストンとφ184mmのディスクを持つコンポーネントを採用した。
ハンドルポジションを変更出来るようになったのも、大きな変更点。ライダーは6つのハンドルポジションが選択出来るようになり、3種類の高さ(スタンダード、+5mm、+10mm)と、取付位置を逆転(リバーシブル)させるハンドルバークランプを使う事で、前後のポジションがスタンダードと10mm前方の2種類のセッティングが可能になっている。KXFと似たシステムだ。
今回のモデルチェンジは“見た目”にも大きく切り込んでいて、ボディワークはKXFと同じデザインとなった。加えて強力なファクトリ―スタイルのルックスと、スリムな人間工学パッケージに基づいて形作られた新製品パーツとなり、バイクの上での位置移動を容易にする。具体的には、
・フラットなフューエルタンクトップを人間工学的に改善し、新型タンクの容量は5リッターに
・KXFと同様にスリムになったフラットスタイルシートは、前後へのライディングポジションの変更が簡単に出来るようになった
・シュラウドは極限までコンパクト化され、ライダーの脚に当たる部分が小さくスリムに。また、ツートーンのデザインはダブルインジェクションモールドを採用した1ピース構造
・サイドカバーも出来る限りコンパクトに設計・シュラウド、シート、サイドカバーの継ぎ目を滑らかにすることで自由度の高いコントロール性を実現
・新設計のハンドルバーは曲線を得て乗り心地とコントロール性を向上させ、幅広いライダー層にダイナミックなライディングを提供する。ハンドルバー幅は広くなり(720mmから744mmへ変更)、ハンドル位置も22mm高くなり、前後幅で22.4mmライダーの身体側に近付けた
・前後フェンダーのデザインを、KXFモデルとマッチしたものに変更
・フォークガードをサスペンション下部に配置。この新しいデザインはKXFと同様のもので、泥の浸入を防止する。カワサキのロゴも刻印され、ビッグバイクのイメージを漂わせる
・前後リムはファクトリーマシンと同様に、ブラックアルマイトコーティング
・フロントフォーク、リヤショックのアジャスターに、アメリカのファクトリーマシンと同様のブルーのアルマイト加工品を採用
・スイングアームのアルミニウムはブラッシングされた
・リヤショックのアルミニウムボディを、ブラックカラーの陽極酸化仕上げに
となる。
低摩擦ピストン、ニューKIPSバルブ、その他の数々の新技術を盛り込んだ水冷2ストロークレースエンジンは、あらゆる回転域で馬力とトルクを向上。最高出力は19.6%のアップを達成した。
エンジン出力に対する抵抗によるロスの代名詞と言われているピストンリングを、ダブルからシングルに変更する事で、摩擦ロスを最小化。シングル化による弊害も多いが、それをクリア出来たという事だろう。
シリンダーの内壁のメッキ処理を、一般的な電気メッキコーティングからニッケルメッキに変更し、耐久性を大幅に向上させた。
燃焼室のスキッシュエリア形状は完全燃焼に大きく関係するが、そこを修正する事でエンジンパフォーマンスを向上させた。
合成樹脂ブロックをクランシャフトに設置する事でクランクケースの容積を縮小。その恩恵で、圧力比率が変更されエンジン性能の向上に貢献した。
低回転時と高回転時で異なるエンジンキャラクターを作り出すカワサキ独自の技術、KIPSバルブの構造が大きく変わった。3つから2つの独立型になり、シーリングが改良された事でエンジン性能を大きく高めた。
倒立タイプフロントフォーク(サスペンション)は、ダンピング(減衰)性能を改良し、大きなボトミングを防止するために構造を一新した。トップキャップはファクトリーのようにブルーアルマイトされる。
ポートスタイルバルブから新型のシムスタックタイプのバルブへの変更する事で、大きな圧縮をしながら、リバウンドのダンピング力を増している。
リヤショックは圧縮機構を変更することで、ゆっくりとしたストロークでも優れた減衰力を発揮し、安定した乗り心地に寄与する。スプリングも約150g軽量化された。カラリングも変わった。
エンジン性能の向上に伴い、ラジエーターを大型し、冷却性能を向上させている。KX85のラジエーターは右側のみのシングル設計。 | ハンドルポジションを6通りから選べるように変更されたマウント。写真は、高さを+10mm、前後のポジションを10mm前方に出した状態。 | フラットスタイルシート、シュラウド、シート、サイドカバーの継ぎ目を滑らかに、など人間工学パッケージに基づいて形作られた新製品パーツを多く採用する。 |
走りには直接関係ないがKXFを起草させる共通デザインやグラフィックを随所に盛り込んだ。 | ファクトリースタイルのグラフィックに加え、シュラウドは極限までコンパクト化された。 | フォークガードもKXFと同じデザインのものになり、カワサキのロゴも同様に刻印される。 |
85ccクラスとしては異例のブラッシュアップを果たした新生KX85は、今からその活躍が楽しみでたまらない。
価格は、KX85-II が369,000円、KX85 が348,000円(ともに税込)。発売日は共通で、2013年8月1日を予定している。
KX85-II (KX85DEF) | KX85 (KX85CEF) | |
全長×全幅×全高 | 1,920mm×765mm×1,150mm | 1,830mm×765mm×1,100mm |
軸間距離 | 1,310mm | 1,265mm |
最低地上高 | 330mm | 290mm |
シート高 | 870mm | 830mm |
キャスター | 29° | 29° |
トレール | 108 mm | 97 mm |
車両重量 | 77kg | 75kg |
燃料タンク容量 | 5L | 5L |
エンジン種類 | 水冷2ストローク単気筒(KIPS) | 水冷2ストローク単気筒(KIPS) |
排気量 | 84cm³ | 84cm³ |
内径×工程 | 48.5mm x 45.8mm | 48.5mm x 45.8mm |
圧縮比 | 低回転時: 10.9:1 高回転時: 9.0:1 | 低回転時: 10.9:1 高回転時: 9.0:1 |
弁方式 | ピストンリードバルブ | ピストンリードバルブ |
燃料供給方式 | キャブレター(KEIHIN PWK 28) | キャブレター(KEIHIN PWK 28) |
点火方式 | デジタル CDI? | デジタル CDI? |
始動方式 | プライマリキック | プライマリキック |
潤滑方式 | 混合 (32:1) | 混合 (32:1) |
トランスミッション形式 | 常噛6段リターン | 常噛6段リターン |
駆動方式 | チェーン | チェーン |
一次減速比 | 3.400 (68/20) | 3.400 (68/20) |
ギヤレシオ | 1速:2.538 (33/13) 2速:1.875 (30/16) 3速:1.500 (27/18) 4速:1.250 (25/20) 5速:1.090 (24/22) 6速:0.956 (22/23) | 1速:2.538 (33/13) 2速:1.875 (30/16) 3速:1.500 (27/18) 4速:1.250 (25/20) 5速:1.090 (24/22) 6速:0.956 (22/23) |
二次減速比 | 3.923 (51/13) | 3.571 (50/14) |
クラッチ形式 | 湿式多板 | 湿式多板 |
フレーム形式 | ペリメター(高張力鋼管) | ペリメター(高張力鋼管) |
ホイールトラベル :?前 | 275mm | 275mm |
ホイールトラベル :?後 | 275mm | 275mm |
タイヤサイズ : 前 | 70/100-19 42M | 70/100-17 40M |
タイヤサイズ :?後 | 90/100-16 52M | 90/100-14 49M |
ステアリングアングル (左/右) | 45°/45°? | 45°/45°? |
フロント サスペンション | 倒立・テレスコピック(36mm) | 倒立・テレスコピック(36mm) |
フロント 圧側調整 | 20段 | 20段 |
リヤ サスペンション | ユニ・トラック | ユニ・トラック |
リヤ 圧側調整 | 24回転 | 24回転 |
? 伸側調整 | 21段 | 21段 |
? スプリングプリロード | フルアジャスタブル | フルアジャスタブル |
フロントブレーキ | シングルディスク(外径220mm) | シングルディスク(外径220mm) |
フロント キャリパー | デュアルピストン | デュアルピストン |
リヤブレーキ | シングルディスク(外径184mm) | シングルディスク(外径184mm) |
リヤ キャリパー | シングルピストン | シングルピストン |
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