掲載日:2009年12月16日 特集記事 › ビッグオフの旅
2009年7月1日発行 月刊ガルル No.279より記事提供
写真/冨士井明史、文/菅野真司
独断と偏見で、ビッグオフに似合うのは石川県の「なぎさドライブウェイ」だろう、と決めた。観光バスも走る、硬く締まった砂浜を2台揃って走る。アクセルを豪快に開けて、リヤタイヤが空転を始めても怖くない。ドライブウェイ沿いに立つ「海の家」風のドライブインから、客引きのおばさまたちが顔を出し、手招きしてくる。しかしバイクを傾ける気にはならない。
今回の旅は、バイクに目的地を決めてもらう旅、だったのかもしれない。オフロードライダーにとっては、バイクに乗せられている感覚というのは耐え難いものだけど、今回の2台は、ほどよくライダーを導いてくれた気がする。もちろんフラットな林道を選んで走り、無理なアタックをしていないからなんだけど。
ビッグオフがいざなってくれる旅は、距離と時間の感覚を麻痺させる。日本は狭い、と直感的に感じさせるほどのパワーと余裕と快適性。痺れれば痺れるほど、止まれなくなる。止まったときの重厚感と対照的な、まるで空を飛んでいるような移動感覚。それを知ると、アクセルがなかなか戻せない。その先に何があるのか、まったくわからなくても。仮に、何もなかったとしても。
すれ違った観光バスの、中のお客さんと目が合った。「大きいバイクだなぁ。」と思っていたのか、それとも「バイクもこのなぎさドライブウェイを走れるんだ」と思ったのか。いずれにしても、なぜだか少しだけ気分がよかった。自分は観光バスに乗せられてここまで来たんじゃないよ、このバイクに乗って、ここまで来たんだよ。そう思っていたからに違いない。
白川郷から、渓谷沿いの国道156号を北上すると、富山県に入る。と思ったら次の橋でまた、岐阜県に戻る。次の橋ではまた富山県、岐阜県、富山県…。
蛇行して流れる庄川が2県の境になっていて、その上を国道が高架になって貫いているから、こういうことになるらしい。たしかに物珍しい光景だが、県境なんて、所詮人間が決めたものだ。自然の風景の移り変わりに比べたら、なんにもおもしろくない。
なぎさドライブウェイの終点、羽咋市から、能登半島を横断して氷見市に抜ける国道415号は、人工のギミックなどまったくないのどかな山道だけど、穏やかな景色の移り変わりが美しかった。砂浜を離れて、やや標高を上げると農村の風景が広がり、氷見市に近づくにつれて、漁港特有の匂いと雰囲気に染まっていく。人間が、自然と共存しようとしている風景というのは、やはり美しいものなのだ。
ビッグオフで感じる日本の原風景は、流れるスピードが少し速かった。能登半島を横断するのもあっという間。でもそれは間違いなく、ここまで来たから見られた風景、と思えるものだった。日本は狭い、などと思いかけていたが、そんなことはない。移り変わる景色の分だけの、奥深さがあるからだ。
そして、富山県から関東まで帰ろうというとき、どういう経路で高速道路を使えば速いのか、迷った。幾通りもの経路がある。東海北陸自動車道で名古屋方面に戻るか、北陸道から上信越道に入るか。まったく違う道なのに、どちらが近いのか、直感的にわからない。そんなことに頭を悩ませるほど、現在の高速移動経路網は発達しているのだと知らされた。
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