掲載日:2026年02月18日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男

YAMAHA JOG E
ヤマハの看板的原付一種スクーター、“JOG”。
その歴史は古く、初代モデルの登場は1983年まで遡る。高度経済成長期を経て、日本の経済がなお上り調子を維持していたこの時代、街には活気があふれ、各メーカーからは次々とニューモデルが送り出されていた。なかでも原付一種スクーターのマーケットは、若者を中心に急速な盛り上がりを見せており、まさに群雄割拠の様相を呈していた。
そうした時代背景の中で登場したJOGは、スタイリッシュなデザインと優れた経済性、そして当時としては軽快でスポーティな走りを高次元でバランスさせた一台だった。結果、若者層はもちろん、扱いやすさを評価した女性ユーザーからも支持を集め、初代モデルから一気にヒットモデルの仲間入りを果たすことになる。

余談ではあるが、1980年代前半はまだ原付一種スクーターにヘルメット着用義務が課される以前の時代でもあった。また、原付一種スクーターブームが最高潮を迎えていた頃には、大手スーパーマーケットの店頭で新車が販売されていた例もあり、JOGを含む原付スクーターがいかに生活に近い存在だったかを物語っている。

JOGという名称はその後すっかり定着し、時代の流行やユーザーの嗜好に合わせて進化を続けていく。走りに特化したホットバージョン、女性ユーザーを意識したポップなモデルなど、キャラクターの異なる派生モデルを展開しながら、JOGは“原付スクーターの定番”として熟成を重ねていった。
しかし、そんなヤマハ自身の歩みが、結果として原付一種スクーター市場に逆風をもたらすことになる。その象徴的な存在が、1990年代に登場した電動アシスト自転車「PAS」だ。人力を基本としながらも電動アシストによって坂道の負担を大きく軽減し、さらにチャイルドシートを装着して子どもを乗せられるという利便性は、特に子育て世代にとって大きな魅力となった。
一方、原付一種スクーターを取り巻く環境は次第に厳しさを増していく。環境負荷低減の観点から、エンジンオイルを燃焼させる2ストロークエンジンは姿を消し、4ストロークエンジンへの転換を余儀なくされたことに加え、都市部を中心とした駐車場所問題も深刻化。こうした要因が重なり、原付一種スクーターマーケットは徐々に縮小していった。
2018年に登場した内燃機エンジン搭載の最終型JOGは、生産をホンダに委ねるかたちで存続していたモデルでもある。かつて激しく競い合ったライバルメーカーによる生産という事実は、原付一種スクーターを取り巻く時代の変化を象徴する出来事だったと言えるだろう。
そして、さらに年月を経た2025年。
JOGはついにBEV(バッテリーEV)モデルへと姿を変え、新時代のJOG――「JOG E」として登場したのである。

今から15年以上も前のことになるが、当時手掛けていたペーパーメディアにおいて、電動バイク(BEV/HEV)をテーマにした連載記事を展開していた時期がある。
編集部では原付一種区分の電動スクーターを実際に所有し、日常使用を前提とした長期インプレッションを紹介していたほか、国内外のさまざまな電動スクーターや電動バイクの試乗インプレッションも積極的に行っていた。
当時は現在以上に多くの電動バイクメーカーが存在し、海外ブランドを中心に次々と日本市場へ参入してきていた時代でもあった。そのため、電動モビリティに触れること自体に明確な“先取り感”があり、紙媒体で取り上げる意義も確かに存在していた。
その後はBEV自動車専門誌の立ち上げにも携わることになり、このまま電動モビリティを専門に追いかけ、評論家として歩んでいく道も現実的に思えたほどだ。
しかし、結果として日本の社会は、電動バイクという存在に本格的に振り向くことはなかった。
一方で、欧州やアジア圏に目を向けると状況は大きく異なる。これらの地域では、日本以上に電動モビリティが生活の中へ浸透しているのは間違いない事実だ。
特に台湾では電動スクーター市場がすでに一巡しており、黎明期に誕生した多くのメーカーは淘汰された。その過程を経て、現在ではGogoro(ゴゴロ)が電動スクーター分野において世界的にもトップクラスのシェアを誇る存在へと成長している。

では、日本国内はどうだろうか。
都市部を中心に電動キックボードのシェアリングサービスが定着しつつある一方で、フル電動自転車の安全性が社会問題化したことを受け、新たに「特定小型原動機付自転車」という区分が制度として整備された。また、原付一種バイクについては該当排気量の上限が引き上げられ、それに対応した新しい“新原付一種”モデルも登場し、一定の評価を得ている。
このように、日常生活における移動手段、いわゆるシティコミューターという視点で見れば、ユーザーが選べる選択肢は確実に広がりつつあると言えるだろう。
ただし、その中で電動スクーターという存在に限って言えば、残念ながら日本ではいまひとつ存在感を発揮しきれていない、というのが正直な現状である。
そのような状況下でニューモデルとして登場したのが、ヤマハの電動スクーター【JOG E】だ。
果たしてこのモデルは、日常の移動手段としてどのような完成度を持っているのか。その使い勝手を、実際に触れながら確かめていきたいと思う。

初対面となったJOG Eは、基本的には従来の原付一種スクーターらしい構成でまとめられている。しかし、よく観察するとカラースキームの選び方やボディパネルに与えられた緩やかな折り目など、随所に斬新さを感じさせるデザインスパイスがちりばめられており、単なる“電動版JOG”にとどまらない、ほどよい近未来感が演出されている点が印象的だ。
ただ一点、個人的に気になった部分もある。JOGといえば、フロントカウルとフロントフェンダーが一体となった独特のデザイン処理が長年のアイデンティティとして受け継がれてきた。その意匠がJOG Eでは踏襲されていない点については、伝統を知る身として、やや残念に感じたのが正直なところである。
車両にまたがってみると、740mmというシート高は低すぎず、かといって足つき性が悪いわけでもない、絶妙なバランスに設定されていると感じた。数値だけを見ると平均的だが、実際にはシート形状や車体幅との組み合わせが効いており、安心感が高い。
身長177cmの私が原付一種スクーターに乗ると、どうしてもポジションが窮屈に感じられることが多い。しかしJOG Eでは、フロントカウルの形状やフットボードの位置関係を含めた全体のバランスが良く、ごく自然な乗車姿勢で体を収めることができた。無理に合わせる必要がなく、乗り手を素直に受け入れてくれる懐の深さを感じさせる。

物理キーを差し込み、イグニッションをオンにする。一般的なセルスターターボタンと同じ位置にあるスイッチを一押しすればシステムがスタンバイ状態となり、あとはスロットルを操作するだけだ。モーター駆動らしく、発進は音も振動もほとんどなく、流れるように、実にスムーズに走り出す。
スロットル操作に対するモーターのツキは素直で、不足を感じさせないどころか、場面によっては力強ささえ感じられる加速を見せる。これまで数多くの電動スクーターに触れてきた経験から見ても、JOG Eの完成度は明らかに高く、「よくできている」という評価に自然と行き着く。
交通の流れが速い幹線道路では、隣を大型トラックが抜き去るような場面で、多少の不安を覚えることもある。ただし、これはJOG Eに限った話ではなく、従来の原付一種スクーターでも共通する感覚だ。その点では、最高速度や車体安定性の面から見ても、特定小型原付よりは安心感があると言えるだろう。

足回りのセッティングも秀逸で、路面からの入力をうまくいなし、全体として乗り心地は良好だ。こうした細部の作り込みや設計の巧みさに触れると、JOG Eが日本の大手メーカーであるヤマハによって手掛けられたモデルであることを、あらためて実感させられる。
一方で、電動スクーターならではの静粛性については、少し考えさせられる部分もあった。
静かな方が良い——私自身そう思っているが、“無音”に近い状態にはメリットだけでなく、デメリットも存在する。
ロンドン衛生熱帯医学大学院の研究チームが発表した論文によれば、BEVやHEVはICE(内燃機関車)と比較して、歩行者が負傷する確率が高い傾向にあり、条件によっては約2倍、歩行者の多い都市部や住宅地に限定すると約3倍に達するケースもあるとされている。その一因として指摘されているのが、BEVが持つ高い静粛性だ。
四輪車では、車両接近通報システム(AVAS)の搭載がすでに義務化されているが、電動バイクに関しては、現時点では明確な義務付けは行われていない。

JOG Eの大きな特徴のひとつとして挙げられるのが、バッテリーシェアリングサービス【Gachaco(ガチャコ)】に対応している点だろう。日本において電動モビリティの普及が遅れている最大の要因のひとつは、充電インフラの問題にあると言っていい。
自動車でさえ、充電規格が複数存在することが、グローバルな視点で見ても普及の足かせとなっているが、電動バイクの場合、その課題はさらに深刻だ。というのも、原付一種スクーターをはじめとするシティコミューターの最大の魅力は、「気軽に乗れる」ことにあるからだ。
内燃機関を搭載するモデルであれば、ガソリンスタンドに立ち寄って給油するだけで済み、航続距離も十分に長い。一方、電動アシスト自転車や電動キックボードであれば、バッテリー自体が比較的軽量なため、力に自信のない人でも自宅に持ち帰って充電することができる。
では、電動スクーターの場合はどうだろうか。
ガレージや駐輪場に電源が確保できれば問題はないが、集合住宅ではそう簡単にいかないケースも多い。かといってバッテリーを取り外し、室内に持ち込んで充電するとしても、それなりの重量があるため、毎日のこととなれば億劫に感じてしまうのは想像に難くない。

ここで、JOG Eの航続距離について触れておこう。
バッテリーをフル充電した状態での走行距離は、おおよそ約50kmとされている。
仮に通勤や通学、買い物などで往復20kmの移動を1日に2回行うとすれば、その日のうちに充電が必要になる計算だ。
私自身、過去に電動スクーターを所有していた経験がある。実際に使ってみると、想像していたほど不便さを感じることはなく、電動ならではの扱いやすさや快適さを実感できたのも事実だ。ただ、それでもなお、充電にまつわる課題を意識せざるを得なかったというのも正直なところである。
そこで注目したいのが、Gachacoの存在だ。
Gachacoは、バッテリーステーションにあらかじめ充電されたバッテリーパックを用意し、それを車両側のバッテリーと交換するという仕組みを採用している。つまり、セルフ式のガソリンスタンドを利用する感覚で、短時間のうちにバッテリー交換を行うことができるというわけだ。

実はこのようなバッテリー交換式インフラに関して、日本は決して先行しているとは言えない。
2010年代には、台湾のGogoroが同様のシステムをいち早く実用化し、台湾国内はもちろん、海外にも展開することでインフラを整備してきた。日本でも沖縄など一部地域で試験的な導入が進められてきたものの、全国規模で見れば、まだこれからという段階にあるのが現状だ。
なお、台湾でこの仕組みが普及した背景には、台湾全土に展開する大手スーパーマーケットへバッテリーステーションを設置したことが、大きな要因として挙げられている。生活動線の中にインフラを組み込んだ点は、非常に示唆に富んでいる。
今回、JOG Eに試乗して強く感じたのは、車両そのものはすでに完成の域に達しているということだ。あとは、それを本気で社会に広げていく主体が現れるかどうか。その一点に、JOG E、ひいては電動スクーター全体の未来がかかっているのではないだろうか。

定格出力0.58kWのインホイールモーターを搭載。最高出力は2.3馬力、最大トルクは90Nmとなっている。やや下り坂では50km/h程度をマーク(私道内)。パフォーマンスは、日常生活で使用する分には不足はないと感じた。

メーターディスプレイはいたってシンプル。原付一種スクーターに求めるブブではないのかもしれないが、欲を言えば、スマートフォンと連動できるなど、もう少しひねりがほしいところではある。

フロントカウル裏の左右にユーティリティスペースが設けられているほか、USB充電ソケットやコンビニフックなど、使い勝手もよく考えられている。物理キーを使用するが、いたずら防止シャッターもしっかり備わっている。

ハンドルマウントタイプのヘッドライトを採用しているため、コーナーでは進む方向を照らしてくれる。カラーリングやライト及びウインカー形状など、近未来的なデザインエッセンスを取り入れている。

やはり国内大手メーカー、ヤマハが手掛けているなと思うのは、走らせた上で伝わってくる足回りのセッティングだ。もちろん、原付一種スクーターレベルである。しかし、他の聞きなれないブランドの電動スクーターを知っている身としてはやはり良いのである。

シート下には動力用バッテリーが収まるほか、多少のユーティリティスペースも設けられている。重量物(バッテリー)を中央に寄せ、マスの集中化を図った上で荷室も用意する。十分頑張ったレイアウトになっていると思う。

ホンダ製の交換式バッテリー「Honda Mobile Power Pack e:」を採用。なお東京・大阪地域限定先行発売のJOG Eはバッテリーと充電器は付属されておらず、車体のみの販売となっている。

フラットなフットボードを採用しており、足元にゆとりがある。シンプルでありながら、実用性が高い。原付一種スクーターに求めるのは、結局こういうところなのである。

ヘッドライトからテールランプまで、灯火類はすべて視認性/被視認性に貢献するLEDを採用している。テールセクションの造形は、JOG Eの独特なボクスィな雰囲気を助長している。

リアサスペンションはツインショック。ブレーキは、左手側のブレーキレバー(後輪ブレーキ)を操作すると、前輪も作動するコンビブレーキを採用している。

Gachacoのバッテリーステーションにて、充電済みバッテリーと入れ替え、使用することができる(要契約)。現在東京都内で約50箇所。頑張っていると思うが、私の住むエリアにはまだない。








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