掲載日:2026年08月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男

HONDA PCX
正直なところ、初代PCXが登場したときはかなり驚いた記憶がある。
2010年3月に国内販売が始まったPCXは、当時流行していたビッグスクーターほどの迫力こそないものの、125ccクラスとしては堂々たるサイズ感を備え、それまでのコミューターとは明らかに異なる存在感を放っていた。

未来を感じさせる流麗なフォルムは、街中でもひときわ目を引き、「スクーターにもここまでデザイン性を持たせられるのか」と感心したものだ。

印象的だったのはデザインだけではない。
PCXは世界各国で同じ世界観を共有しながらヒットした数少ないスクーターでもある。タイ生産による優れたコストパフォーマンスも追い風となり、アジアを中心に瞬く間に人気モデルへと成長。海外取材で現地を訪れるたび、PCXオーナーズクラブのツーリングや、驚くほど充実したカスタムパーツマーケットを目にする機会も少なくなかった。「日本で人気のスクーター」という枠をはるかに超え、世界中で愛される存在になっていたのである。

その人気の理由は実にシンプルだ。
ストレスなく走り、誰が乗っても扱いやすい。そして日常生活のあらゆる場面に自然と溶け込む。
通勤・通学はもちろん、買い物や週末のちょっとしたツーリング、タンデムまで無理なくこなす万能さは、歴代PCXに一貫して流れる哲学でもある。

私の身近にも兄弟や友人をはじめPCXオーナーが何人もいるが、特別にバイク好きというわけではない人まで自然とPCXを選んでいる姿を見るたび、「よくできた道具」という評価が決して誇張ではないことを実感する。
以来、PCXは2014年、2018年、2021年と着実に進化を重ねてきた。灯火類のフルLED化、スマートキーの採用、大容量燃料タンク、新設計eSP+エンジン、Honda セレクタブルトルクコントロール(HSTC)など、派手な変化ではなく、ユーザーが感じる小さな不満を一つひとつ潰していくような改良を積み重ねてきたのである。
そして2025年、その思想をさらに磨き上げた現行モデルへと駒が進められた。
現行PCXを眺めて最初に感じるのは、「変わらない」ことである。
もちろん細部は大きく変化している。しかし、遠くから見ても一目でPCXとわかるプロポーションは初代から一貫して受け継がれている。自動車でいえば911やMINI、二輪ならスーパーカブのように、時代を超えてアイデンティティを守り続けるデザインは決して簡単に築けるものではない。
そして、この"変えない勇気"こそが、PCX最大の武器なのだろう。

一方で、中身は着実に進化している。
2021年に刷新された4バルブヘッドのeSP+エンジンは現行モデルにも受け継がれ、軽快さと扱いやすさを高いレベルで両立。ラゲッジスペースやUSBソケット、HSTCといった実用装備も継続採用され、日常の使い勝手をさらに高めている。

そしてスクリーン形状の進化は、見た目だけでは分かりにくい変更点だが、走り出した瞬間、その違いはすぐに体感できる。上半身へ当たる風がうまく整流され、市街地ではもちろん交通の流れの早い幹線道路での走行時に疲労感が確実に軽減される。こうした改良はカタログスペックでは目立たない。しかし、毎日乗るオーナーほど、その恩恵を実感できるポイントだろう。

PCXは毎回劇的に変わるモデルではない。
しかしモデルチェンジのたびに、確実に完成度を上げてくる。
それこそが16年もの長きにわたりトップセラーであり続ける最大の理由なのである。
試乗した日は、とにかく暑かった。
危険な暑さという表現が大げさではないほどの猛暑で、撮影を進めているだけでも体力が奪われる。実際、この日の取材後には軽い熱中症のような症状に見舞われたほどだ。
そんな過酷な環境だからこそ、PCXというスクーターの完成度がより鮮明に見えてきた。

まず車体が軽いため取り回しで体力を奪われることがない、そして発進は実にスムーズで、アクセル操作に対する反応も自然。低速域では扱いやすく、市街地のストップ&ゴーでも神経を使わない。路面の継ぎ目を越えても車体は落ち着きを失わず、幹線道路など速度が上がる場面でも不安なくスロットルを開けていける。
私自身、歴代PCXには何度も乗ってきたが、「ここまで熟成されたか」と感じたのは今回が一番だった。

フットボード形状やライディングポジションも世代を追うごとに洗練され、自然な姿勢で乗り続けられる。長時間走っても疲れにくい理由は、こうした細かな積み重ねにあるのだろう。

低速域のドライバビリティも非常に優秀で、街中ではスロットルワークに気を遣う場面が少ない。USBソケットは今や必須装備といえるし、HSTCも雨の日やマンホールの上などで、ライダーが意識しないところで安心感を支えてくれている。

唯一気になった点を挙げるとすれば、アイドリングストップをオフにした状態での微振動だ。
走行中は驚くほど滑らかなだけに、停車中の振動は少しだけ存在感を感じる。しかし、アイドリングストップそのものの完成度が非常に高く、再始動も違和感なく自然なため、実際にはオフにしたくなる場面自体がほとんどない。弱点というより、あえて挙げるならここ、という程度である。

なによりも改めて感じたのは、「街で見かけるだけでPCXだと分かる」というスタイリング、それによる価値の大きさだ。
四輪の世界でいえば911やミニ、二輪であればスーパーカブに近い、デザインアイデンティティの継承。これは一朝一夕には築けない、ブランドの積み重ねそのものだ。

スクーターは本来、生活を支える道具である。しかしPCXは、その実用性だけでなく、一つのブランドとして認知される存在にまで成長した。これは長年にわたってデザインを守りながら、着実に中身を進化させ続けてきた結果にほかならない。
販売台数がトップクラスであり続け、買取市場でも高い人気を維持している理由は、スペック表だけでは語れない。
乗れば分かる。使えば分かる。そして街で見かければ、誰もが「PCXだ」と気付く。
その積み重ねこそが、このスクーターを"街の顔"へと押し上げた最大の理由なのである。

水冷4ストロークOHC4バルブ単気筒の「eSP+」を搭載。マフラー内部構造とキャタライザー配置を最適化して排気抵抗を低減しつつ、油圧式カムチェーンテンショナーリフターやダブルコグ構造のドライブベルト、高剛性クランクシャフトの採用で、低フリクション化と振動・騒音低減も同時に実現している。

流麗で伸びやかなフォルムを基調に、ボディー各部がつながる塊感のある造形とし、そこにエッジラインを効かせて光と影のコントラストを演出。LEDヘッドライトはポジションランプやウインカーとの一体感も追求され、フロントまわり全体で上質かつアクティブな表情を作り出している。

大きく見やすい位置に配した液晶メーターパネルは、メーター枠やウインカーとのまとまりを強化したワイドな形状。さらにエクステリアと呼応するシルバー塗装のハンドルカバーが新たに採用され、コクピットまわり全体がよりスタイリッシュな印象へとまとめ上げられている。

ポケットやバッグにキーを入れたまま、イグニションのON/OFF、ハンドルロックの施錠/解錠、シートとフューエルリッドの解錠操作までこなせるHonda SMART Keyシステムを採用。ボタン操作でウインカーを点滅させ位置を知らせるアンサーバック機能やイモビライザー機能も備わっている。

ハンドル左側には、ヘッドライトのハイ・ロー切り替えを行うディマースイッチやウインカースイッチ、ホーンボタンといった基本操作系を集約。日常的に頻度の高い操作を左手側にまとめることで、右手はスロットル操作に集中しやすいレイアウトとなっている。

スターターボタンに加え、ハザードスイッチ、アイドリングストップの作動ON/OFFを切り替えるスイッチが備わる。信号待ちなどでアイドリングストップを一時的にカットしたい場面でも、ワンタッチで手元操作できる使い勝手の良さが光る。

500mLペットボトルなどが収まるフロントインナーボックスを装備。乗車姿勢のままでも荷物の出し入れがしやすく、内部にはUSB Type-Cソケット(5V・3A以下)も備わっているため、スマートフォンなどの充電を走行中に行えるのも実用的だ。

容量30Lを確保したシート下ラゲッジボックスは、ヘルメット1個の収納にも対応する余裕あるスペース。シートを開閉途中の位置で固定できるストッパー機能を備えており、両手がふさがっていても荷物の出し入れをスムーズに行えるよう配慮されている。

足つきの良さを追求した座面形状としながらも、十分な広さを確保したシート。ブラックの表皮が車体全体の質感を引き立て、適度な座り心地のクッションが長距離でも疲れにくいライディングに貢献する。シート高は764mmで、幅広い体格のライダーに対応する。

フットスペースにゆとりを持たせた設計とすることで、着座位置の自由度が高いシートとの相乗効果を発揮。足をそろえて置いても、前方に投げ出すように伸ばしても窮屈さを感じにくく、ライダーの好みや身長に合わせて姿勢を選べる懐の深さがある。

フロントにはテレスコピック式サスペンションと、5本のY字スポークが上質感を演出する14インチホイールを採用。φ220mmの大径ディスクブレーキに1チャンネルABSを組み合わせ、剛性バランスの最適化と相まって安定感のある操縦性とブレーキング時の安心感を高めている。

リアはユニットスイング式サスペンションを採用し、クッションストロークを95mmに設定。路面の凹凸からの突き上げをしなやかに吸収する。13インチホイールにはφ220mmのディスクブレーキを組み合わせ、幅広タイヤとともに走行時の安定感を支えている。

独自の発光技術で光の立体感を生み出すLEDテールランプを新たに採用。テール・ストップ・ハザードが同時点灯すると特徴的な「X」形状が浮かび上がり、後方からもPCX125らしさを強調する。グラブレールはタンデム時のグリップとしても機能し、別売トップボックスの専用取付部も兼ねている。







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