掲載日:2026年04月14日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男

YAMAHA JOG ONE
かつて、日常の足として圧倒的な存在感を放っていた原付一種。しかし近年、その立ち位置は大きく揺らいでいた。背景にあるのは排出ガス規制の強化だ。小排気量ゆえに余裕の少ない50ccエンジンでは対応が難しく、従来型の継続はコスト面でも現実的ではなくなっていたのである。

そうした状況を受け、2025年に施行されたのが新しい原付一種規格だ。従来の50ccという排気量基準から、125ccクラスのエンジンをベースに最高出力を抑制する仕組みへと転換。扱いやすさや実用域での余裕を確保しながら、従来と同様に原付一種として扱える点が大きな特徴となっている。まさに“現代の交通環境に最適化された原付”と言える存在である。
背景には、都市部における移動ニーズの変化もある。公共交通機関に頼らないパーソナルな移動手段への関心の高まりや、自転車に対する交通ルールの厳格化など、日常の足を取り巻く環境はここ数年で大きく様変わりした。そうした中で、改めて“手軽に乗れて、しっかり走れる”モビリティが求められているのだ。

その答えのひとつとして登場したのが、ヤマハのJOG ONEである。従来の延長線上にありながらも、その中身は大きく進化。扱いやすさと走行性能を高次元で両立させた新基準原付として、これからのスタンダードを担う存在となり得る一台だ。
それではJOG ONEはどのような思想のもとで生まれ、どんな特徴を備えているのか。まずはヤマハのスクーターづくりの歩みとともに、その成り立ちを紐解いていこう。

ヤマハのスクーター史を語るうえで、「JOG」という名前は欠かすことのできない存在だ。1980年代から90年代にかけて、軽量コンパクトな車体にキビキビとした走りを備えたJOGは、“スポーツスクーター”というジャンルを象徴するモデルとして高い人気を誇っていた。
当時の原付市場は、単なる移動手段にとどまらず、走りや個性を楽しむカルチャーとしての側面も色濃かった。そうした中でJOGは、軽快なハンドリングと俊敏な加速性能を武器に、多くのライダーを惹きつけてきたのである。

しかし、時代の流れとともにスクーターに求められる価値は変化していく。環境性能や燃費、扱いやすさといった実用性が重視されるようになり、かつてのような“速さ”一辺倒のキャラクターは徐々に姿を変えていった。JOGもまた、その要請に応じながら進化を重ね、より日常に寄り添う存在へとシフトしていったのである。

その流れを象徴するのが、50ccモデル末期におけるOEM供給の存在だ。最終型のJOGはホンダのプラットフォームをベースとしたモデルとなり、ヤマハとしても効率を重視した商品展開へと舵を切っていた。排出ガス規制の強化や市場規模の縮小といった背景を踏まえれば、これは極めて合理的な判断だったと言えるだろう。

一方で、125ccクラスに目を向ければ状況は異なる。グローバル市場で強みを持つヤマハは、この領域において自社主導の開発を継続しており、現在のJOG125もその流れにあるモデルだ。つまりJOGというブランドは、一時的にOEMへと委ねられながらも、本来の“ヤマハらしさ”を内包した形で再構築されてきたのである。

そして迎えた新基準原付の時代。その第一弾としてJOGの名が与えられたことは、決して偶然ではない。軽快さや扱いやすさといった従来の美点を継承しつつ、現代の法規や交通環境に適応する──その役割を担うモデルとして、JOGは最もふさわしい存在だったと言える。
言い換えればJOG ONEは、単なる新型車ではない。スポーティスクーターとしての原点、実用車としての進化、そしてOEM期を経た再定義。そのすべてを内包しながら、“これからの原付像”を提示する一台なのである。
では、そのJOG ONEは実際にどのような仕上がりとなっているのか。ここからは、実際の試乗を通じて感じたリアルな印象をお伝えしていこう。
実際にJOG ONEへと跨り走り出してみて、まず感じたのは“想像以上の速さ”だった。従来の50ccモデルと比較すれば、その差は歴然。むしろ、かつての2ストローク時代の高出力モデルと比べても、体感的にはそれ以上の余裕を感じさせる加速性能を備えている。
この余裕は、単なる速さにとどまらない。交通の流れが速いバイパスや幹線道路においても、周囲に気を遣いすぎることなくスムーズに走れる安心感へとつながっている。これまでの原付一種では難しかったシチュエーションにも、無理なく対応できる懐の深さがあるのだ。

その一方で、車体はあくまでコンパクトかつ軽量。取り回しのしやすさや扱い感は従来の原付一種そのものであり、誰でも気負わず扱える敷居の低さを備えている。タイヤ径が小さいこともあり小回り性能にも優れ、街中でのストップ&ゴーや狭い路地での扱いやすさは非常に高いレベルにある。
足まわりに目を向ければ、前後ドラムブレーキという構成ながら、その制動力は必要十分以上。さらに前後連動式を採用していることで、急制動時でも挙動が安定しやすく、タイヤのロックを招きにくい点も安心材料だ。日常域での扱いやすさを重視した、理にかなったパッケージと言えるだろう。

また、シート形状にも注目したい。ベースとなるJOG125から見直しが図られ、やや前方に着座させる設計とされたことで、自然と車体をコントロールしやすいライディングポジションとなっている。軽快なハンドリングと相まって、意識せずともアクティブに走らせたくなるフィーリングがあるのは、いかにも“JOGらしい”ポイントだ。
実用面においても抜かりはない。シート下スペースは十分な容量を確保し、給油口をフロント側に配置したことで日常での使い勝手も良好。まさにJOG125譲りの利便性が、しっかりと活かされている。

ただし、そのパフォーマンスの高さゆえに気になる側面もある。クローズドコースでのテストでは、メーターの針が大きく振り切れるほどの速度域に達した。これはポテンシャルの高さの証明でもあるが、現行の原付一種に課される時速30km制限や二段階右折といった法規は変わっていない。この“性能と制度のギャップ”は、今後の課題として残る部分だろう。

とはいえ、総合的に見ればJOG ONEは極めて完成度の高い一台である。軽快さと扱いやすさ、そして日常での実用性を高い次元でバランスさせたその仕上がりは、まさに通勤通学快速と呼ぶにふさわしいものだ。
そして何より、これまで原付一種に乗ってきたユーザーにこそ体感してほしい。新基準によってもたらされたこの走りの余裕と安心感は、従来の常識を確実に塗り替えるものだからである。

環境性能に優れたヤマハの“BLUE CORE”エンジンを採用。排気量は125ccながら、新基準原付一種に適合するよう出力を最適化している。低燃費と扱いやすさを両立しつつ、従来の50ccを大きく上回る余裕ある走りを実現しているのが特徴だ。

シャープなラインで構成されたフロントマスクは、JOGらしいスポーティな印象を強調。ヘッドライトとウインカーをバランスよく配置し、中央にはエアインテーク風のデザインを採用することで、軽快さと機能性を視覚的に表現している。

シートは735mmと低く設定し、着座位置をやや前寄りに抑えるシングルシート形状を採用。自然と車体をコントロールしやすいポジションが取れる。後部にはグラブバーも備えられ、荷物の固定にも配慮された実用的な設計となっている。

扱いやすさに直結するフラットなステップスルーボードを採用。乗り降りのしやすさはもちろん、荷物を足元に置けるなど日常での利便性は非常に高い。原付スクーターらしいシンプルかつ機能的なレイアウトが魅力だ。

CVTによるスムーズな駆動フィールを実現し、街中での扱いやすさを重視したセッティングとなっている。リアサスペンションはシンプルな構成ながら、日常域での快適性を確保。軽量な車体との組み合わせにより、軽快な走りを支えている。

フロントカバー裏には、シャッター付きイグニッションをはじめ機能を集約。右側には600mlペットボトルサイズのポケット、左側には給油口を配置し、中央には折り畳み式フックも備える。日常での使い勝手を考えた、実用性の高いレイアウトだ。

シート下には容量約21.3Lの収納スペースを確保。形状によってはヘルメットの収納も可能で、給油口をフロント側に配置したパッケージングの恩恵が感じられる。実用車としての完成度を高める重要なポイントだ。

コンパクトにまとめられたテールまわりは、シャープな造形のランプ類が印象的。ヤマハのYZF-Rシリーズを想起させるデザインとすることで、実用スクーターでありながらもスポーティなキャラクターをしっかりと主張している。

幅を抑えたハンドルは、狭い道でも扱いやすく初心者にも優しい設計。自然な操作感と軽い取り回しにより、街中でのストレスを軽減してくれる。車体のコンパクトさと相まって、日常での扱いやすさを強く印象づける。

視認性に優れたシンプルなアナログメーターは、基本構成こそJOG125を踏襲しつつ、新基準原付に対応した速度警告灯を追加。必要な情報を瞬時に把握できるレイアウトとすることで、日常走行での安心感と扱いやすさを高めている。

センタースタンドとサイドスタンドの両方を標準装備。安定して駐車したい場面ではセンター、ちょっとした停車ではサイドと、シーンに応じた使い分けが可能だ。日常的な扱いやすさに直結する、実用性の高い装備と言える。

前後ともにドラムブレーキを採用しつつ、前後連動式とすることで安定した制動力を確保。タイヤサイズは前後同一の90/90-10とし、軽快なハンドリングと取り回しの良さに貢献している。街中での扱いやすさを重視した構成だ。








愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!