掲載日:2022年06月24日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
Nicot Motorcycle PT125
125ccのメリットはなんと言っても任意保険をファミリーバイク特約で賄うことができる点である。特にどうしても保険料が高額になってしまう若者にとって、このメリットはとてつもなく大きい。しかし現在、日本の国産メーカーのラインナップから125ccのオフロードバイクは姿を消している。中古市場を見回すとかろうじて、KLX125が存在するが、成人男性にはその車体サイズは少し窮屈に感じるだろう。そして海外メーカーに目を向けるとBETAのRR4T125LCやアプリリアのRX125といったフルサイズモデルがラインナップされているが、今度は価格の壁が立ち塞がる。
その点、このニコットモーターサイクルのPT125は、重量、見た目、価格、パワー、どれをとっても初心者向けの公道用オフロードバイクとして最適なのである。
まるでモトクロスレーサーのようなシルエットを持つPT125は、紛れもなく一般公道用マシンだ。見た目はすごく速そうだが、積載している4ストローク125ccの空冷エンジンは、お世辞にもパワフルとは言えない。そのため、用途としては通勤・通学などの街乗りと、フラットな林道ツーリングがメイン。フロント19インチ、リア16インチとワンサイズ小さいタイヤサイズだが、高いシート高とハンドルバーのライズアップのおかげで、かなりフルサイズに近いライディングフォームで乗ることができる。
4段変速のマニュアルクラッチで、国道での60km/h巡航は何の問題もなくこなせる。スプロケットがフロント13丁、リア43丁とかなりロング寄りなので、パワーの伝わり方も極めてマイルドで初心者にも乗りやすい。しかしその分、林道で少し登り坂が現れると苦労するため、そういう用途に使う場合は多少のカスタマイズを推奨したい。エンジンはよくあるカブ型の横置きエンジンのため、キャブやハイカムなどのカスタムパーツが世界中に溢れている。さらにスプロケットをショートにしてあげれば、ちょっとした難所もぐいぐい登る、本格的な林道ウエポンの出来上がりというわけだ。カスタムが苦手な人は全国に50店以上展開する取扱店で相談してみてほしい。
驚いたのは、その車体だ。オフロードバイクは、エンジンパワーよりもフレームやサスペンションといった車体の部分でその性能が大きく左右される。どんなにパワーのあるエンジンを積んでいても、それが地面にうまく伝えられなくては意味がない。その点が、このPT125はとても優秀だった。フレームは一見しても特別なものではない。パイプ径は細めでアンダーボーンもなく、どうみても剛性は高くなさそうだ。
しかし、サスペンションがかなりしっかりしている。「硬い」と言ってもいいだろう。フロントフォークはコンプレッションとリバウンドの調整機構がついているが、リアショックには存在しないため、大きくその特性を変えることはできない。しかしこの硬めのサスがフレームの柔らかさを補ってくれて、ブレーキング時の腰砕け感や気持ちの悪いピッチングを引き起こさずに済んでいるのではないか、と感じた。さらに純正でテーパー形状のハンドルバーを採用している点も、それを補助している。
そのため、エンジンパワーだけカスタムで強化すれば、そのままレースなどでも使えるほど優秀な車体に仕上がっている。ちょっとしたジャンプなら問題なく飛べそうだし、最低地上高も高いため岩場にも低リスクで突っ込んでいける。もちろんそれだけの性能があれば林道ツーリングも快適そのもの。
そして89kgという車重も大きなメリットの一つだ。圧倒的に軽いため、街中でもまるでカブのような感覚でストレスなく乗れるし、濡れた舗装路でタイヤが滑ってもコントロールを失わず、焦らずに持ち直すことができる。さらに燃費も素晴らしく、輸入元のアライブプラスによると一般公道での実測で28km/Lとなっている。燃料タンクは8Lあるため、オフロードタイプとしては航続距離も申し分ない。さらに前後ともディスクブレーキを装着しているため、非力なパワーに対しては十分なブレーキ性能を持っている。
もしもデメリットを挙げるとするならば、積載性が皆無なことと、二人乗りが想定されていない(タンデムステップが装着されていない)ことくらいだろうか。
灯火類はすべてLED。ヘッドライトは無灯火、ポジション、ロー、ハイの4パターンで切り替え可能だ。まるでヨーロッパのエルズベルグバイクのようなデザインも魅力。
モニターにはスピードメーター、タコメーターの他に走行距離計もあり、トリップとオドが切り替え可能。さらにバッテリー残量も表示されているが、万が一バッテリーが上がってもキックスターターがついているので、安心。そして一番嬉しいのが、ギアポジションインジケーターだ。
前後ウインカーももちろんLED。通称「流れるウインカー」、シーケンシャルウインカーを採用。これをかっこいいと思うか、微妙と思うかは悩ましいところだ。
エンジンは空冷SOHC2バルブ単気筒124cc。エンジンの型式は中国製のYXW12。スーパーカブなどと同じ横置きタイプだ。世界中で同じような型のエンジンが販売されているので、カスタムパーツなどの汎用性は高い。
マフラーはかなりショート&コンパクト。軽量化にも繋がっているし、ライディング中に邪魔に感じることもない。音量はうるさくないのに、小気味よい排気音でノーマルなのにカスタム済みのような気分になれる。
今や絶滅危惧種とも思われるキックスターターがついている。セルスイッチもついているので、基本は使うことはないが、万が一バッテリーが上がってしまっても安心だ。
ステップもノーマルから本気仕様。幅が広くて足に荷重がかけやすいため、コーナーなどでの操作性が高い。さらに大きな穴がたくさん空いていて、泥や石が詰まりにくい構造になっている。
ハンドルバーは根本が太く、先端は細い、いわゆるテーパー形状を取っているため、剛性が高い。未舗装路を走る際に手に伝わる振動を軽減してくれ、ヨレも少ない。万が一転倒しても曲がりにくい。
スタイリッシュなスタイルの大きな要因になっているのは、このシート。座る部分が凹んでおらず、自由な位置に座ることができるため、ライディングの幅が広がる。シート高は875mmと高めだが、マシンの幅が狭いので、足が直線的に地面に伸び、足つき性は良好。
燃料タンクは8L。オフロードバイクとしては標準的なサイズで、タンクが邪魔してシュラウドが大きく膨らんだり、ということもないため、足なども出しやすいデザイン。
純正でエンジンガードも装備されている。最低地上高も310mmと高いため、石や木の枝などが落ちている荒れた林道も安心して入っていける。
前後サスペンションはストロークも長く、動きもしっかりしている。フロントフォークは上部にコンプレッションとリバウンドの調整機構あり。リアショックはプリロードも含めて調整できない。
前後ともにかなりガチめなオフロードタイヤが標準装備。メーカーは中国のCHAOYANG。フロント19インチ、リア16インチのいわゆるミニモトサイズなので、カスタムの選択肢は多い。
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