掲載日:2022年03月23日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/伊井 覚
PHOENIX ENGINEERING GUNNER100
原付というカテゴリーは、今の日本にとってすこぶるコスパの良い移動手段の一つと言える。しかし50ccだと30km制限や二段階右折などにストレスを感じる場面も多く、やはり原付二種は都市部の移動にはかなり高い利便性を誇るのだ。
そしてその中でもスクーターではなく、ギアチェンジのあるモデルはバイクらしい操作感も同時に楽しむことができるのだ。そんな原付二種という人気カテゴリーに参戦してきたフェニックスエンジニアリングのガンナー100は、その見た目のインパクトからも若者を中心に人気が出てきている。では、走りの性能はどうなのだろうか?
まず跨ってみての第一印象は「思ったよりも大きい」だった。写真で見ていただけの時には昔のモンキーやKSRのように小型のバイクをイメージしていたが、そうではなく、イメージとしてはスーパーカブに近い。これは50ccモデルも同様だ。ハンドルがかなり高くなっているのでそう思わせてくれるのかもしれない。
燃料の供給装置はインジェクションではなくキャブレターなので、最初の始動には少しだけ気を遣う。気持ちスロットルを開けてあげてセルボタンを押す。一度エンジンが始動すれば、すぐにアイドリングが安定してくる。キックスターターもついているあたり、年配ライダーにも嬉しい機構だ。97ccという排気量のため、初速の勢いはないが、しっかりと低速の粘りがあるエンジンだ。「ストトト」という単気筒の小気味よい排気音を楽しみながらアクセルを開けていく。1速はほとんど進まないため、常用としては2速か3速になるだろう。4速まで上げれば国道を法定速度で走ってもまだ余裕を感じることができた。
驚いたのが、その重心バランスだ。身長173cmの僕が装着されたシート位置に座ると、おそらく結構なリア荷重になるのだろう。というのも、ハンドルのステアリングがすごく軽くて、「これじゃあスピードを出したらフロントが振れそうだな」と思ったのに、いざスピードを出してみても全く振れる気配がなかった。結論としては、リア荷重なのではないだろうか、と。しかしそれが悪いかというとそんなことはなく、しっかり考えられているんだなと思った。その理由はサスペンションにある。フロントサスがかなり柔らかめの設定でよく動き、対してリアサスはかなり硬くてほとんど沈まない。つまり、リア荷重くらいで乗るのがちょうどいいバランスのバイクなのだ。
それがわかってしまえば、あとは楽しいだけだった。ブレーキは前後ディスクブレーキでかなり効きがよく、フロントを使いすぎるとサスが沈むので、リアブレーキをメインに使いつつ、フロントは姿勢制御用に補佐として取っておく。ブレーキは正直言ってオーバースペックなのだが、そこに絶対的な安心感があるため、いくらでもアクセルを開けられる。もちろん普通の公道では十分な加速区間が取れないため、滅多なことでは法定速度はオーバーしない。そんな手のひらの中に収まるスポーツ感覚が、最高に楽しいのだ。
車体がコンパクトなのでホイールベースが短く、ハンドルの切れ角も大きいため、小回りはすごく効く。Uターンにはまったく気を遣わないし、楽しさすら感じる。ちょっと前に試乗した電動バイクの感覚に近いものを感じて分かったのは、これが「オモチャ感」なのだろう。この感覚は250cc以上のバイクではどうしても味わえない。乗るときに一切気負うことがなく、平常心のまま乗れて、走っていれば心が踊り、降りるまで緊張するシーンは一度もない。
そしてやはり珍しいバイクだからか、可愛い見た目からか、走っていると多くの人に見られる。撮影中もバイク好きな方が話しかけてくれて、休憩しながらバイクトークに花が咲いた。これだけ走れれば峠道に持っていけばさぞ楽しいだろう、と思ったけども、さすがに100ccでは高速道路が走れないので、今回は見送り。実はこのガンナー、2022年のモーターサイクルショーで125ccもお披露目されたとのことなので、そちらも試乗の機会を楽しみにしたい。
エンジンは空冷4ストローク単気筒の97.2cc。50ccと同じ横置き。フレームに対し、だいぶスペースが余っていて整備性も良さそう。125ccモデルでは縦置きエンジンになるらしく、また違った乗り味が楽しめそうだ。
ヘッドライトはメインフレームと直結されたタンクの前面についている。見ての通りサイズも大きく、明るさに不足はない。右手スイッチボックスにオンオフ切り替えスイッチがついているのが、一昔前のバイクを思い出させてくれる。
リアのテールランプも、タンクの後方についている。ちょっとイタリアの高級バイクっぽいデザインに見えなくもない。実は50ccで一度マイナーチェンジを経ており、100のボディは2型をベースに作られているため、少し丸みを帯びている。
50ccのマイナーチェンジではリアショックの角度にも調整が施されたという。2型、つまり100も初期型と比べて少しサスが立っている。プリロードの調整機構がついているので、セッティング次第で少し前後バランスも変更可能だろう。
フロントサスペンションは一般的なバイクと違い、フレーム下から伸びている。ストロークはかなり短いが、しなやかに動くため、段差や凸凹のショックはしっかり吸収してくれる。
ガソリンタンクはメインフレーム内に格納されている。この機構が斬新なデザインを成立させているのだ。容量は4.5L。製造元のタイではガソリンの種類が多いことが有名だが、日本のレギュラーガソリンで問題ないとのこと。
シートはタンク後方に装着されている。100ccなので法規上はタンデムが可能なのだが、ガンナー100では想定されていない。こちらも2型になって取り付け方法が変更され、快適な乗り心地に繋がっているのだとか。
メーターはデジタル表示。回転数、速度、距離計、ガソリン残量が表示される。なお、ニュートラル時だけだが、ギアポジションが表示されるのは嬉しい。遊び心あふれる仕様として、表示される数字の色を7色の中から選ぶことができる。気分に合わせて変更してみるといいだろう。
タイヤサイズは前後ともに12インチ。ブレーキディスクは前220mm、後190mmとホイール・排気量に対して大きめのものが装着されている。タイヤはFUJIYAMA製。
いま流行りのネオクラシックモデルさながら、ナンバーのステーはスイングアームから片持ちで出ている。この機構のおかげで全体のシルエットが美しくまとまっているのだ。
特徴的なのが、リアブレーキペダル。シフトレバーは一般的な形状なので、少し驚き。ちなみにステップ位置と比べてペダルが少し高めに設定されているので、とても踏みやすいのと、踏んでいる感覚がわかりやすいので、力加減の調節が容易だ。
セルスターターの他にキックペダルが装着されている。万が一バッテリーが上がってしまったり、電装系にトラブルがあってもエンジンがかけられるのは嬉しい。SRがモデル落ちした今、なかなか味わうことができない貴重な体験ができる。
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