
1960年代から70年代にかけて生まれた数々のバイクの中でも、今なお多くのライダーから憧れの的となっているのが1969年に登場したカワサキ500SSから始まる2ストローク空冷3気筒エンジンを搭載した「カワサキトリプル」だ。500SS、350SS、250SS、750SS、400SSと展開したマッハシリーズの中でも、最もエキサイティングなのがH1と呼ばれる初期型500SSだった。
そんな希代のジャジャ馬である人気絶版車500SS向けにチャンバーを開発したのが、2ストレーシングマシンの開発に携わった経験もある国際ライダーの久保和寛氏が率いるK2テックである。同社ではこれまで250、350、400、750SS用チャンバーを市販化しており、500SS用に関しても「後期型」と呼ばれるH1D/H1E/H1F/KH500用のラインナップはあった。今回発売されたH1/H1A/H1B用はいわゆる「初期型」と呼ばれるモデル用であり、マニアックなマッハ乗りにとってはまさに待望の新製品である。
初期のH1から最後期のKH500に至るまで、シリーズを通して搭載されているエンジンは並列3気筒だが、初期と後期ではフレーム形状が大きく異なるため、純正マフラーの取り回しも異なっている。具体的には、初期型フレームのチャンバーステー位置は後期型よりも低いのだ。そのためチャンバーを装着する場合も、既存のK2テック製後期型用チャンバーをH1/H1A/H1Bにそのまま流用することはできない。フレームのステー位置も低いため、路面との干渉を避けながら必要充分な性能を発揮できるチャンバー容積を確保しなくてはならない。もちろん、チャンバーを装着した際にブレーキペダル操作やサイドスタンドが接触しないようレイアウトすることも重要だ。
K2テックでは500SS後期型用をはじめ250用から750用まで、カワサキトリプル用チャンバーはエキゾーストパイプ部分のレイアウトの違いでストレートタイプとクロスタイプを設定していたが、初期型用はストレートタイプのみとなる。なお製法の違いによるTYPE-1とTYPE-2の2タイプ、素材と仕上げが異なるステンレス製とスチール製の設定は他の車種用と同様である。美しい仕上がりと高いパフォーマンスで定評のあるK2テックが、初期型マッハ用チャンバーをどのように作り上げたのかを紹介していこう。
K2テック代表の久保和寛氏は1990年代半ばからGP125クラスで全日本ロードレース選手権で活躍し、1999年には世界GPにも参戦。1997年からヤマハTZ125の開発にも携わり、ライダーとしてのキャリアに加えてマシン作りのノウハウも習得してきた。数多くの車種向けに開発されたK2テック製オリジナルチャンバーは、絶版車のポテンシャルを引き出すパフォーマンスの高さとともに細部にまでわたる溶接の美しさが代名詞となっている。
K2テック製オリジナルチャンバーはステンレスとスチール素材を使い分け、製法によってTYPE-1とTYPE-2の2タイプが設定されている。ストリートでの扱いやすさを重視しているのが特長で、街乗りでも充分な実用性を発揮するのが魅力。ピークパワーを求めることでライダーを興奮させるエキサイティング感を演出することもできるが、シビアになりすぎるとストリートでの使い勝手に影響することを熟知している久保氏の絶妙なバランス感覚が活かされている。
K2テック製チャンバーの「TYPE-2」は、エキゾーストパイプから膨張室に至るチャンバー本体を輪切りピースごとに溶接して製造するハイエンドモデル。素材はスチール、STDステンレス、鏡面仕上げステンレスの3種類で、いずれも職人の手によって丸められた筒状の部品がビードの美しいTIG溶接によって丁寧に組み立てられており、美しい外観が大きな魅力となっている。
特性は中速のトルクアップやレスポンス向上を重視した仕様で、ストリートユースメインであればキャブレターセッティングを変更することなく使用可能なのも、街乗りやツーリングメインのライダーにとってメリットとなる。
TYPE-2の最大の特徴は、美しく溶接されたリング状のパーツが作り出す流れるようなフォルムにある。豊富な経験と緻密な計算によって描かれるエキゾーストパイプのラインはそれだけで高い性能を予感させる上に、ハイレベルな製造技術を物語る。
後期型に比べて膨張室容量を稼ぎづらいフレーム形状にもかかわらず3本のチャンバーをエンジン下部に隙間なくレイアウトする技術も見事だ。
チャンバーレイアウトは純正マフラーと同様に車体右側に2本、左側に1本を配置する。バンク角をキープしながらチャンバー容量を確保するため、左右チャンバーの膨張室はフレームから若干外側にはみ出しているが、ブレーキペダルやサイドスタンドに干渉しないよう入念に設計されている。
TYPE-2にはスチール製とステンレス製があり、素材の違いで見た目の印象は異なるが、エキゾーストパイプはストレートタイプで3本がまっすぐチャンバーにつながり、テールパイプでグッと絞り込まれた後に絶版車のスタイルを引き立てるサイレンサーがテールエンドを引き締める。エンジンの振動をダイレクトに伝えないよう、エキゾーストパイプの差込口にはスプリングジョイントを使用している。
500SS(H1/H1A/H1B) K2スチールチャンバー TYPE-2
価格:182,600円
500SS(H1/H1A/H1B) STDステンレスチャンバー TYPE-2
価格:221,100円
500SS(H1/H1A/H1B) 鏡面ステンレスチャンバー TYPE-2
価格:237,600円
K2テック製チャンバーの「TYPE-1」は、TYPE-2と同様の高性能を受け継ぎながらコストパフォーマンスの高さが魅力。素材はスチール製のみで、エキゾーストパイプはベンダーマシンで曲げたパイプ素材を使用することで丸みを帯びた滑らかなラインを実現している。
素材の光沢や美しさではステンレス製に分があるのは事実だが、H1の登場が1960年代であることを思えばスチール素材とのマッチングはむしろ良好。純正マフラーとは異なる中速域のトルクアップやスロットル操作に忠実に反応するレスポンスの良さは社外チャンバーならではだが、気難しさはなく普段使いで手を焼くことはまったくない。程度の良い純正マフラーの入手が難しい中、交換用部品としての魅力も大きい。
3本の膨張室をフレームやエンジン下面に接触しないようぎりぎりまで寄せながらサイレンサーに無理なくつながるレイアウトは、絶版車向けチャンバーの開発実績が豊富なK2テックならでは。前期型フレームは後期型よりサイレンサーステー位置が低いためチャンバーエンドをカチ上げしづらく、ロードクリアランスの確保とともにスタイリッシュに仕上げるのも難しい。だがK2テック製チャンバーは巧みな取り回しにより軽快さを与えることに成功している。
TYPE-2のサイレンサーは出口ピースがカールエンドタイプなのに対してTYPE-1の出口ピースはストレートエンドで、細かな違いだがストレートエンドタイプの方が絶版車らしさが高まる。エキゾーストパイプのプレーンなフォルムも初期型マッハⅢに相応しく思える。TYPE-1かTYPE-2の二者択一ではなく、ユーザーの指向や予算によってどちらも選べるよう準備しているのが、絶版車ユーザーからの支持と信頼を集める要因と言って良いだろう。
500SS(H1/H1A/H1B) ストレートチャンバー TYPE-1
価格:113,300円