掲載日:2025年06月04日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA X-ADV
2017年に初代モデルが登場したホンダ・X-ADVは2021年にフルモデルチェンジを受けた。それから4年の時が経った今年、2025モデルとしてさらなるビッグマイナーチェンジが図られた。
X-ADVはスタイリングからしてビッグスクーターとアドベンチャーバイクを掛け合わせたものであり、無双とも言えるモデルなのだが、走りの面はもとより、使い勝手も手が加えられ大幅に進化している。
中でも注目したいのは、X-ADVをキャラクター付けるのに大きなポイントとなっている変速機、DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)の制御がリファインされていること。1週間に渡って実際に使用したことで見えた新型X-ADVの本質をお伝えする。
X-ADVの出自を辿ると、ホンダが掲げた『ニューミッドコンセプトシリーズ』の中の1台であり2012年に登場したインテグラに辿り着く(ニューミッドコンセプトの車輌は他にNC700XとNC700Sがある)。
そもそもニューミッドコンセプト着想のきっかけとなったのは日本、北米、欧州など成熟したマーケットにおいてユーザーが求める価値観が変化したことで、それをもとに考えられたテーマは”市街地走行やツーリングなどの常用域で扱いやすく、快適で味わい深く燃費性能に優れたミドルクラスのモーターサイクルをお求めやすい価格で提供すること”だった。
そうして誕生したニューミッドコンセプトシリーズは同じくホンダの四輪車フィットのエンジンを半分にしたものとされており、その話もあながち間違いではないのだが、実はかなり凝った造りとなっていた。
VFR1200Fに搭載していたホンダ独自の変速機構であるDCTモデルを用意し、超低燃費かつ400ccクラスのモデルと比べても同等かモデルによっては安く設定された価格などから、特にNC700Xは爆発的なヒットモデルとなった。しかしインテグラはどうだったかと言うと、欧州では一定の評価を得たものの、シリーズの中では今一つという状況だった。
その後も派生モデル的な立ち位置としてクルーザーバージョンのCTX700なども追加されたが、花を咲かせたのは、2017年に登場した初代X-ADVにほかならない。インテグラにあったスクーターライクなパッケージングとしながら、モデル名から連想できる通り、クロスオーバーアドベンチャー的なスタイリングとされたX-ADVは、ストリートで映えるデザインを持ち、さらに未舗装路に分け入ってもかなり走るモデルとして人気を博したのである。
2021年のフルチェンジではエンジン、シャシー、スタイリングなど多岐に渡り手が加えられ魅力が増したが、2025モデルではフロントマスク、シートなどを変更したほか、クルーズコントロールの標準装備やスクリーンの調整機構の改良などディテールがブラッシュアップされている。その新型X-ADVに実際に触れて感触を探っていこう。
X-ADVはDCTモデルしか存在しない。このDCTという変速機構なのだが、これはマニュアルトランスミッションの構造を用いながら奇数段(1-3-5-発進用)と偶数段(2-4-6)の、ふたつのギアセットをそれぞれ独立したクラッチで制御し、片方ごとに接続することで変速時の駆動力の途切れを抑えた加減速を可能としたものだ。
四輪の世界ではドイツのVWグループのモデルで用いられたことに端を発し広まったが、二輪車ではホンダが世界で初採用した技術であり、他社の追随は少なかった。だがしかし、昨今BMWモトラッドやヤマハなどライバルが新たな自動変速機を発表し、モーターサイクル業界ではオートマ化のムーブメントが押し寄せている。その中にあってのX-ADVであり、しかも2025モデルではDCTの制御を改善しているということである。
形状が見直されたという高さ790mmのシートに跨ってみると、数値から思うほど足つき性は良くないと感じられたが、ビッグスクーターの類をイメージすればこれもまた定石的なもの。むしろX-ADVをアドベンチャーバイクだと考えるならば最低地上高をしっかりと確保した計らいだと思う方が良い。
エンジンを始動しDレンジに入れて発進する。まるで半クラッチを使い自分で操作しているかのようなスムーズさがある。しかも速度やコーナー進入時など、誰かが見て指示しているかのようなダイレクト感がある。従来モデルもかなり良い出来だったが、さらにライダーの意思がそのまま反映されているようであり、それだけでなく任意にシフトチェンジも行えるものだから、もはや一般的なマニュアルミッションの存在意義すら疑うほどだ。
ライディングポジション的にはセットされるバーハンドルの位置が高めでワイド、足元はコミューター的なステップボードタイプなのでオフロードモデルのそれでは無いものの、この手のタイプでスタンディングポジションを取れるというのは希有な例だと思う。
ターンシグナル一体型のデイタイムランニングライトによりシャープな印象を受けるフェイスマスクは従来モデルを踏襲したデザインだが、それよりも注目したいのはスクリーンの調整機構が改善されたことで、慣れれば片手で操作ができる点だ。
クルーズコントロールが標準装備となったこともあり、高速道路でのクルージングも快適そのもの。ワインディングでもかなりイケる。特に外ひじを突き上げてリーンアウトでコーナーに入るモタード的な走らせ方をすると楽しく、そこいらのスポーツバイク顔負けの走りを楽しむことができる。特筆すべきは未舗装路の走破性で、スロットルワークに対するDCTの反応が良く、トラクションコントロールが絶妙なので、スクーターライクなオートマチックモデルでありながらも、不安がないどころか、攻めるような走りさえ行うことができる。
もちろんどのようなステージでも即座にマニュアルシフトチェンジが行えることも大きなメリットで、安楽なクルーズを楽しむもよし、ワインディングでのスポーツライディングや未舗装路もこなせるオールマイティなキャラクターだ。
シート下にはメットインスペースがあり、グリップヒーター、可動式スクリーン、使いやすいクルーズコントロール、何よりも”頭のいいDCT”が揃ったパッケージングは幕の内弁当的な全部盛りであり、速く、快適、カッコいいの三拍子となっている。
143万3880円からとなっている価格には若干ハードルが高い感じはするものの、唯一無二の存在であり、これだけのオリジナリティと高い完成度を誇るため、全方位固めたモデルが欲しいと考えている欲張りさんは間違いなく買いの一台となっている。
2025モデルではフロントマスクのデザインが一新され、ターンシグナル一体型のデイタイムランニングライトが採用された。フェアリングの面積も広く、走行風も効率的に防いでくれる。
従来モデルも可倒式のスクリーンを採用していたが、操作部分の機構が新しくなり、左側のノブを使いロック・解除、上げ下げが可能。実際使ってみるとノブ操作での上げ下げはやや難しく、ロックを解除してスクリーンを掴んで動かすことが多かった。
フロントタイヤは120/70R17と、ロードスポーツモデル的なサイズだが、タイヤはセミブロックパターン調のブリヂストン・トレイルウイングを装着。クロススポークホイールのため、チューブレスタイヤが使用可能だ。
2025モデルではシート形状が見直され、足つき性、座り心地が向上している。かなり薄く見えるが、クッション性は良く、ロングツーリングでも快適。シート高は790㎜。
足元はいわゆるスクーター的なステップボードタイプとなっている。クルージングでは前方に足を投げ出し、スポーティな走りをする際には下部のフラットな部分に足を下ろし、ふくらはぎで車体を挟むと走らせやすい。
駆動方式はチェーンドライブとなっており、オフロード走行時の泥の跳ね上げや小石の挟まりを防止するためにチェーンカバーが装備されている。
タンデムステップは可倒式となっている。小ぶりだがしっかり力を入れられる位置と形状。外に飛び出ているため、パッセンジャーが縁石などに足をヒットさせないよう注意したい。
新たに5インチのTFTカラー液晶ディスプレイを採用。スマートフォンアプリの「Honda Road Sync」と接続することで、車両のメンテナンスインターバルやナビゲーションなどと連動させることができる。
アドベンチャーモデル的なタイプのバーハンドルをセット。ライディングポジション的には一般的なビッグスクーターよりもロードスポーツよりの印象。ただ、ハンドル、シートステップの位置関係が絶妙で手足のように操ることができる。
リアタイヤのサイズは160/60R15。フロントタイヤと比べて小径であることもあり、ハンドリングからしてアドベンチャーモデル的だ。上方に跳ね上がったサイレンサーもX-ADV特有のキャラクターを演出している。
シャープに纏められ軽快感のあるテールセクションデザイン。ユーザーの使い方を考えるとキャリアが欲しいところではあるが、デザインを優先とした結果と思える。
右側のスイッチボックスにはキルスイッチ兼セルスタートボタン、マニュアル・ドライブ・ニュートラル切り替えボタン、ハザードスイッチ、クルージングボタンがまとめられ、その左にパーキングブレーキレバーが備わる。
左側のスイッチボックスでライディングモード切り替えをはじめ各種セットアップすることができるほか、ライダー側下部にシフトダウンボタン、裏側にシフトアップボタンが備わっている。
シート下のユーティリティスペースはおおよそジェットタイプのヘルメット一つ分のサイズとなっている。ETC2.0車載器の取り付け場所がいまひとつ良くなく、大きなヘルメットは入らなかった。
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