掲載日:2024年06月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA TRICITY155
LMW(リーニング・マルチ・ホイール)機構を持つ最初の市販モデルであるTRICITY(トリシティ)125が登場したのは2014年のことだ。人気アイドルグループAKB48を卒業した大島優子さんをCMキャラクターとして起用し、大きな注目を浴びたことを覚えている方もいるかもしれない。
フロント2輪、リア1輪というレイアウトで、2輪モーターサイクルのように車体をバンクさせてコーナーリングをするだけでなく、高い接地力を誇ることで安全面においても多大な恩恵を受けるLMW機構の登場は、バイク業界を驚かせたものでもあった。
今回紹介するトリシティ155の初代モデルは、トリシティ125のリリースから3年遅れの2017年に登場。排気量が引き上げられたエンジンは走りに余裕を持たせてくれる上に高速道路を使った移動も可能であり、行動範囲を一気に広げた。その独創的なパッケージングは興味を持たせるものであるが、実際のところどのようなメリットがあり、それは一般的なライダーが分かりうるものなのだろうかという疑問を抱く人はまだまだ多い。
そこで今回は現行トリシティ155をフィーチャーし、走りの面から日常的な使い勝手まで考察していくことにした。
2017年に登場したトリシティ155は、2019年と2023年モデルでマイナーチェンジ及びブラッシュアップが図られている。スタイリングに関して大きな変更はないのだが、シートが低く抑えられたり、アイドリングストップ機能、キーレスエントリーが追加されるなどで利便性が向上し、いわば年々熟成してきた格好である。
私自身はトリシティ125が登場した時、さらにトリシティ155が追加された際などに実車に触れることはあったものの、じっくりと乗り回して感触を確かめるようなものではなく、機会があればしっかりと試乗テストを行いLMW機構の魅力や開発した本当の狙いなどを探ってみたいと思っていた。
そのような中、今回バイクブロスマガジンズのインプレッションとしてトリシティ155をピックアップしたわけだが、まずはLMWというフロント足まわりの機構についておさらいしておきたいと思う。LMWは旋回時に前2輪が車体と同調してリーンすることで、自然な操縦感覚を生みだす。その実現に欠かせないのが、前輪につながる左右独立式のフロントサスペンションを支持し車体と結合する、パラレログラムリンクだ。
フロント周りを下から覗いてみるとわかるのだが、上下に平行に備えられた2本のアームパーツに左右2本ずつ用意したテレスコピックサスペンションがセットされており、平行四辺形(パラレログラム)が車体を寝かせた時に左右に動くことで、自然な感覚でコーナーを曲がることができるという。
構成パーツが多いことからフロントヘビーになってしまっているのではないかと私は考えているのだが、今回それも踏まえてメリットが分かったので、実際の乗り味についてお伝えしていこう。
試乗テスト車両を受け取りに行った日。その帰りは自走で戻ってきたのだが、まずトラックをはじめとした交通量の多い幹線道路、そして高速道路といきなり100キロ近いツーリングとなった。助かったのはトリシティ155の粘りのあるパワフルなエンジン、そして日常使いをしっかりと考えられたセッティングだ。
ストップアンドゴーを繰り返す場面では、出だしから程よいトルク感を得られるのでキビキビとクルマの流れをリードした走りができるし、現行モデルで備わっているアイドリングストップ機能の具合も良い(個人的にアイドリングストップ機能はあまり好きではないのだが、トリシティ155のは良かった)。高速道路では最高速こそ知れたものであるのだが、シャシーの剛性は高く不安感が無い。1時間以上も高速移動を続けていると、ややシートの薄さが気になってきたりもしたが、ロングツーリングであっても許容範囲だと思わせてくれるパッケージングになっていると思える。
LMW機構はいたって”普通”の感覚で走らせてくれるのだが、その後1週間のテスト期間中、毎日触れるごとに、そして距離をどんどん重ねて行くごとに、車体を寝かせるバンク角が増大していった。寝かせて走らせることが”楽しい”のである。
そもそもモーターサイクルが曲がるのは、回転中のタイヤが傾くと、接地面の外周と内周差によって傾いた方向に向かっていくキャンバースラストという力が発生するからだ。これはトリシティ155のLMWも同じ原理であるのだが、フロントタイヤをふたつ備えていることで、よりコーナーリングフォースが強く生まれており、ちょっと車体を寝かせただけでもグイグイとコーナーの出口に向かって曲がっていくのである。ハンドルを切って曲がるクルマの場合だとオーバーステア気味だと思えるほどで、だからこそコーナーの奥まで突っ込んでいくことができる。
さらには全体的なバランスも良い。私は30年前からビッグスクーターの利便性が好きで何台も乗り継いで来たのだが、黎明期のビッグスクーターはタイヤ径が小さくロングホイールベースで、さらにライダーの着座位置がリアタイヤ寄りというディメンションのものが多かった。だからフロントタイヤ依存が高いにもかかわらずフロントハッピーになりがちで、しばしば転倒することもあった(昔の話でありこの全体的なビッグスクーターの動きの話に関しては別の機会にでも)。
それがどうだ、トリシティ155では接地感マシマシの上にガッツリと曲がる。だから慣れてくるとどんどんペースアップができるのだ。しかも安全マージンを確保しながらである。
そうそう、フロントヘビーなのではないかと思っていたのもまったくと言っていいほど感じられず、普通に走っている時は上質な乗り心地をもたらし、ちょっと攻めた走りを楽しみたい時には飛びきりスポーティな走りを得られる。LMW機構恐るべしと言ったところである。
価格面においては同排気量のNMAX155と比べると車両価格で10万円以上高いが、その差以上のプレゼンスはあると思える。LMWという独創的な機構を持つトリシティ155オーナーというのは自慢できることで、他から尊敬される存在なのである。
トリシティ155のフィーチャーポイントは何と言ってもフロントのLMW機構だ。左右のタイヤにそれぞれテレスコピックフォークを2本ずつ備えており、その上端に2本のアームパーツ、パラレログラムリンクがセットされている。
フロントマスクに関しては2017年に登場した最初のトリシティ155から大きな変更は受けていない。デザインとして完成しているということだろう。バイザーはショートタイプなので、高速巡行時にはロングスクリーンが欲しいとも思った。
排気量155cc、水冷4ストロークSOHC単気筒エンジンを採用。最高出力は15馬力、最大トルクは14Nmとスペック的な数値に取り立てるものが無いが、駆動系のセッティングが秀逸でストレスなく走ることができる。
フロントは90/80-14サイズを2本、リアには130/70-13サイズのタイヤをセットしている。リアステアの入力をしやすく、それに追従する形でフロントの舵角がつく印象。ブレーキは前後連動となっている。
メーターディスプレイは必要最低限の表示だけでなく、キーレスエントリーやアイドリングストップ機能の状況など様々なインフォメーション機能が備わっている。スマートフォンとの連動もでき便利だが、外気温計の精度はいまひとつか。
現行モデルではキーレスエントリータイプとなっている。シート下のユーティリティスペースを使うには、OPENに合わせてシートボタンをプッシュ。イグニッションオンの状態でキーレス本体が車体から離れると警告音がなる。
ハンドルのセット位置が絶妙で、体格を問わず車体の操作はしやすいと思える。操作関係において取り立てて特筆するものは無いが、サイドブレーキレバーは大きくて使いやすく、坂道に駐車する際に重宝した。
シート高は770mmとなっている。割と低めでシートの左右もシェイプされており、フラットなステップボードなのこともあるので足つき性に関しては問題ない印象。パッセンジャーシートの座面はコンパクトだがタンデムもしやすい。
フロントの足まわりは左右に2つのタイヤを配置するLMW機構であることから、ステップボードはフラットであるものの前後長が短めとなっている。こればかりは車両レイアウト的に仕方ないことだ。
フロントパートにコンビニフックと、電源ソケットを内蔵するポケットが用意されている。コミューターとしての利便性も高く、”ちょっとそこまで”という用事であっても気軽に使うことができた。
センタースタンドとサイドスタンドの両方を標準装備しているのは、時間貸しパーキングなどを利用することも多い日常使いのコミューターとしてとても助かる。なおタンデムステップは折りたたみ式を採用する。
約23.5リットルの容量を誇るシート下トランク。ジェットタイプのヘルメットであればスッポリ入る。燃料給油口もシート下となっている。LED照明が備わっており、夜間にとても助かった。
リアセクションはコンパクトにまとめられており、スポーティな印象を受ける。タンデムグリップは絶妙な位置と形状で、センタースタンドを掛ける際などにも便利に使えた。
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