掲載日:2022年08月18日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
YAMAHA TMAX560 TECH MAX ABS
2001年に登場した初期型TMAXは、499ccの水冷並列2気筒エンジンにコンパクトなCVTを組み合わせ、鋼管ダイヤモンドフレームを採用。通常のスクーターに見られる、エンジンユニットとスイングアームが一体化したユニットスイング式ではなく、エンジンはフレームに載せ、スイングアームが独立する、一般的なバイクと同様の構造となっていた。そのため、外見はスクーターでありながら、スポーツバイクのような運動性能を持っており、ヤマハ自身も「オートマチックスポーツコミューター」という、新しいジャンルと位置づけていた。大型スクーターといえば豪華装備でラグジュアリー、という従来の概念を覆したTMAXは人気モデルとなり、2004モデルでフロントブレーキのダブルディスク化、2008年にはアルミダイキャストフレームの採用や前後ホイールの15インチ化、2013年の国内販売モデルでは排気量が530ccに拡大し、TMAX530となった。
そして2020年に排気量を561ccに拡大し、欧州排出ガス規制ユーロ5に対応して新しく登場したのが後継モデルとなるTMAX560だ。このときのモデルチェンジでは車体デザインが全体的にシェイプされ、吸排気系の見直しで中高速域の加速性能の向上、前後サスペンションセッティングの見直しと最適化が行われた。また、トラクションコントロールや走行モードを選択できるD-MODEも搭載されている。
では今回モデルチェンジを行った2022年モデルはどこが変わったのだろうか。まず、スタイリングはヘッドランプを薄くシャープに、フロントカウルもエアインテーク状のディテールを採用するなどスポーティなものにして全体にコンパクト化し、新しいデザインとした。ホイールにはヤマハ独自の“スピンフォージドホイール”(鋳造ホイールだが鍛造ホイールに匹敵する強度と軽さを持つ)を採用、これによって慣性モーメントがフロント約10%、リアは約6%低減したという。同時にフロントサスやリアショックのセッティングもハードめに設定、タイヤも専用に開発したものを採用した。さらにスロットルケーブルを廃したAPSG(Accelerator Position Sensor Grip)を採用するなど、全体的にスポーツ性能を向上させている。また、ハンドルとシート、ステップの位置関係を見直し、ライディングポジションを従来モデルより少し前傾気味に設定。フットボードを前後に広げ、調整可能なバックレストを採用するなど、乗車姿勢の自由度も高めている。
装備面についてもいろいろと新しいものが導入された。メーターは7インチの高輝度TFTパネルを採用。様々な車両情報を見やすく表示するほか、スマホに「MyRide - Link」アプリをインストールしてBluetoothでマシンと接続することで、電話やメール受信、音楽再生などスマホの情報をメーターに表示が可能。さらにガーミン製のナビアプリ(有料)をインストールすれば、メーター画面でナビ機能を使うこともできる。また、電動タンクキャップや左ハンドルスイッチにジョイスティックを採用したほか、メイン電源のオンオフやステアリングロック、シートオープンの操作をハンドル下のセンタースイッチで行えるようにするなど、操作の効率化と利便性の向上が図られている。
これらに加えて今回試乗した上級モデル「TECH MAX」には、電動調整式フロントスクリーン、グリップウォーマー、シートヒーター、クルーズコントロール、プリロードと伸側減衰力調整が可能なリアサスペンション、エンジンワンプッシュスタート、発光タイプハンドルスイッチなどが装備され、より快適で便利な仕様となっている。
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TMAX560 TECH MAX ABSの存在感は相当なものだ。当然と言えば当然だが、停まっているだけで250ccクラスのスクーターとは迫力が全く違う。それでも従来モデルに比べて新型はボディラインがシャープになった。エンジンをかけると「ドゥルルルル……」と低く太い排気音が空気を震わせる。スロットルを軽くひねると「バゥンッ!」と鋭い咆哮のような音に変わり、このマシンがただの大型スクーターでないことを予感させてくれる。
跨ると筆者には少々足つきが厳しいものの、走り出してしまえばそんなことはすぐに忘れて、とにかく加速の鋭さに惚れ惚れする。スクーターにありがちな、スロットルを開けてから加速に移るまでのタイムラグがほぼなく、開けると同時にグワッと体ごと持っていかれそうなダッシュは、250ccスクーターとレベルが違うのはもちろん、ミドルクラスのスポーツモデルよりも速いのでは、と思わせてくれるほど。シフトチェンジの必要がなく、スロットルを開ければ開けるほどリニアに加速していくのは非常に爽快でクセになる。
ボディは大柄だがハンドリングは軽快で、駐停車する車両を避けるなど車線変更やゴー&ストップの多い混雑時のシティランでも、かなり機敏な走りを見せてくれる。その俊敏さは、郊外のワインディングロードを走らせたときも変わらない。少々きつめの上り坂でもグイグイと加速できるパワフルさを持っているのはもちろん、中速域以上のコーナーでは足回りの良さを実感する。フロントにはインナーチューブ径41mmの倒立フォーク、リアにリンク式モノクロスサスを備え、軽量ホイールと新開発のタイヤで武装した足周りは路面追従性が抜群で接地感や粘りも良く、ロードスポーツモデルと比べても遜色がない。欧州でも人気のマシンだけに、アウトバーンから石畳まで様々な路面状況にも対応できるよう造られているのだろう、路面のギャップをしなやかにいなす様子はまさに“猫足”と呼びたくなるほどだ。
当然ながら高速道路での実力も申し分ない。例えば新東名高速道路の120km/h区間での追い越し加速なども全くストレスがないし、少々路面が荒れていようが横風がきつかろうが、車体は安定していてレーンチェンジなどの際も狙ったラインにピタリと付けられる。大型のスクリーンは今回形状が見直され、防風性がさらにアップした。上級モデルのTECH MAXは電動で無段階の調整が可能だし、クルーズコントロールも装備しているので、疲れず、楽にハイスピードクルージングができた。
さらに今回便利だな、と感じたのがハンドル左側のスイッチボックスに配されているジョイスティックとホームボタンだ。多機能になった最近のバイクはスイッチ類も増えて操作が複雑なことも多いが、このマシンは電動スクリーンやグリップ&シートヒーターの調整やディスプレイの切り替えなど、ほぼすべての操作がワンタッチで行えて、それを7インチという大型のメータースクリーンで瞬時に確認・設定できるのだ。TECH MAXでは夜でも見やすい光るハンドルスイッチを搭載しているので、さらに利便性が高い。2022年モデルのTMAX560 TECH MAX ABSは、スポーツ性能と快適性、利便性をさらに高め、その地位を絶対的なものにした“隙のないオートマチックスポーツ”と言えるだろう。