掲載日:2010年05月07日 特集記事
記事提供/2009年12月24日発行 月刊ロードライダー 2月号
Report/石橋知也 Photo/富樫秀明
どんなベテランだって、シート高は低い方が安心だ。その感覚は長い旅でも街乗りでも同じ。このシンプルで威張り過ぎないブラックビューティに乗ると、自然に肩から力が抜けていく。
ヒザは曲がりベタ足
スポーティな走りも可
本当に低い。両ヒザは完全に曲がる。座ったままバイクをベタ足で押していける。シート高650mmは、ライダーをこんなにもリラックスさせるものなのか。シャドウ・ファントム750最大の魅力は、この安心感かもしれない。車重は250kgもあるのに、1月号紹介のVT1300CX同様、シャフトドライブなのに転がりが良くて重心も低いから、取り回しでの重さがない。間違って倒してしまう恐怖感から開放される。フォワードコントロールやハンドルも173cmの身長には十分な距離で操作しやすく、走っているときも信号待ちもカッコがイイ(ベタ足だ)。 クラシックスタイルのシャドウ750をベースに、ファントムはボマースタイルで仕立てられる。それこそ大昔、STDからいらない物を取り外してボードトラックレーサー (戦前の板張りオーバルトラック用マシン)を作ったときのように、だ。エンジンはブロス、スティード、シャドウ750/400と継承してきた伝統のSOHC3バルブ52度Vツイン。全身ブラック。左サイドから見ると、シリンダーがブラックで、ヘッドカバーがシルバーのVツインは、'60年代に活躍したハーレーKR(サイドバルブ750レーサー)のそれみたいで、オールドスクールスタイル(昔風という意味)とアメホンが謳っているのが、ここでもわかる。 走りも実にいい。エンジンは全域で鼓動感たっぷり。不快な振動はなくて、回転が上がればそれなりにビートが強くなる感じ。高速道路で長時間乗っても疲れは少ないハズだ。 | 石橋知也:R/Rファクトリー・ハヤブサ担当で、もう1台のナンバー付きはハーレ-XR1000。でも、最近は日本製クルーザーの質の高さが気に入っている。「スピードバイクと両極だけど、どっちも好き」 |
120mm幅のファットなフロントタイヤは、見かけほどクセがない。意地悪く見れば、極低速であるところから切れ込みが少し強く出るものの、問題になるレベルではない。軽々とバンクするし、そのハンドリングの軽さと安定性は高速域まで維持させる。キャスター角34度で、卜レールはたっぷりの161mm。VT1300CXがキャスター角32度/フォーク角38度(いわゆるスランテッドフォーク)で卜レールを92mmと小さく採って、大径21インチタイヤとハイネック/ロングフォークでも終始軽快さを保つようにした手法とは異なるが、どちらもホンダ基準。操安性の良さは、そこらの改造車とはワケが違う。
市街地はもちろん、コーナーもかなりスポーティに走れる。44psしかないのに加速がいい。スロットルとエンジンとの感覚が合っていて気持ち良く、これはPGM‐FIのセッティングの良さだと思う。
注意するのは調子に乗って突っ込み、2→1速へシフトダウンするときぐらいだ。この場面では、さすがスイングアーム一体のシャフトドライブと、ワイドミッションのシャドウを乱暴には扱えない。スロットルを煽って回転を合わせるというより、もっと減速して丁寧にギヤを落とすのが、ファントムには合っている。
コーナー進入はVT1300CXほどフロントブレーキを残さなくても旋回性が出る。総じてキャスターが寝たこの手のバイクは、フロントブレーキでフォークを少し沈めて、フロントを立てておくと曲がりやすい。速く走るというより、カッコ良く曲がり角やコーナーを抜けるためで、試してほしい(ブレーキレバーに指をかける程度。握らない)。その前後ブレーキは効きがマイルドで扱いやすい。リヤはドラムとバカにしていたけど・・・・・・。失礼しました、だった。ロングホイールベースで低い車体は、ブレーキング時のノーズタイブをさほど感じず、これもリラックスして乗れる要因のひとつ。
それにシャフト(チェーンの油汚れなし)+ドラム(ブレーキダストが外に出ない)だからリヤホイールやスイングアームが汚れないのも美点。スポークホイールは掃除に手間がかかるけど、これならいい。
前後ショックはソフトで、お尻を包み込むようなホールドの良いシートもあって乗り心地が良く快適だ。ただ、リヤショックはさすがにストロークが短く、減衰力もそれほど高くないから、大きなバンプやウネリを高速で越えると、車体の揺れが収まるのに少し時聞がかかる。
気合を入れて乗るしかないバイクもある。でも、こんな風にリラックスできるバイクもある。良く晴れた目、街もけっこう楽しい舞台になる。
ブラックアウ卜されたロー&ロング!
豪雨、濡れた路面でのスリックタイヤでの走行など、悪条件がこれでもかと続いた`09年8耐で優勝。その勝因のひとつが、実戦初投入されたビッグバンカムだ。採用以前の鈴鹿300km事前テストでは動弁系の挙動が安定せずにバルブが落ち、ピストンに刺さった。それもエンジン2基とも10周ぐらいで。こんなトラブルは最近にはなかった。8耐以降、ビッグバンカムは全日本JSB1000でも採用された。
愛車を売却して乗換しませんか?
2つの売却方法から選択可能!