掲載日:2026年08月30日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男

YAMAHA AEROX

2026年7月、ヤマハから新型スクーター『AEROX(以下アエロックス)』が発売されるというリリースが届いた。今春開催された全国のモーターサイクルショーの会場でも実車が展示され、来場者の注目を集めていたことは記憶に新しい。これまで国内ラインアップには存在しなかった、まったく新しいネーミングを冠したモデルではあるのだが、それにしてもどこかで聞いたことがある名前……、そうだ。東南アジア諸国で絶大な人気を誇る、あのスポーツスクーターではないか。と、私はすぐに思い出した。
実は初代アエロックスが発表されたのは、今から10年前となる2016年10月、MotoGPマレーシア・セパンレースウィークのことだった。しかも発表の舞台は、パドックエリアに設けられたVIPヴィレッジという、レース観戦の熱気をすぐそばに感じられる特別な空間。開発コンセプトには「The Closest Scooter to a Super Sport Motorcycles(スーパースポーツバイクに最も近いスクーター)」という言葉が掲げられ、ヤマハスーパースポーツ・YZF-Rシリーズのデザイン思想を色濃く取り入れたスタイリングが最大の特徴だった。発表会には、当時現役ライダーとしてヤマハワークスチームで活躍していたヴァレンティーノ・ロッシも駆けつけ、レース本番を控えたわずかな合間を縫って登壇。その場で車両にサインを残したエピソードも記憶に残っている。

その後、タイ王国やベトナムを皮切りに、インドネシア、フィリピン、マレーシアなど東南アジア諸国へと次々に販売網を拡大していったアエロックスは、国や地域によって呼び名を変えながらも(アエロックスという名前を冠さないケースもある)、それぞれの市場で確固たる人気を築き上げてきた。すでにこれまで複数回のフェイスリフトを経て熟成を重ねており、その最新型がいよいよ満を持して、日本市場へと導入される運びとなったわけだ。
中身についてはNMAX155と多くを共有する兄弟関係にありながら、アエロックスにはより一層スポーティな味付けが施されている。すなわちNMAX155がラグジュアリー志向、アエロックスがスポーツ志向と、それぞれ明確なキャラクター分けがなされている。そう捉えてもらって、まず間違いないだろう。

ポイントとなるのは、やはり人の目を引き寄せる「YZF-Rシリーズ」譲りのスポーティなスタイリングだろう。猛禽類の眼を思わせるシャープなLEDポジションランプに、コンパクトなプロジェクターヘッドランプ、そしてヘッドランプ下側にはカーボン調のウイングレット風造形まで織り込まれている。スクーターにここまでスーパースポーツのモチーフを持ち込むかと、正直驚かされる仕上がりだ。
心臓部は水冷4スト・SOHC4バルブの155cc「BLUE CORE」エンジン。可変バルブ機構「VVA」により低速から中高速まで幅広くトルクを稼ぐ構成は初代から受け継がれてきたものだが、今回はスターターとジェネレーターを一体化した「SMG」システムが加わり、セルスターター特有のキュルキュル音のない静かな始動・再始動、そしてアイドリングストップまでこなす。

これまで日本市場にこそ導入されてこなかったものの、従来モデルと比べれば最大の進化点といえるのは、やはり電子制御CVT「YECVT」の搭載だろう。T/Sの走行モード切替に加え、任意のタイミングで最大3段階の「シフトダウン」まで再現できる点は、CVTがただ変速するだけの機構ではなくなったことを実感させる。ちなみにこれは現行NMAX155に続き、YECVTを採用した2モデル目となっている。
足回りは30mm径インナーチューブのフロントフォークとサブタンク付きリアサスペンション、後輪140/70-14という幅広タイヤで固め、中高速域の安定感を狙った構成。フレームもメインパイプやレインフォースの配置を煮詰めた軽量高剛性設計で、単なるシティコミューターという枠に収まらず「積極的に走らせて楽しいスクーター」を目指して作られたことが伝わってくる。

4.2インチTFTメーター、スマホ連携の「Y-Connect」、スマートキー、24.5Lのシート下トランク、USB Type-C充電ソケットといった“イマドキ”の、いや、軽二輪クラスとしては贅沢すぎると思える装備が用意されている。初代(2016年)が"VVA付きエンジン+機械式CVT"というシンプルな骨格だったことを思えば、10年でここまでインテリジェント化が進んだかと、あらためて感慨深いものがあり、この進化を経て、ようやく日本に上陸したということにも期待を持たずにいられない。
今回試乗テストに使用するアエロックスを目の前にした際の最初の印象は、“思ったよりもボリュームがある”ということで、昨今触れてきたこのクラスのモデルの中でも大きいかな、と思った。だがしかし、それは両サイドに広く広げられたフロントフェアリングがもたらす視覚的なものであり、実際に車両に跨ってみると、非常に体にフィットするちょうどいい纏まりとなっていることが分かった。

特に足つきに関しては上手く考えられていると思える。この手のスポーツスクーターの多くは、シートの着座位置の高さやボディ中央部分の横の張り出しから、足つき性がスポイルされるモデルも少なくないのだが、シートが前方に向かってシェイプされていることもあり、意識することなく両足ともほぼ踵まで接地する。加えてステップボードもゆとりある造形で足の置き場に困らず、車重も軽いことから取り回しも良く、込み入った路地を通り抜けたり、狭い駐車スペースに置くということもまま考えられるシティコミューターとしての使い勝手は良いと直感的に伝わってきた。

エンジンを始動し走り出す。ジェネレーターを利用した始動機構を採用しており、これにより始動をはじめ、アイドリングストップ時からのリスタートなどでもスムーズにエンジンが目覚める。私はスロットル操作に対して一瞬のテンポの遅れを感じるアイドリングストップ機能を元来好まないのだが、アエロックスの場合、その違和感がほぼ感じられないことも良い。さらにアイドリングストップ機能をカットしている場面でもアイドリング時のエンジンの振動も抑えられている点も付け加えておこう。
VVA(可変バルブ)搭載の水冷155cc BLUE COREエンジンは、今回のアエロックスの他、NMAX155やトリシティ155にも採用されているものとベースは共通である。これまでに後者2モデルに試乗テストを行った経験から、その素性の良さは知るところなのだが、アエロックスは、出だしの瞬発力にさらに磨きがかけられた印象を受ける。

さらに付け加えるならば、NMAX155に続いて採用されているYECVTの面白さがさらに増しているということだ。これは電子制御によって、マニュアルミッションモデルのようなシフトダウン機能を持たせているもので、スロットルをワイドオープンすると、自動的に1段シフトダウンし、加速を強めるだけでなく、左手のシフトスイッチを操作することで最大3段まで下げることが出来る。すでにNMAX155でこの機構の面白さを体験していたが、アエロックスでは専用セッティングが用いられており、時速30km付近からの追い越し加速でより鋭さを感じられるチューニングとなっている。正直に言うと、必要のない場面でもついシフトスイッチを押したくなってしまう。それくらい癖になる操作感なのだ。
着座位置のほぼ真下にレイアウトされているリアタイヤが、勢いよくトラクションを発生させるものだから、下腹部にグッと力が入る。そんな加速感を得られるのである。これは、他のスポーツスクーターと比べても、“走らせる楽しさ”を体感できる大きなポイントになっている。

高速道路を利用して郊外にも足を延ばしてみた。タイヤ径が前後共にNMAX155よりも1インチ大きい14インチとなっていること、それに伴いホイールベースも10mm長くなっていることから、高速巡行でも安定した走りを楽しめる。ハンドル周りの剛性感も高く、高速域での不安な揺すられ感がほぼないことも好印象だ。アエロックスを購入し、毎週末高速道路を使ってロングツーリングに行く、というようなオーナーは少ないかもしれないが、ハイウェイクルーズも想像以上に快適である。

ワインディングロードにステージを移していくと、市街地とはまた違ったスポーツライディングの楽しさがあることが分かった。実を言うと、軽二輪クラスのスクーターというパッケージからフロントフォークのストローク量が限られ、それにより段差などからの突き上げもやや強めに感じられる部分はあったのだが、コーナーの続くワインディングでは、少ないストローク量にも関わらず、路面からの突き上げを上手く吸収しフロントタイヤの接地感をライダーにインフォメーションしてくれる。さらにリアサスペンションのセッティングも素晴らしく、車体を寝かせてスロットルを開け始めた瞬間のリアの沈み込み方、そしてそこから生まれるトラクションの入り具合が実に気持ち良くライダーに伝わってくる。

132kgという車重はクラス的にもかなり軽量で、NMAX155と比べても約3kg軽い。加速の鋭いセッティングとされた駆動系や、インチアップされたタイヤ径などから、本格的なスポーツライディングを楽しむことが出来てしまうのである。
シートの後ろの方に座り上体をハンドルに近づける恰好のライディングポジションを意識し、センターアーチ部分を両足のふくらはぎで抑えてホールド、コントロールしながら、迫るコーナーをパスしてゆく。そんなエキサイティングな走らせ方が楽しいのだ。もっと状態を伏せたくなるという衝動に駆られるほど、攻めの姿勢がしっくりくるものだった。

スマートフォンアプリと連動したナビゲーションやミュージック機能なども、一度使用するとその便利さに手放せなくなる。重箱の隅をつつくようなことではあるが、USB Type-C充電ソケットを備える左フロントボックスは、スマートフォンを収めるにはやや窮屈なサイズで、走行中の収納場所としては割り切りが必要かもしれない。
質の良い走りと充実した装備。それを高いレベルで兼ね備えているアエロックス。私の周囲にも興味を持っている人は多く、今後スターダムを駆け上がる可能性を秘めている一台だと確信した。軽二輪スクーターとは思えぬほどの俊敏な速さと気持ちよい操作感併せ持つがゆえに、法定速度はもちろん、白バイやネズミ捕り、そして交差点での右直事故にも十分注意を払っておきたい。これはアエロックスに限った話ではないが、本当にそれに尽きる。
含みを持たせた書き方をするならば、“言い訳できる部分がほとんど見当たらない”一台、それがこのアエロックスである。

水冷SOHC4バルブの155ccBLUE COREエンジンを採用。VVAに加え、始動用モーターと発電機を一体化した「SMG」を搭載し、静かな始動を実現する。NMAX155やトリシティ155とも共通するベースユニットだが、アエロックスでは出だしの瞬発力に磨きがかけられている印象。

30mm径インナーチューブのフロントフォークに、110/80-14サイズのタイヤを組み合わせる。ブレーキディスクは230mm径と大径化され、キャスター角26°30′・トレール102mmという設定からも、中高速域での安定感を意識した仕立てであることがうかがえる。

リアタイヤは偏平率70%、幅140mmの140/70-14。NMAX155比でホイール径が1インチ拡大された14インチとなり、ブレーキディスクも前輪同様230mm径を採用。接地感の高さが、走らせてすぐに伝わってくる部分だ。

猛禽類の眼を思わせるシャープなLEDポジションランプと、控えめなコンパクトLEDプロジェクターヘッドランプの組み合わせ。ヘッドランプ下にはカーボン調のウイングレット風造形まで織り込まれ、スクーターの領域を超えたアグレッシブさを主張してくる。

4.2インチTFTは、手前をパネル内に沈み込ませた立体レイアウト。表示は3モードから選択でき、「トラックモード」ではラップタイム計測も可能だ。専用アプリ「Y-Connect」と接続すれば、着信通知やメール表示、音楽操作、天気予報、ナビ表示までこなす。

人差し指側に配置された走行モード切替ボタンで「T」「S」を選択。加えてシフトダウン専用の「SHIFT」ボタンも左手側にレイアウトされており、思わず指が伸びてしまう絶妙な位置に配置されている。

セルスタートボタンの他、アイドリングストップ機能のオン/オフやハザードスイッチが、纏められている。ハンドルのセット位置も絶妙で、車体を積極的にコントロールしやすい。

物理キーを差し込む手間なく、ノブを回すだけでエンジン始動が可能なスマートキーを採用。給油口やシートもボタン一つで開錠でき、日常のちょっとした手間を丁寧に省いてくれる配慮が感じられる。

左フロントボックスにはUSB Type-C対応の充電ソケットを標準装備。日常使いの利便性は高いが、スマートフォンそのものを収めるにはややタイトな印象。収納場所としては割り切りが必要かもしれない。

前方に足の投げ出し部分を持たず、足を下方に揃えて乗車するタイプのステップボード。センターアーチ部分をふくらはぎで挟んで車体をコントロールするスポーティなライディングポジションを得られる。

コンパクトな形状のLEDテール&ストップランプに、ボディと一体化したグラブバーを組み合わせ、レーシーなリアシルエットを演出。急ブレーキ時に自動点滅するESS(エマージェンシーストップシグナル)も備わる。

着座位置がやや前方に向かってシェイプされており、この手のスポーツスクーターにありがちな足つき性の犠牲を感じさせない。意識して後方に座り直すことで、上体をハンドルに寄せたスポーティな姿勢も自然に取れる。

約24.5Lの容量を確保したシート下トランクは、フルフェイスヘルメットの収納も想定した設計。スポーツ性を前面に押し出しながらも、日常の使い勝手を犠牲にしていない懐の深さを感じさせる部分だ。

サブタンク付きのリアショックを採用。車体を寝かせてスロットルを開け始めた瞬間の沈み込み方が絶妙で、そこから生まれるトラクションの入り具合は、試乗中に思わず唸らされたポイントのひとつだ。

電子制御CVT「YECVT」は、NMAX155に続き国内2モデル目の採用。T/Sの走行モード切替に加え、最大3段階の「シフトダウン」まで再現する。アエロックスでは専用セッティングが施され、追い越し加速により鋭さが宿る。








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