スズキ GSX 400X IMPULSE(1986)

掲載日:2016年05月13日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

SUZUKI GSX 400X IMPULSE(1986)
フルカウル化に向かう一方でその逆のカウルレス=ネイキッドへの提案が増えた当時、最も大きな衝撃を残したのが、インパルスだった。

奇抜な美で勝負した逸品

“インパルス"=衝撃。その意味を全身で表現していたのが1986年3月登場のスズキGSX-400X(カタログ表記に準じる)インパルスだった。インパルスの名称自体は1982年に、空冷4バルブインラインフォアのGSX400Fのバリエーションとして登場したGSX400FSインパルスが最初に使った。同車は、ヨシムラと共同開発した4in1のサイクロンマフラーを装着したのが衝撃だった。乾燥174→171kgと軽くされ、パワーも45→48psにアップ。シングルシート風の新シートや黒×赤のカラーも印象を深めた。

その1982年夏には国内でカウル認可、そこからバイク界は数年のうちにフルカウル化やレプリカ化が一気に進んだ。また、その反動で元々のバイクの姿が求められるとして、ネイキッドというジャンルが生まれていた。2代目インパルスは、そんな最中に、レプリカ化を強烈に進めていたスズキが新ジャンルに挑戦した意欲作という位置づけで登場した。

エンジンベースは同年デビューの3代目GSX-R(400)。前後17インチをいち早く採用。そしてデザインをGSX1100Sカタナで知られたハンス・ムートに依頼。性能はレプリカ並みにほしい。でも、単にレプリカからカウルを外すのがネイキッドといった流れにはしたくなかったからだ。

そのためにフレームは専用品を新作。スチールダブルクレードルで、ムートによれば「東京・六本木をイメージし」「日本の若者のライフスタイルをイメージした」というデザインが施された。タンクサイドからヘッドライトマウントにトラス風ラインを設け、フレーム自体も朱色に塗装。外装とエンジンは黒に近い茶色。ホイールリムとスポークはフレム同色。ネイキッドへの新しい提案だったが、その色と形から連想された「東京タワー」が、発表後すぐインパルスの俗称になったほど。それだけ印象が強かった。いや、今思えば、近代日本の象徴的存在である東京タワーがきちんとデザインに落とし込まれていたということか。

サブカラーのプラシャンブルー×赤、シャーベットシルバーのハーフフェアリング版(車名もGSX-400Xハーフフェアリング。型式はGSX400XS)は市場でほとんど見ることがないほど、メインカラーの印象は強かった。

デザインの話に終始してしまいそうだが、作り込みは当時としては十分。3型GSX-R(400)に同じエンジンは最高出力59馬力、最大トルク3.8kg-mを発揮し、最高時速もGSX-Rと同じ175km。ネイキッドだからといって性能は落とさず、ベースのレプリカと同じ数値を盛り込むのは当時の常識。

冷却はSATCS=スズキ・アドバンスド・スリーウェイ・クーリングシステムと呼ばれる3つ=空水油冷混合式。シリンダーヘッドは高熱にさらされるため水冷。シリンダーブロックはシリンダーフィンによる空冷。ピストン裏側にオイルを吹きつけることで冷却、そのオイルはオイルクーラーで冷却。エンジンの軽量・コンパクト化を狙うひとつの手法として採用された。燃焼室もスズキ独自の2渦流燃焼方式=TSCCでハイレスポンスと低燃費を狙った。

GSX-Rのアルミツインスパーからわざわざ換えたフレームは角型鋼管のダブルクレードル。トップチューブはエンジンヘッドサイドを通し、燃料タンクを低くセットして745mmという低いシート高を実現した。

クラス上限の59psハイパワーに対応する足まわりとして、リアサスペンションにリンク+偏芯カムのEフルフローターを装備。ブレーキはDPBS=デカピストン・ブレーキシステム。フロントは対向4ピストン×2で8、リアは同2ピストン×1で2、合わせてデカ=10個のピストンを持つ。フロントディスク径はφ290mmと大径で、レプリカ系に劣らぬシャープな効き味と制動力も持っていた。

当時ライバルの4気筒ミドルネイキッドはVFR400Z、FZ400Nがフロント16/リア18インチ、FX400Rが前後16インチだったが、インパルスは前後17インチで誰にでも乗りやすい、自然な旋回力を発揮する安心のハンドリングを見せつけていた。

意外と思えたのは、このGSX-400Xインパルスに免許試験車・教習車が用意されていたこと。教習専用のランプ/ガード類が装着されたほかに異なるのはアップタイプのハンドルバーがセットされただけ。40~50歳代の読者には覚えもあるのではないだろうか。検定試験や教習時に、このデザインはどのように受験生や教習生に写ったのだろうか。

生産は2年足らずに終わったが、他のどれにも負けていない、GSX-400Xインパルスの衝撃。確かにネイキッドへの意欲作だった。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

朱色の塗色と前端のトラス風形状。ここまでインパクトのあるデザインは稀だ。カタログでもモデルの男性が上半身裸=ネイキッドとなりたくましい身体を見せてこそいるが、レプリカのカウルを外せばネイキッド、ではないという、ロードスポーツへの新しいトレンドを提案した。“もしかしたら…"は世の常だが、今なら意外に受け入れられるのかもしれない

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