ヤマハ FZ400R(1982)

掲載日:2014年12月05日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA FZ400R (1982)
’80年代前期から中期には、短命に終わったモデルが多い。
だが短命でも強烈な刺激を感じさせたバイクは少なくない。FZ400Rはその1台だ。

ヤマハ最強の刺激的バイク

勢いというのは凄い。’70年代末期から熾烈を極めたメーカー間の販売合戦は、’83年には終焉したかと思いきや、そのために進化した技術がバイクファンのハートに火を点けていた。エンジンの水冷化による飛躍的な高出力化と、これに呼応した車体&足まわりの大幅な技術進化がユーザーニーズにピタリと合致し、新しくなれば売れた時代だった。

鈴鹿8耐をはじめとしたTTF-1(750cc)やTTF-3(400cc)レースの人気上昇もこれに強く拍車をかけた。サーキットを走るレーシングマシンのスタイルと、レースに勝つための技術をそのまま公道に集約、という図式が一気に浸透した。速さが正義であり、高性能を象徴する、分かりやすいスタイルこそが時代の要請だった。その分かりやすさは、バイク専門誌以外の一般雑誌が「普通のバイクがほしい!」という主旨の特集を組むほど。日本のバイク市場は認知されてはいたが、’82年のカウル認可以降、メインストリームはレーサーレプリカ系偏向に既に入り込んでいたからだった。

そんな状況下でデビューしたのがヤマハのFZ400Rだ。TTF-3ワークスマシンFZR400と同時開発された、という触れ込みだっただけにスタイルはまんまFZRレーサー。エンジンは前年登場のXJ400Z-Sの水冷直4の発展型だ。

圧縮比アップ、吸排気バルブの大径化、排気カムの変更などで55馬力から自主馬力規制いっぱいの59馬力へ。フレームはステアリングヘッドパイプからスイングアームピボットまでをできるだけ直線的に結ぶダブルクレードルの典型的なスタイルで、パイプは角型のスチール製。すでにスズキが同クラスでアルミフレームを導入しており、斬新さではインパクトはないものの、XJ400Z-Sから15kgもの軽量化は、誰もが乗車してすぐに感じ取れた。

セパレートマウントのハンドルで前傾姿勢は強め。エンジンをかけるとレスポンスの鋭さと回すほどに硬質になって行く4気筒サウンドが織り混ざり、走り出す前からライダーを熱くさせるキャラを持っていた。走り出すと「硬質な感触」は身体のすべてに伝播した。当時のロードレーサーは振動が少々大きくても、それで良しだったが、このFZ400Rもそんなレーサーそのままだった。

サス設定もこれを強調する。左右へのロールのしやすさや深いバンク時の旋回性は、数あるライバル群の中にあって最上の部類だが、スプリング荷重は高め。路面が良く、十分に荷重がかけられる状態でないとストレスがたまりやすかったと思う。標準タイヤも、一般ライダーの次元では取っつきやすいタイプではなかった。やはり、サーキットでの高荷重走行でこそ光ったタイヤだった。

そんな各部印象なのだが、400クラスの中でFZ400Rほど「エンジンも車体も前後サスも全部ひっくるめて硬派」なバイクは、過去に存在しなかったし、今でもヤマハ市販車の歴史で最もハードな乗り味だったと記憶している。登場時にレーサーFZR400があったことからして、その時点で次作、アルミデルタボックスフレームの市販型FZR400の開発が大きく進んでいたことは間違いない。冒頭の“普通のバイクがほしい”という向きに合わせるべくカウルを外し、ネイキッドを意味するFZ400Nを派生すると、FZ400Rは’86年に質感アップを行い、ラインアウトされる。

このハードなキャラのため、どこでもエンジンをブンブン回したくなり、燃料もあっと言う間に使ったと記憶している。それはライダーを夢中にさせるほど刺激が強かったということだが、その刺激こそが、この時代を象徴していた。FZ400Rは、それを1台のバイクに凝集したピュア・スポーツだったと思う。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

XJ400Z/Z-SのDOHC4バルブ・水冷直4エンジンを大幅にチューンして4-1マフラーを装備。すでにアルミが登場していた時代に鉄フレームを採用したのはアルミのメリットとの比較検討の結果。ホイールは6本スポークの16/18インチ、リヤサスはリンク式モノクロス。前後ブレーキディスクにはスリットも入る。上写真の右#6がファクトリーFZR400で、’84年に江崎 正選手が全日本TTF-3チャンピオンを得る

 

丸形2灯のFZ400Rに対してFZ400Nはカウルを外し、角形1灯を装備。動力数値はFZ400Rと同じ。最高速度202km/h、ゼロヨン12.4秒という社内データが公表されたのも、時代を表す。R比で車重1kg低減だがカウルのない分、ハンドリングはシャープさがアップ。むしろカウル付きのFZ400Rの方がニュートラルな特性だった。Nは「裸の」=Nakedの頭文字で、それまでネイキッドという語はバイク界では使われていなかった。このバイクがその原点だ

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