ヤマハ XV400 SPECIAL(1983)

掲載日:2014年05月09日 絶版ミドルバイク    

文/柏 秀樹(柏 秀樹のライディングスクール『 KRS 』)

記事提供/ロードライダー編集部

※この記事はカスタムNo.1マガジン『ロードライダー』の人気企画『ミドルバイク流星群』を再編集したものです

YAMAHA XV400 SPECIAL(1983)
’80年代前期のミドルバイク市場はまさに激戦区。そんな中、味と外観で
新世代アメリカンに真正面から取り組んだのがヤマハXV400だった。

新クルーザーの予感

’80年代前半は4メーカーの熾烈な販売合戦が繰り広げられた時期だった。大型車はもとより中型クラスでもエンジンの水冷化を筆頭としてのパワー競争だけでなく、リンク式リヤサスの採用など、走りのクォリティもジャンプアップした時代。

それだけではない。スポーツバイク分野では大型カウル付きモデルが一般化する一方で、’70年代末期まで下火だった2ストスポーツ車の人気も’80年のRZ250デビューで再燃し、ライバル他社からも刺激的なモデルが矢継ぎ早に投入された。

こうした経過から、’80年代後半の主役はレーサーレプリカ系へシフトしたが、一方で着実な進化成長を遂げた分野が北米ではクルーザーと呼ばれる、いわゆるアメリカンモデルのジャンルだった。

ホンダはカスタム、ヤマハはスペシャル、スズキはL。これらの名称を車名の後半部に付けた。同じようにカワサキはLTDと付けて他のロードスポーツと差別化していた。ちなみに、ヤマハが最初に使った「スペシャル」は’78年、バーチカルツインのXS650スペシャル、そして並列3気筒シャフト駆動のXS750スペシャルだった。

いずれもロードスポーツ車をベースにフレームの基本を大きく変えず、前後サスなど足まわり変更によるバリエーションの拡大だった。大きく手前にプルバックしたハンドル、段付きシートなどの艤装類で、アメリカンであることを主張。他社も同じような手法でロードスポーツのバリエーションアップとして、アメリカンモデルを加えていった。

そして前記の販売激化に起因する、ニューモデルラッシュに湧く中で、アメリカン専用のエンジンと車体を持つVツイン、今回紹介するXV400スペシャルが’83年に登場した。

しかし実際は、’82年登場のパラレルツインのXS400スペシャルとスタイルが極似しているため、新規性に乏しかった。しかも、この頃のヤマハの400ccクラスといえば空冷ツインのXS400系、単気筒のSR400とそのオフモデルXT400、4気筒のXJ400系。水冷系では4気筒のXJ400Z、VツインのXZ400系、さらに2ストのRZ350など、ヤマハ車だけでも選択に迷うほど多数の機種があり、余程の力作でなければアピールが難しい時期でもあった。

それでもヤマハが開発にゴーを出したのは巨大な北米市場を狙い、XV400スペシャルと同時開発のビラーゴ500(XV750ビラーゴの弟分)でのリスク分散が計算出来たからだろう。前傾姿勢よりも、ゆったりしたポジションの入門バイクの充実、という合理的理由もあった。

そんな背景を持つXV400スペシャルはエンジンの挟み角を理論上の振動0となる90度Vツインとせずに70度とした。あえてツインらしい鼓動感を演出するためだった。

エンジン本体を強度メンバーとするプレスバックボーン式フレームを選択したのは、より低重心となることと空冷Vツインエンジンの存在感をアピールするためだ。

ダウンドラフト式キャブとYICS(ヤマハ・インダクション・コントロール・システム)の採用で、XV400スペシャルは、優れたドライバビリティを発揮し、狙った通りのラインが描ける軽快な走りを実現した。アメリカンはツインとしての味があれば良いのではなく、さらに操縦が楽しいモデルであることが必要、とヤマハは主張していた。

伝統的なティアドロップ型タンクの採用は当然ながら、多用されためっきパーツに加えて、バフ掛けされたアルミパーツ、とりわけフロントフォークまわりの輝きがアメリカンとしての存在感を決める普遍性であり、同車もこのポイントを外さない王道を行く作り込みとなっていた。

ヤマハはこのモデルの後に新世代クルーザーとしてXV400ビラーゴを投入。燃料タンクをシート下に配置し、ダミーのタンクは極端に小さくした大胆な挑戦だった。後のビッグヒットモデル、ドラッグスター400につながる下地が、このXV400スペシャルで、すでにでき上がっていたのである。

カタログは時代の証明。カタログで知る名車の系譜…

ライバルとの明確な違いをアピールすることが開発者の使命。空冷エンジンのテイスト、400ccクラスでも明確な存在感を持つスタイルと質感の確保。XV400スペシャルは、当時の熾烈な販売合戦の渦中で生まれたためにインパクトは少なかったが、艶やかなテイストを真正面から求めた力作であった。エンジンのテイストを深く感じさせるシャフト駆動ならではの駆動音も、操る楽しさと見事に融合していた、ミドル級アメリカンの隠れ名車なのだ

当時の先端を自負したアメリカンフォルムと、クロームめっきとバフ掛けしたアルミパーツの輝きで、セクシーさをアピール

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