『医学でコーナリングを極める』

第4回 コーナーで固まらないためには?

掲載日:2015年11月02日 タメになるショートコラム集医学でコーナリングを極める    

Text/Toshiaki YOSHINO

前回の『第3回 コーナー進入時の医学的な見解とは?』では、コーナリング初心者のライダーが、コーナー進入で固まってしまって上手く曲がれない原理を、視神経と脳と記憶回路から説明しました。今回は、構造医学としてのブレーキング時の手と腕と体の関係をご説明しましょう。

GP中継の解説などで、よく「腕が上がった」という表現があります。減速することで人間にもGがかかります。教習所などでは「ニーグリップで体重移動を受け止めよ」と習いますが、そんなことをしているGPライダーがいないのは、コーナー進入時にイン側の足を開く、それどころかオフロードのように突き出していることからもわかります。GPライダーは、ニーグリップなんかしていません。

ではどこでGを受け止めているのか? というと、体幹の筋肉であるお腹と背中の筋肉、そして腕の筋肉です。腕の筋肉でも上腕三頭筋と肘筋という、いわゆる腕の外側の筋肉で、チカラコブ(上腕二頭筋)の反対側です。

上腕二頭筋が腕を屈曲させるのに対し、上腕三頭筋は、腕を伸展する(伸ばす)筋肉です。上腕三頭筋は腕立て伏せで鍛えられる筋肉ではありますが、ライディングでは単純に床をプッシュする動きではないため、いわゆる筋トレマシンでは鍛えにくい部位で、走り込みによって作っていく筋肉でしょう。

上腕二頭筋が縮むと腕が曲がり(左図)、上腕三頭筋が縮むと腕が伸びる(右図)。ブレーキングでは上腕三頭筋を使う。

先日、久しぶりに私も峠を走りました。神奈川県に住んでいる特権で、箱根スカイライン、芦ノ湖スカイライン、伊豆スカイライン、湯河原パークウェイ、椿峠など、一気に5時間、170kmも走り込んで腕が上がってしまいました。ライディングの腕(スキル)を上げたわけではありません(笑)。背中やおしりも痛くなりましたが、このコラムを書くには十分な収穫です。

法律の範囲内で、新品のタイヤをしっかり使いました。

ポイントは、ズバリ「右手首」です。右手はブレーキングでブレーキレバーを「握る」操作、アクセルグリップを「回す」動作、ブレーキングで体をGから「支える」動作、「両手両腕でステアリング操作を行なう」という動作が複雑に絡み合って、統合された動きをしなければなりません。

そこで、教習所では各々の動きを全てひとつずつ行なうことを教えます。それは初心者の安全のためだから仕方ありません。まず、ブレーキングは4本指でレバーを握りますね。以降の動作は次のとおり。

  • ① 減速を行ない、ブレーキングが終了したらアクセルグリップだけを握る
  • ② スロットルが全て戻った状態で十分に減速し、エンジンブレーキが後輪にかかる
  • ③ フロントフォークは縮んだ状態からやや戻る
  • ④ バイクはリーンを開始する
  • ⑤ クリッピングポイントよりやや手前でアクセルを穏やかに開け始め、チェーンの上側を張ってドンツキの無いようにし、そこからアクセルを開けて加速体勢に入る
  • ⑥ 自然と直立方向に起き上がり、コーナリングを終了する

いわゆる、教習所のスローインファーストアウトです。すべての動作をひとつひとつ行ないますから、素早いコーナリングは出来ません。教習所ならこれでも良いのですが、峠やサーキットではそうはいきません。全ての動作は重なり、連続して流れるように、これらを統合しながら行ないます。

突然ですが、オカマさんはコップの柄を持つときに小指を立てますよね? これは一体どういうことなのでしょう? じつはこれが、コーナー進入時のブレーキングに非常に大きな関係があるのです。

コップの柄を持つときに小指が伸び、薬指はやや曲がる。これはオカマさんだからではない。筋肉の支配神経が異なるからである。

なぜこのようになるのか? それは手を握る、という筋肉の支配が異なるからです。これを、医学では「支配神経」と言います。もっと言えば、小指・薬指・中指・人差し指・親指は、別の神経によって握られているのです。

つまり、ブレーキレバーを握るという動作は、一見一緒に指が動いているようで、じつは別々の神経が命令し、握っているのです。

正中(せいちゅう)神経でコップの柄を握ると、尺骨(しゃっこつ)神経は薬指の一部のみ働き、小指は働きません。だから、オカマさんのような柄の持ち方に自然となるのです。これは男でも女でもオカマさんでも、人間なら同じ動きになります。

さて、ここで問題なのは腕を伸ばす上腕三頭筋が頭骨(とうこつ)神経支配であり、これが親指の一部を支配しているということです。

ブレーキレバーを4本指で握る「教習所握り」、俗に言う「クソ握り」でしっかり握ると、上腕三頭筋も動きます。試しに、二の腕のたるんでいるところを左手で触りながら、ギュっと握りしめてください。二の腕が動きます。つまり、4本指でブレーキレバーを握ると、上腕三頭筋にまで同じ神経が支配しているので、腕全体が伸びて、緊張で固まってしまうのです。

4本指でブレーキレバーを握ると、左手で指している上腕三頭筋にチカラコブが出来ているのが分かる。つまり、ハードブレーキングを4本指で握ると、腕が緊張で固まってしまう。

一方、人差し指と中指は正中神経支配です。2本指で握ると親指の付け根でアクセルグリップを支持して握りますから、橈骨(とうこつ)神経を使いません。なので、腕は固まらないのです。

人差し指と中指の2本指でブレーキレバーを握ると、前腕には力が入るが、上腕はリラックス! ブレーキングのGを上腕と前腕でサスペンションのように柔軟に支えられる。

試しに、4本指で強く握ったまま、腕を曲げようと思っても曲がりませんが、人差し指と中指で握ると腕は曲がります。

グーにして思いっきりクソ握りしても腕は曲げられませんが…

2本指でブレーキレバーを握ると、あらこの通り、簡単に曲がります。

実際の腕の神経支配。これが分かれば腕が固まらないブレーキングが理解できる!!

指2本で握る典型はエディー・ローソンでしょう。一方、ガードナーはいわゆるクソ握りです。ローソンやケニーが、ブレーキングで減速からバンクしてコーナリング、そして穏やかにスロットルを開けて加速していく、極めてスムースで切れ目が無いのに対して、ガードナーはコーナーまでハードブレーキングで、減速の勢いを利用してバイクを倒し、加速重視で立ち上がるライディングです。

クリスチャン・サロンも、250ccチャンピオン時代と500ccの初期では4本指グリップで、ブレーキングとコーナリングとスロットル操作が各々独立している古典的ライディングでした。だからリーンウィズだったのでしょう。そのサロンも500ccの後期では、どんどん腰がずれてほとんどハングオンでした。

エディー・ローソンのブレーキングしながらの進入。ブレーキングは、なんと人差し指だけの1本握り。

クリッピングポイントでのフルバンク状態。ブレーキングは終了しているが、指はレバーにかかっている。進入から全く変わっていない肘の角度に注目。

コーナー脱出付近でイン側の膝は車体側に閉じ始めている。スロットルを開いているが、指はブレーキレバーに残したまま。肘の角度は、進入→クリッピング→脱出まで変わらない!

4本指ブレーキングの代表、クリスチャン・サロン。ブレーキングからイン側に倒しこんでいるところ。

ブレーキングが終了し、今まさにブレーキレバーを放そうとするところ。ここから上半身がイン側とフロント側に入り始める動作となり、肘が曲がり始めるところに注目。ブレーキングとコーナリングが各々の動作。

クリッピング付近。ヘルメット(頭)の位置がタンクのかなり前方へ移動し、カウルスクリーンに接近している。荷重はフロントにかかり、肘がさらに曲がっている。

さらにカウルに伏せ、イン側の足を閉じて加速体制になっている。肘はさらに曲がっている。ローソンと比べて、ブレーキング、クリッピング、脱出の動作がはっきりしている。

私達は素人で、もちろんプロライダーではありません。そしてバイクに乗りたての初心者は、コーナリングの前にオートバイの操作がきちんと出来ること(誤操作をしないこと)ですから、教習所のライディングは重要です。その際は、指を4本掛けブレーキにしてブレーキングを終了し、コーナーへアプローチし、スローインファーストアウト…が大切です。

しかし、ワインディングロードでスムースにコーナリングを楽しみ、パニックになっても固まらないためには、医学で走る知識は重要です!

ライダーによってブレーキレバーの握り方に好みはあるでしょうが、医学的には、ブレーキングでブレーキレバーを「握る」という操作と、アクセルグリップを「回す」という動作と、ブレーキングでかかるGから体を「支える」という動作と、「両手両腕でステアリング操作を行なう」という動作を別々の神経で行なった方が、筋肉も別々に動かせるので、安全にシンプルなコーナリングが出来るはずなのです。

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