『医学でコーナリングを極める』

第7回 かみ合わせと背筋とコーナリング速度の関係

掲載日:2017年09月11日 タメになるショートコラム集医学でコーナリングを極める    

Text/Toshiaki YOSHINO

みなさんこんにちは。吉野敏明です、お久しぶりです。大変申し訳ありませんが1年以上もご無沙汰をしておりました。

私事ですが、この1年は激動の変化でした。約2年半勤めた医療法人弥栄病院(精神科病院、病床280床)の理事長を2017年3月31日に退任し、同年4月から山梨県の医療法人桃花会一宮温泉病院(一般病院、病床123床)の理事長に就任しました。

また、7月には銀座に「誠敬会クリニック銀座」を開業し、東洋医学と西洋医学、医学と歯学を包括した、全く新しい、そして正しい医療を提供する医療体制をはじめました。こちらも是非よろしくお願いします。

誠敬会クリニック銀座のドクター陣です。左より、医療法人社団誠敬会理事長の田中真喜先生(歯周病専門医・指導医)、金澤武道先生(内科医・脳血管外来・未病治療専門)、不肖わたくし(口腔再生治療、口腔東洋医学)、そして小島常信先生(内科医、消化器外来)です。

さらに、バイクに関する激変ですが、愛車CBR1000RRは養子に出しまして(笑)、DUCATI 1098Rが新しい愛車となりました。

くわえてSUZUKI RG500Γ(ガンマ)も!!

このΓですが、非常に程度がよく、見つけてくれたのは元MCFAJでロードレース500ccクラスチャンピオン、MFJ全日本ロードレース選手権で大活躍&大人気の、JINPRIZEの斉藤仁さんです。

そして大親友のRCエレファンテの工藤雅男さんが整備してくださり、SUGAYAのチャンバーもついて絶好調!! いまは新車で買うことができない貴重な2ストロークエンジン、そしてオイルの臭い、脳みそが爆発しそうな甲高いエンジン音!! もう最高です!!

見ているだけで当時を思い出してワクワクします! スペンサーやケニー・ロバーツ、マモラやウンチーニ、そして平さんや水谷選手、それに我らがJinさん! 興奮します!

30年前のバイクなので、大変なのは整備よりもタイヤでした。フロント16インチ、リア18インチのバイアスのスポーツタイヤというのは、ほとんどありません。

苦労してバトラックスの新品タイヤを入れました。たぶん新車当時のタイヤのグリップを遙かに上回る性能のはずですが、乗ってみると……やはり30年前のバイクでした……。

セパハンでトップブリッジより下にハンドルが配置されているとはいえ、非常にハンドルポジションが高く、シート高もかなり低い。最近のレーシングバイクに乗り慣れた人が跨がると「ママチャリのポジション」としか思えません! スーパーマーケットに買い物に行きたくなるポジションです(笑)。

エンジンは3,000rpm以下はタコメーターが表示されていませんので、さぞかし下のトルクがないスカスカなのと思いきや、なんと余裕の低速トルク。 取り回しもさすが軽量のSUZUKI! 通勤通学にも十分使えます(オイルは吐きまくりですが)。

さて、そのハンドリングですが……

「こ、怖い!!」

うわさの1980年代16インチというか、私の高校・青春・バイクLOVE時代はまさに80年代初期のレーサーレプリカ絶好調時代。CBX400F、RZ250R、GPZ400Fなどがフロント/リア共に18インチでしたが、同時にVT250F、RG250Γ、MVX250Fなど、当時のレーサーレプリカ黎明期のフロント16/リア18インチのバイクが雨後のタケノコのように出まくっている時代でした。

……と、バイクLOVEの話はさておき、本題です。

なぜ、命をかけた外科治療が本業である私がバイクに乗っているのか? じつは、このバイクでギリギリのところを攻める感じが、難易度と危険度の高いオペをしている感覚に近く、絶対に失敗しないトレーニングにもなっているのです。トップ外科医の多くがバイクに乗っているのも、そのためなのです。

今回のテーマ「かみ合わせと背筋とコーナリング速度の関係」ですが、かみ合わせが全身の健康と関係のあることは、一般の方にも徐々に浸透してきました。そのなかでもかみ合わせは、ライディング的に、とくに平衡感覚と背筋力に大きな関わりがあります。

まず顎口腔の機能について、以下の4つが最も大きな機能です。

・咀嚼(そしゃく)
物をかみ砕き、消化液である唾液と混ぜ合わせること。

・嚥下(えんか)
咀嚼した食塊を飲み込み、呼吸器と隔てて下位の消化器に送ること。

・呼吸
空気を取り込み、細胞に酸素を取り込んで二酸化炭素を排出すること。

・発音
人間がおこなえる高次の情報伝達手段。

この4つがなければ、人間は死んでしまいます。

バイクに乗る、すなわち2輪という極めて不安定な乗り物を、バランスを取りながら運転し、バランスを崩したときなどは最後の手段として全身の筋力でそのバランスを取り戻すことが、4輪など他のモータースポーツと大きく異なるところです。

足の筋肉を除き、最大の筋力を発揮する部位は背筋です。男性の背筋力ですが、このコラムをご覧の多くのライダーの年齢層から見る平均は、38~45歳が130kg、46~50歳が120kgとなっています。

その背筋力を決める最大の要因となる筋肉は、目に見える僧帽筋や広背筋ではなく、じつは脊柱起立筋群である背骨と仙骨などを連結する筋群なのです(図の中央部)。

この筋群が頭や骨盤などと直接つながっていることに注目してください。

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)

頸椎は7つ、胸椎は12、そして腰椎は5つあります。次に、2枚のレントゲン像を見てください。

完全にまっすぐな背骨というのは少ないのですが、左は比較的正常な方です。そして右は、テニスをしていたら突然歩けなくなり、その後歩行困難になって当クリニックに来院した、顎関節症の患者さんです。腰椎と仙骨の境界の部分(仙腸関節)で大きなズレが出ていました。そこで、顎と頭のレントゲンを見てみます。

画像右の赤丸部分(患者さんの左顎関節)と左の赤丸部分では、関節の隙間が違いますよね? 正しい状態は右です。つまり、顎関節症になることで、最終的には頸椎→胸椎→腰椎→仙腸関節の順でねじれがおき、歩けなくなることもあるのです。

体のねじれによって起こる病気は沢山あります。肩こりや腰痛、婦人科系疾患はもちろん、高血圧やアレルギー、皮膚病にまで関連があります。

このような全身の歪みを治すには、従来では咬合(こうごう)治療といって、かぶせ物をしたり、入歯やインプラントでかみ合わせを治す結果として、顎関節の位置や頸椎の位置が治り、全身の健康が手に入る、という治療でした。

私はその概念を逆にして、仙腸関節や腰椎→胸椎→頸椎の位置を整復、そして最小限のかみ合わせと顎関節の治療を、鍼治療のアジャスターというカイロプラクティックの治療機器も併用する術式をあみ出し(マウスピースを用いて口を開け、体が左右対称で全身の筋力を最大限に発揮できる治療なので「開口学(R)」と命名)、全国の医師、歯科医師や鍼灸師、柔道整復師の方々にセミナーを開いています。都合100名以上の医師に治療を伝授しています。

この治療によって、寝たきりの患者さんが起き上がったり、歩けるようになった症例も多数あります。開口学治療によって、先に示した脊柱起立筋などの筋力が適切に全身に渡ること、また脊椎などが整復されて正しい姿勢になり、結果として背筋力が増すことになるのです。

そう、これを健康なアスリートに用いることで、さらに背筋力を増し、パフォーマンスを増す装置が、私が考案した「バイオニックマウスピース」なのです。

2013年マン島TTに参戦した故・松下ヨシナリ選手のメディカルサポートとして、このマウスピースを実際に使って頂きました。尊敬するJinさんがこのプロジェクトを発案し、3人4脚でスタートしたのです。

私自身もレース経験がありましたので、そのときの経験を最大限に重視し、自らもサーキットでマウスピースを調整、テストしながら開発しました。

マウスピースを黒く塗り、噛み締めた点が白く抜けたところを調整し、最大の背筋力が発揮できるよう、現場で調整を繰り返しました。

このマウスピースを装着したことによって、頸椎がまっすぐに整復され、気道(空気が通るところ)が頸椎の真ん中になり、呼吸機能が上がります。

また、ただマウスピースを装着するだけで、なんと背筋力は最大40kgも増加したのです(筋トレ無しで)!!

マウスピース装着前に、全身の筋力の検査、骨格の歪みの計測、レントゲン撮影、そしてカイロや鍼灸による骨格の整復をした後に私が開口学治療を行って、マウスピースを開発。

現在は日本人で唯一、NASCARに参戦予定の丸山浩一郎選手がこのマウスピースを装着し、トレーニングを行なっています。装着により、シミュレーションでは非常に良いタイムが出ています。

さて、このライディングの運動能力を上げるために、一般生活でどのようにしたらよいのか? 開口学治療について私の最新作がPHP新書より発行されました。「健康でいたいなら、10秒間口を開けなさい(840円・税別)」です。全国の書店で大好評発売中です。ご興味を持たれましたら是非ご一読ください。次回の予習にもなりますよ!

吉野 敏明
執筆者
吉野 敏明

岡山大学卒業、歯学博士。かみ合わせと全身の健康に詳しいドクター。2016年に刊行した著書『本当に正しい医療が、終活を変える』はAmazon医療部門1位を獲得。最新作はPHP新書『健康でいたいなら10秒間 口を開けなさい』。ハーバード大学、ミラノ大学などで講演するほか、TV出演も多数。医療法人社団誠敬会 会長、医療法人桃花会 理事長。

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