『医学でコーナリングを極める』

第2回 ライディング姿勢と解剖学的骨格の形態

掲載日:2015年09月01日 タメになるショートコラム集医学でコーナリングを極める    

Text/Toshiaki YOSHINO

さて、ライディング姿勢、とくにロードバイクは姿勢が重要です。スポーツは全てそうですが、スタンスや構え、道具のグリップ(握り方)が重要です。とくにテニスやゴルフなどの道具を使うスポーツはそうです。

サッカーやバスケットなどの球技では、走る・蹴る・投げるなどの動作を、ほとんどが動きながら、あるいは走りながら行ないますが、テニスや野球、ゴルフなどの打撃は、原則止まって打ちます。つまり、前者はモトクロスやトライアル、後者はロードバイクと似ているのです。

ゴルフをする人ならすぐわかると思いますが、クラブのグリップは超重要です。グリップがヘタクソだと、ボールがまっすぐ飛ばないどころか当たりもしません。それは“ボールを打つ道具”であるクラブと人間のインターフェースが、グリップだけだからです。精密にショットを打つには、①どこにいるか(立っているか)=スタンスと、②どのようにインターフェースしているか=グリップ、に強く依存しているからです。

さて、ここでロードバイクはどうでしょう? ②のグリップはよく分かると思います。問題は①のスタンスです。じつは、オンロードバイクは唯一“スタンスがどこにあるのか最も分かりにくいスポーツ”なのです。

よく、バイクを乗馬に例える人がいます。でも、それは近代のロードレースでは無理です。乗馬でハングオンしますか? ボブスレーも4輪もフォーミュラーも違います。完全に車とシートベルトで固定されています。

オフロードバイクは座っていることは少なく、むしろサッカーや野球に近いのです。つまり、座ったり立ったり=サッカーをしたり、ゴルフをしたりしているのです。これが分かっていない人が、ロードバイクを上手く運転できないのです。

プロのロードレーサーは元々運動神経の優れた人が多く、最初からこんな理論的なことを知らずとも自然にライディング出来るので、このような知識が参考にならないのです。

たとえば、タイガー・ウッズはゴルフの天才です。でも、ロバート・レッドベターという、ツアープロとしてはたいしたことのないプロにレッスンを受けています。なぜなら、レッドベターはツアープロでは成功しませんでしたが、レッスンのプロ中のプロで、グリップやスタンス、体重移動やスウィング理論などが卓越し、言葉で教えるプロなのです。これは運動神経が良い悪いとは全く関係ないのです。つまり、ロードバイクのライディングも、ライディングが上手い人から習うことは無理なのです。

さて、ロードバイクのスタンスの話に戻ります。まずライディングでは、体重はどこにかけるのでしょう? シートですか? ニーグリップしてタンクですか? それともステップですか?

答えは簡単です。オフロードのライダーが、あるいはトライアルの選手がステップに足を載せないでライディングしていますか? 荷重場所は低ければ低いほど安定します。

ここで勘違いしてほしくないのは、バイクの重心と人間がかける荷重場所とは全然違うことです。

バイクの重心は、低すぎると曲がりません。そこが4輪と最も異なる点です。4輪は低ければ低いほど曲がります。もし2輪がそうであったら、スクーターのようなバイクが最もオフロードで早く走ることが出来ることになります。でもオフロードバイクは、ロードよりも重心が高いですよね? むしろ高重心です。この高重心の倒れこむ挙動を利用して曲がるからです。しかしながら私たちは、ロードバイクに乗る前に教習所や試験場でウソの洗脳を受けています。

「ニーグリップすれば、バイクは安定する」これは本当ですか?

であれば、オンロードでもオフロードでも白バイでも、ニーグリップしてライディングしているはずです。白バイはよくリーンインします。この時点で、ステップ荷重で、しかもイン側に相当の荷重をかけているはずです。しかも、ニーグリップすると、背筋が緊張し、よほど運動神経の良い人でなければ、重心は頸椎まで上がってしまします。だから、大型免許が取りにくいのです。

近代MotoGPのハングオン+リーンインと、白バイの大会でのリーンイン。バンク角の次元は違いますが、似たようなフォームです。ニーグリップなんかしていません。本当は白バイのお兄さんも、腰をずらしたいはずです。

はっきり言います。これは完全にウソです。股を開いて良いとは言いませんが、シートにベタッと座ってニーグリップしたら、腰椎も胸椎も頸椎も固まり、重心は首まで上がってしまいます。もしかしたら50年代や60年代のバイクはそれでうまく乗れたのかもしれませんが…。

80年代のGPライダー、ランディー・マモラの有名な“マモラ乗り”は、外足を外してハングオンしていました。荷重はどう見てもイン側ステップとアウト側のタンクです。マモラ乗りでも明らかに重心は股間に、そして荷重はイン側ステップとタンク外側にあり、おしりは浮いているのです。

80年代の、まだタイヤがバイアスタイヤでサイドウォールのハイトが高く(扁平率が高い)、フルバンクのグリップが低く、かつフレームも強くない時代。ランディー・マモラの外足を外してイン側前にフル荷重してバンク角を稼ぐ、いわゆる“マモラ乗り”のフォーム。イメージとしてはフロントフォークのインに荷重されている感じ。ニーグリップなんかしたらこのフォームは不可能!

つまり、ライディングの基本は立ってステップ荷重しているのが原則で、実際に2輪のフィギュアスケートと言われるエクストリームショーでは、立ってステップ荷重でライディングしています。

エクストリームショーでの演技の様子。いろんなところに足の荷重ができるようにバイクが作られている。

コーナリングの色々な段階で、ロードレースのライダーは内足を外して内足の荷重を抜いたり、外足荷重になったり、タンクでの荷重になったり、肘でタンクを抑えて荷重したり、その時その時で荷重領域を変更しているのです。まさに、アルペンスキーの回転競技と同じです。それが、モトクロスやトライアルと違って、座るという動作もあるロードバイクの難しいところなのです。

かつて、ケニー・ロバーツやフレディ・スペンサーが、ハングオンでGPのライディングを席巻した時代がありました。それまのでライダーはステップとシートに荷重していて、上半身の体重移動とハンドリングでコーナリングしていたのでしょう。それが、リアをスライドさせるというオフロードやダートトラックのライディングの応用になってからは、ハングオン自体は腰をシートに載せない=シート以外のどこかに荷重する、というライディングに変化したのです。

ダートトラックでのフレディーフォームと、世界チャンピオンになった時のロードでのフォーム。ダートでは明らかに外足に荷重がかかっているが、ロードでは外足の内股がシートに荷重されている。基本的に上体はリーンアウトで基本荷重は同じフォームである。ダートではバランスはフロントタイヤでとれるが、ロードではグリップがいい分、上半身の体重移動でバランスしている。つまり、スライドが大きすぎた時は、リーンアウトからリーンインにして、バランサーとして上半身を、さらに倒れこむと頭をイン側に倒せる為に、リーンアウト気味にしている、と医学的には思われる。

だからこそ上半身、とくに肩や首、さらには顎までも、バランサーとして使うようになったのです。

すべてのスポーツ選手に該当することですが、晩年になってから「喰いしばって歯がダメになってから成績が落ちた」とよく言います。野球はもちろんのこと、とくに格闘家では顕著です。ライダーの噛み合わせやレントゲンをたくさん見てきましたが、成績の落ちている人は、ほとんどが第一大臼歯の噛み合わせが悪いか、歯が折れて無くなっています。だからこそ、わたしの発明したレーシングマウスピースがこれを補うのですが、これはまた次回以降で説明します。

つまり、素人で運動神経の悪い人こそ、オートバイの重心位置の理解と、バイクのどこに体重を荷重するかの理論骨格的な人間の重心原理がわかっていなければ、上手くコーナリングできないのです。

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