『バイク乗りの勘所』

殺傷能力を意識せよ

掲載日:2015年04月07日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

先月、3年ぶりに運転免許の更新に行ってきた。定例の行事とはいえ、2年ごとの車検よりもさらに1年長いインターバルだから、手続きに関しては覚えることよりも忘れることのほうが多く、受け付けに並んでいるときの気持ちは、初めて免許を取った頃と変わらない。ただ、もろもろの手続きが終わったあとの講習内容については、毎回、興味を持って聞いているせいか、よく覚えており、今回はとくに、前回と比べて大きく改善されているのを感じた。

最も大きな違いは、事故の痛ましさ、悲惨さをダイレクトに伝える現場の映像を見せてくれたことだ。事故件数の表やグラフなど抽象的なものではなく、かといって死亡事故の遺族や加害者のインタビューといった間接的なものでもなく、車の運転という行為がいかに危険で、一歩誤れば死と直結するものであることを直接訴求するシーンを織り込んだ短編映画である。女性受講者の中には、うつむいたり、目を背ける人もいたくらいの生々しいシーンもあった。

問題は、せっかくこうしたシーンを視聴したにもかかわらず、すぐに忘れてしまい、その後の運転に生かされないことだ。乗り物が(加害)事故を起こしたときの殺傷能力の高さは、その乗り物が持つエネルギーの大きさと密接に関連する。オートバイの場合は、走りながら重さや速度を感じとりやすいが、乗用車の場合、どちらも非常にわかりづらい。このことも、乗用車の運転者が、自分のしている行為=運転が持つ危険性に気づきにくい理由のひとつだ。

車の持つ危険性や殺傷能力の高さなどを、毎回、運転前や運転中に思い出すことができれば効果的だが、かといって運転免許の更新インターバルを短くしたり、テレビのコマーシャルで流したりするわけにもいかないだろうから、あとは運転者の工夫と努力にかかっている。こうした情報に接する機会を増やし、繰り返すことによって思い出す頻度を高めるのと、運転中、個々の場面で起こりうる最悪の事態を脳裏に描く想像力の鍛錬が早道のひとつだろう。

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