『バイク乗りの勘所』

体全体の動きを考える

掲載日:2014年06月30日 タメになるショートコラム集バイク乗りの勘所    

Text/Nobuya YOSHIMURA

若い頃、交通事故で大怪我をし、入院した。右手のヒジと手首の間に裂傷を負っていたので、そのあたりを包帯でぐるぐる巻きにされていた。そんな状態で手紙を書こうとして、あまりの字の下手さに驚いた。そして、字は指先ではなく、腕で書くものだと気づかされた。ボールペンや鉛筆で字を書くとき、手のひらの月丘(太陰丘)と呼ばれるあたりを机に着けてはいるが、固定はしていない。月丘を支点に、腕全体が動いてはじめてマトモな字が書ける。

同じようなことは、工具を使ったマシン整備にも当てはまる。どんなに小さなサイズのレンチでも、腕が自由に動かないと、力加減や入力方向の調整がうまくできない。14mmあたりから上のレンチになると、腕に加えて上半身も自由に動かせたほうがいい。だからといって、腕や上半身の力を使えというのではない。誤解しないでいただきたい。工具を握った手が狙いどおりに動くようにリードする、あるいはじゃまをしない。そのための“自由”である。

ライディングもまた然り。ステップに乗せた足を踏ん張るとか浮かせるとか、ハンドルを押すとか引くとか、いろんなことを言う人がいる。が、見た目だけ真似してもうまくいかない。ステップに乗せた足を踏ん張ると、太もも、尻、上半身、腕などにどういう変化(主に筋肉の緊張や弛緩)が生じ、バイクのどこに、どちら向きの力がかかるのか。さらに、その反力を、どこでどう受け止めるのか。そのあたりまで考えると、長年の謎が氷解することが多い。

体じゅうの筋肉に筋電センサーを取りつけ、揮毫中の書道家、整備中の名メカニック、コーナリング中のトップライダーらの筋肉の動きを解析すると、凡人が使っていない筋肉を、想像もできない方法で使っているかもしれない。が、まあ、それは措いといて、指先、手先、足先の見た目の形や動きにとらわれず、体全体の形や動きを観察したり想像したりして、それを自分で試してみるというのが、何事にも共通する“上達への近道”ではないだろうか。

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