掲載日:2026年05月28日 フォトTOPICS
取材・写真・文/森下 光紹

Vol.36 吉村 亘(よしむら わたる)

男性とは、つくづく不器用な動物なのだと良く思う。頑固で一本気。かたくなで柔軟性に乏しいとまで言ってしまうと何だかネガティブな印象になってしまいがちだが、そうではなくて、より強い感情を心の奥深くで温め続けて消すこと無い生き物という解釈もできる。
多くの男性は、少年期に憧れた物や強烈な印象を、基本的な自分の感情として大人になっても変わらず持ち続けていて、そのイメージを追いかけるものだと思う。乗り物好きの少年が大人になってもずっと変わらないのは、ごくごく自然なことなのだ。

吉村さんの故郷は九州。九州男児という表現はあるが、関西男児とか関東男児、東海男児などという表現は存在しない。つまりそれはどこか特別な存在ということを意味しているが、簡単な表現に置き換えれば、やんちゃで男気溢れるという意味だろう。
そんな彼の血気盛んな少年期は、自転車をカスタムして乗り回していた。乗り物が大好きで野山を駆け廻っていたのだ。こんな感覚は筆者も激しく同意する。カスタムとは、よりオートバイ風味を出すという意味合いもあって、中学生の時代とは、とにかく免許を取れない自分の年令を恨んだりする時代なのだ。
「しかし高校時代は意外に大人しく過ごしましてね、バイクとクルマの免許は19歳で取得しました。それで最初に手に入れたのはカワサキのFX400Rですよ。本当はね、角形ヘッドライトが装備されていたZ750GPに憧れていたんですけど、免許が無いですからね。同じ角形ヘッドライトだから選んだのかなぁ。」

その後、気が変わってヤマハのR1-Zに乗り換えたが、2サイクルエンジンのピーキーな特性があまり好きではなく、それっきりとなり、しばらくバイクは降りてしまう。
九州を出て名古屋で就職。金型屋で働きながら、その時代はバイクよりもクルマに興味が移っていた。そして29歳の時に上京。東京都内で高級外車を扱うカーショップのスタッフとして働きだした。
元々、とにかく乗り物好きゆえに、クルマ関係の仕事は彼にとって最高の職場であり、様々なクルマを取り扱うことと同時に、ドライバーとしてのスキルアップにも繋がっていった。その後転職しても、吉村さんはプロのドライバーとして幅広く活躍することになったのだ。
「とにかく様々なクルマを取り扱うものだから、撮影のドライバー役や、色々な現場にクルマを運び入れるドライバーとしても仕事があるわけですよ。これは楽しくて仕方がない。スーパーカーでも何でも乗りましたね。でもそんな時代を経て、ふとまたバイクが乗りたくなってきたんです」

仕事仲間がバイク乗りになっていったり、付き合いの長い友人がバイク復帰する姿を見て触発されたという理由もあるらしいが、39歳の時に、古いRD125を知人から譲ってもらい、吉村さん自身もライダーに復帰した。
すると職業ライダーとしての仕事もこなすようになって、ずいぶんバイクが身近なアイテムになっていたのだという。RD125は残念ながら本調子で乗ることはできなかったようだが、49歳で、本格的にライダー復帰するべく、自分のバイクを吟味して購入することにした。

「何が好きかなぁと考えると、やっぱり昔憧れたZ750GPなんですよね。しかし人気ヴィンテージモデルとして価格が高騰していて買えない。それなら、イメージが近い近代モデルと考えてZR-7になりました。
ノーマルだと大きな丸形のヘッドライトだけど、やっぱりここは角形のライトにしなくちゃ気が済まない。そしてミニカウルを装着すると、ほら、良い感じにシルエットが出来上がってきてね。カラーリングを当時のイメージにしたいから、まずはグレーのサーフェーサーで塗装したら、この艶消しの感じが気に入ってしまいました。まぁそのうちきちんと塗装する予定ではありますけど、当分このままで良いかなぁ」
そんなことを考えながら自分のバイクと接する時間は、きっと中学校時代に自転車をカスタムしていた頃とほとんど変わらない感覚なのだと思う。それが男坊主の正体なのだ。不器用で変わらない。男の一生は、一本道で繋がっているという確かな証拠がここにもあると僕は思った。
日常でのバイクの使い方は、ほとんどが近場の散策。朝早起きしてお気に入りのパン屋まで走り、家に帰って家族と朝ごはんを食べるというのが楽しみの一つと彼は朗らかに笑う。たまに遠くに出かけても、必ず日帰りで、泊りがけのツーリングはほとんどしない。普段の仕事では日本のどこにでも出かけてドライビングやライディングという日常という中に、とびきり楽しい時間を創るには、そんな”ちょい乗り”こそが最高の贅沢なのだろう。

仕事で撮影中の吉村さんは、いつも本当に楽しそうで朗らかだが、このZR-7に乗っている時の楽しそうな表情は、少し違うイメージだった。
そうか、そこには少年時代の彼が前に出てくるのだ。本当に心の底から乗り物好き。自転車小僧だった彼がバイクやクルマを手にしてそれが職業にもなったのに、プライベートの時間は、まるで最初の感覚に戻ってしまうのだと思う。
「ツーリングって、いちおう目的地を設定したりするけれども、実はきっとどうでも良いんだよね。乗っている時間そのものを楽しんでいるわけだから、どこに行こうがあまり関係ない。きっと多くのライダーがそんな感じじゃないのかなぁ。だから僕はちょい乗り派。どんなに遠くに出かけても、そのままの感覚で走って行きますね。これからもたぶん変わらないと思うなぁ」

プチカスタムが施されたカワサキの4発に跨って、勝手知ったる町を行く。初夏の日差しをまともに受けながら軽快な排気音を奏でるショートクルージングは、とても気持ちの良い時間だった。いつも身近にバイクがあって、大好きなイメージを大切にしている人は、人生を楽しむテクニシャンだと思う。









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