掲載日:2022年01月10日 フォトTOPICS
取材協力/日本ミシュランタイヤ 取材・文/中村 友彦 写真/富樫 秀明
サーキットやワインディングロードでの運動性ではなく、どんな場面にも対応できるオールラウンダーとしての資質や、ウェット路面での扱いやすさ、乗り心地、ライフの長さなどが重要な課題となる、スポーツツーリングラジアル。近年のこの分野で世界中のライダーから支持を集め、他のタイヤメーカーにとってのベンチマークと言われているのが、ミシュラン・ロードシリーズだ。ちなみに4以前のこのシリーズは、パイロットロードと呼ばれていたものの、2018年にデビューした5からは、パイロットを省いたロード○が正式名称となっている。
その最新作となるロード6の試乗会が行われたのは、栃木県のGKNドライブインジャパン。会場には先代の5と6を履いた同一車両×9種類=18台と、6を履いた2台が準備されており、我々を含めた取材陣が最初にちょっと戸惑ったのは、パッと見では5と6の区別がつきづらいことだった。もっともトレッド面をじっくり観察すると、5と6は似て非なるパターンを採用しているし、午前中に行われた技術説明会では、ウエットグリップと耐久性が大幅に向上しているというレクチャーがあったのだが、既存のこのシリーズの劇的な進化、世代を重ねるごとに別物になった感が味わえたことを考えると、ロード6の開発姿勢はキープコンセプトのような……?
まあでも、それは全然悪いことではないのである。何と言ってもロード5は、発売から3年が経過した現在でも、一線級の能力を備えているのだから。そんなわけで試乗前の僕は、ロード6に対して、ロード5の基本性能はそのままに、ウエットグリップと耐久性を大幅に高めたタイヤなのだろうと考えていた。そしてその仮説は、間違いではなかったもものの、必ずしも正解ではなかった。
最初に大前提の話をしておくと、ロード6は素晴らしいタイヤだった。冷間時から接地感が明確に伝わって来るので、走り始めた瞬間から自信を持っていろいろな操作ができるし、それでいてタイヤが暖まってから思い切ってコーナーを攻めると、エッジ部をほぼスリックとしていることの効果で、フルバンク時はハイグリップスポーツラジアルに匹敵するグリップ力が堪能できる。もちろんスポーツツーリングラジアルの命題となる、路面の凹凸吸収性や高速直進安定性、ウェット路面での走破性なども至って良好だ。そういった特性を把握した僕は、さすがミシュランと感じたのだが……。
問題はその印象が、同条件同一車両で比較したロード5にも抱けたことである。こういった先代&新型の比較では、先代に対して露骨な古さを感じることが少なくないものの、ロード5にそんな気配は無く、依然として能力は一線級。ただし厳密に言うなら、以下の2つの点で、ロード5とロード6は異なる特性を備えていた。
まず1つ目の違いは、コーナリング初期のフロントタイヤの手応え。直進から旋回モードに入る際に、スパッと言いたくなるキレ味を感じるロード5に対して、ロード6は滑らかで優しいフィーリングなのである。もっともこの件に関して、会場にいた同業者に話を聞いてみると、任意のバンク角に至るまでの体感速度が速いロード5のほうがよく曲がると言う人がいれば、いい意味で穏やかな特性のロード6のほうが曲がりやすいと言う人がいたので、安易にどちらがいい悪いとは言えないのだが、ロングランへの適応力、心身が疲れたときの扱いやすさでは、個人的にはロード6のほうが優勢と思えた。
そしてもうひとつのロード5とロード6の相違点は、ウェット路面におけるブレーキフィーリング。ABSをしっかり利かせながら、臆することなくフルブレーキングが行えることはどちらのタイヤにも共通だが、トレッドパターンとサイプの見直しによる排水性向上が利いているのだろう、ブレーキをかけ始めた瞬間からタイヤがグッと路面に食い付き、摩擦力が高まる感触は、ロード6のほうがわかりやすかった。もっともこの件も厳密に言えばの話で、ロード5の感触が悪いわけではまったくない。
そんなわけで、試乗前の仮説が当たらずも遠からず……だったことを認識した僕だが、自分自身が愛車にどちらかを履く立場になったら、やっぱりロード6を選ぶだろう。ひとたびツーリングに出かけると、疲労困憊になるまで走り続けることが多い僕にとって、前述した穏やかでわかりやすい特性は魅力的だし、常日頃から寂しい自分の懐事情を考えると、ロード5+10%という耐久性は相当に嬉しい要素だ。いずれにしても、スポーツツーリングラジアル市場におけるミシュラン・ロードシリーズの優位は、今後も変わらないと思う。