掲載日:2025年10月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA Rebel 250 E-Clutch
2017年の登場以来、ホンダのレブル250は若年層からリターンライダーまで幅広い層に支持され、クルーザーの世界に新しい風を吹き込んできた。ロー&ロングのシルエットに、扱いやすい水冷単気筒エンジンを搭載したそのコンセプトは、デザインも性能も「ちょうどいい」存在として定着。街中にもツーリング先にも溶け込むキャラクターは、発売から数年が経った今も色褪せていない。
そんな定番モデルに2025年、ホンダは“Eクラッチ”という最新の電子制御技術を投入した。発進や停止、変速のたびに必須だったクラッチ操作を電子制御が肩代わりし、必要に応じてライダーはレバーを操作することもできる――そんな二刀流の仕組みだ。クラッチを握らないレブル、というのは一見すると「らしくない」とすら思えるが、実際に試すとその自然さに驚かされる。今回はその新技術を得たレブル250を取り上げ、使い勝手や走りの印象をお伝えしていきたい。
登場からすでに10年近い年月が経ったレブル250。私自身もそうだが、1980年代に存在していた旧レブル250を知るライダーにとって、現行モデルがデビューした当時は大きな違和感があったことを今でもよく覚えている。それは、スタイリングがあまりにモダンに見えたこと、そして旧型が2気筒だったのに対して現行はシングルエンジンを採用していたことによるのだが、世の中の多くのライダーはそんなことを気にする様子もなく、デビュー直後から爆発的なヒットとなり、ストリートにあふれる存在となった。
何よりも印象的だったのは、初めてレブル250を走らせたときのことだ。想像以上に快活で元気のいいエンジン、そして小径のファットタイヤからは考えられないほど自然で素直なハンドリング。その瞬間に「これはヒットするに違いない!」と直感したのを鮮明に覚えている。その使い勝手の良さ、走らせる楽しさ、そして気持ちよさは、これからの幸せなバイクライフを約束してくれる――そう確信させてくれた。だからこそ、「いつか子どもが免許を取る日が来たら、一台買ってあげたい」と本気で思ったほどだ。
そんなレブル250も登場から年月を重ね、新車販売台数は落ち着きを見せている。しかしヒットモデルであることに変わりはなく、新車・中古車ともに流通量は多く、今なおマーケットの中心的存在であり続けている。そして今回、その人気をさらに押し上げる起爆剤となる仕様が登場した。それが、電子制御式クラッチ“Eクラッチ”を搭載した『レブル250Eクラッチ』である。
ホンダが開発したEクラッチは、従来の油圧式クラッチをベースに、その操作を電動モーターと電子制御で自動化したシステムだ。ライダーがシフトペダルを操作するとセンサーが動きを検知し、制御ユニットが最適なタイミングと力加減でクラッチを切り、変速後にはスムーズにつなぐ。これにより、クラッチレバーを操作しなくても発進・加速・減速・停止が可能になる。
先行してCB650RやCBR650Rに搭載されていたが、普通二輪クラスでは今回が初採用となる。そのEクラッチの感触を探りつつ、レブル250Eクラッチの仕上がりをじっくり確かめていきたい。
レブル250Eクラッチを目の前にしても、スタンダードモデルのレブル250と見た目の印象に大きな違いは感じられない。というのもEクラッチは既存のマニュアルトランスミッションに組み合わせる仕組みであり、レブル250Eクラッチの場合も車体右側のトランスミッション部に追加されている程度で、さほど大きな装置ではないため外観に違和感がないのだ。デザイン性を重視して手に取るライダーも多いレブルだけに、Eクラッチを搭載しても見た目が変わらないことは大きなポイントといえる。
レブル250については既に多くのインプレッションが世に出回っているが、それでもやはり伝えておきたい魅力がある。車体を引き起こしたときの“軽さ”、シートに腰を下ろした瞬間に実感できる“足つきの良さ”、そしてリラックスした姿勢で操ることができる”安楽なライディングポジション”は、このモデルを語る上で外せない部分だ。
そしてここからがEクラッチの見せ場である。『エンジンを始動し、ミッションを1速に入れる』。このときクラッチレバー操作は不要だ。そのままスロットルをじわりと開けていけば、自分で半クラッチを作り出したかのようにスムーズに発進してくれる。
走行中のシフトチェンジでもクラッチレバーを握る必要はない。ほどよい回転数でポンポンとシフトアップ/ダウンを繰り返しても、あるいは高回転まで引っ張ってからギアを変えても、システムはしっかりとついてくる。感覚的には近年のクイックシフターに通じる部分もあるが、発進から停止まで一度もクラッチ操作を必要としない点は大きな違いだ。ライダーのストレスを減らすことにつながり、街乗りからロングツーリングまで幅広くメリットを感じられるだろう。
さらにEクラッチはライダーが望めば従来通りクラッチレバーを操作することも可能だ。つまり“クラッチを使わない自由”と“クラッチを操る楽しさ”、その両立を実現しているのである。
走りに関して言えば折り紙付きだ。そもそもレブル250は、ロードスポーツモデルのようにコーナーを果敢に攻めることを求められるバイクではない。しかし、フロントに130サイズという太めの小径タイヤを装備し、前後16インチで前傾気味にセットされたフロントフォークといったパッケージングからは想像できないほど、軽快なハンドリングを実現している。スポーティに走らせても意外に“イケてしまう”というギャップが、逆に気持ちよく感じられるのだ。
シフトダウンとリアブレーキを上手く使い、リアタイヤをスライドさせるように方向転換するような走りも楽しめるのだから面白い。普段、大排気量モデルに乗り慣れている身としては、正直「もう少しパワーがあれば……」と思うこともある。しかし一方で、レブル250くらいのパフォーマンスだからこそ、振り回すような乗り方も気軽に楽しめるのだ。
これは願望だが、レブル250だけのワンメイクレースを開催しても面白そうだ。特に舗装路と未舗装路を組み合わせたスーパーモタード的なコースなら、白熱するに違いない。もちろん、太めで小さいタイヤと寝たフォークの組み合わせは、砂利が浮いたコーナーで足をすくわれそうになることもあり、「あっぶねえ!」と肝を冷やす瞬間もある。しかし、それすら含めて、レブルらしい楽しい仕様だと感じられる。
話をEクラッチに戻すと、その操作感はどこか“スーパーカブ系”のミッションを思い起こさせる。ここで一つ予言をしておくと、将来的にEクラッチを用いた250ccクラスの「ウルトラカブ」的なモデルが登場する可能性もあるだろう。もちろん横置きエンジンではないかもしれないが、スーパーカブのスタイルでまとめられた普通二輪クラスのモデルは、かなり面白い存在になりそうだ。
近年、各メーカーからオートマチックトランスミッションを採用した二輪車が次々と市場に投入されており、二輪界はオートマ化の前夜を迎えていると感じる。しかしEクラッチの場合は、従来どおりクラッチ操作も楽しめるため、また違った形で受け入れられ、今後普及していくことが予想される。レブル250Eクラッチは、その先導役となるモデルといえるだろう。
排気量249cc、ボアストローク76×55㎜の水冷4ストロークDOHC4バルブ単気筒エンジン。トランスミッション部分にEクラッチが備わっていることが分かる。画期的なシステムなので今後他のモデルにも採用されていくだろう。
130/90-16サイズのタイヤはフロント周りのボリューム感をもたらしている。キャスター角が寝かされてセットされたフロントフォークや小径ファットタイヤでありながらもクイックなハンドリングを実現しているのは、1490㎜とホイールベースが割と短めということもある。
リアタイヤサイズは150/80-16とされている。丸形断面パイプを使用したスイングアームは左右2本のサスペンションで支えている。マフラーのセット位置が割と高めで、歯切れのよい排気音がライダーの耳に伝わってくる。
オーソドックスな丸形ヘッドライトケースでありながら、4つのプロジェクターライトを内蔵しモダンな印象を上手く表現したフロントマスク。ヘッドライトカウルをはじめとした純正アクセサリーを多数用いたSエディションも用意している。
シートの高さは690㎜とかなり低く、足つき性は良好。パッセンジャーシートは大きさ的には十分だが、ステップとの位置関係やグリップがないため、体が前後に振れる。タンデムを頻繁に行うならシーシーバーやバックレストの装備も視野に入れると良いだろう。
メーターディスプレイはレブル250から変更はないが、ニュートラルランプの上部に新たに「Eクラッチ」作動マークが追加された。点灯時にはクラッチレバー操作不要で、シフトチェンジを行うことができる。
リアフェンダーから続くようにテールランプやライセンスホルダーステーが備わっている。クルーザーらしい雰囲気でまとめつつ、LEDライトなどを用いてモダンなデザインとしている。
リラックスしたライディングポジションとなる適度な位置にセットされたステップ。シフトチェンジレバーの奥には、Eクラッチ用のセンサーが追加された。なお、スポーツライディングでEクラッチでシフトダウンをする際、回転数を合わせるため若干スロットルをあおることもあった。
デザインは現代的なモダンスタイルだが、スチールスイングアームやツインショック、チェーンドライブなど、いたってシンプルな構成となっている。メンテナンス性も良く、バイクの構造を覚える勉強にもなる。
2017年のデビュー時には独特な形状だと感じたが、今となっては見慣れてしまった燃料タンク。容量は11L。試乗テスト時に満タン法で燃費計測を行ったところ、約31km/Lだった。
ユーティリティスペースは用意されていないが、クリップを用いて固定されているサイドカバーを外すと、ヘックスレンチが収まっている。これを使いシートなどを外すことができる。
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