掲載日:2025年06月19日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA CB750 HORNET
古くからバイクに親しんできた方の中には”ホーネット”というイニシャルを耳にし、90年代後半に登場したネイキッドモデルを連想する方もいるだろう。今年登場したCB750ホーネットは、大まかに考えると確かにその流れを汲むものだと言えないこともないのだが、内容を見てみると想像していたものとは大きく異なることがわかる。
例えばホーネットといえばCBR系の高出力4気筒エンジンを採用していたものだが、新型CB750ホーネットは並列2気筒エンジンを搭載している。ホンダの750cc並列2気筒エンジンといえば、NC750XやX-ADVなどのニューミッドコンセプト系の前傾エンジンがあるが、それとは異なり、トランザルプに採用されているスポーツエンジンの方をチョイスしている。
ホーネットといえども、以前のモデルとは一線を画する新型CB750ホーネット。今回はその出自を紐解きつつ、試乗インプレッションをお伝えしていこう。
数か月前、今回取り上げるCB750ホーネットの上位モデルにあたるCB1000ホーネットSPのインプレッション記事を書いていた。その際にも少々触れたのだが、そもそもホーネットというモデルは、90年代に起こったネイキッドブームの申し子的モデルであり、口火を切って登場したホーネット250は、他のライバルモデルがどちらかといえばオーソドックスなスタイルでまとめられていた中で、極太リアタイヤやシート下にセットされたアップマフラーなどが用いられアヴァンギャルドなキャラクターとされていた。これがワカモノを中心に大ヒット。その後、ホーネット600、ホーネット900とレンジを広げてゆき、ホンダのスポーツネイキッドモデルとしてその名を広く知らしめた。
中でもミドルクラスのホーネット600は欧州で絶大な人気を誇るモデルへと成長。その裏には、スポーツネイキッド、いわゆるストリートファイターセグメントのマーケットが成熟しており、その中でもミドルクラスは必要ライセンスや維持面で有利な事実があったことがあげられる。特にWSS(スーパースポーツ世界選手権)への参戦マシンをベースとしたホットモデルは高い人気を持ち、ホーネット600もその一台となっていた。
しかし、その後、アドベンチャーやネオレトロ系のブームとなり、国内はもちろん欧州でも2010年代にホーネットは姿を消していた。それから年月が流れ、2023年にCB750ホーネットが登場。マイナーチェンジが図られた2025年モデルから、我々の住む日本でも販売がスタートしたのである。日本のブランドであるホンダでありながら、欧州マーケットマターで復活したといえるCB750ホーネット、その内容を探っていこう。
CB750ホーネットはモーターサイクルショーでもその姿を見ていたが、実車に跨ってみると、かなりコンパクトに作られていることがわかる。750ccエンジンを搭載しているため、ミドルクラスとして区分されることが多いが、400ccクラスの車両と同等のサイズ感であり、ロードスポーツバイクとしては良好な足つき。これならば、体格に自信がなかったり、初めての大型バイクだというビギナー層でも問題ないだろう。
エンジンを始動し走り始める。先述したが私からすると世代的に”ホーネット=4気筒エンジン”という方程式を勝手に想像してしまうのだが、新生CB750ホーネットは並列2気筒エンジンを搭載している。このエンジンはCRF450Rの技術を応用した「Unicam」機構を備えた新開発のものとなっており、4気筒フルカウルスポーツモデルであるCBR650R並みのスペックを2気筒で達成している。
旧世紀ライダーの中には、依然4気筒エンジン崇拝者が存在するし、どちらかといえば私も傾倒している方ではあるのだが、ここ20年ほどの間に2気筒エンジンの性能は飛躍的に向上し、ハイパフォーマンスを絞り出すことも、低燃費に特化したものも作ることができるようになった。しかもそれらはコストを抑えつつ実現していることもあり、ホンダだけでなく他メーカーを見渡しても2気筒全盛時代となっている。
そのような中にあって、CB750ホーネットのエンジンの感触は素晴らしいものであると断言する。ライドバイワイヤを採用しており、スタンダード、スポーツ、レインのプリセット+ユーザーカスタムからライディングモードを選べるのだが、スタンダードモードでもスロットルワークだけでフロントタイヤが簡単に宙に浮くほど十分な動力性能を発揮する上に、右手の動きに対して従順な反応を見せてくれる。しかもそれが2000回転程度の低い回転数からレブリミッターにあたるところまで全域で得られるのだから素晴らしい。
さらに、ほどよい前傾姿勢となるシートやバーハンドルの位置関係、装備重量にして190kgという軽量な車体などと相まって、極上のスポーツライディングを楽しむことができる。
走れば走るほど全体的なバランスが良いことが伝わってくる。例えば130mmとロードバイクとしては豊かなストローク量が与えられたショーワ製SFF-BP(セパレート・ファンクション・フロントフォーク・ビッグピストン)倒立フロントフォークは速度を上げるほど路面をしっかりとつかむようなインフォメーションを得られる。リアサスペンションとシートの着座位置の関係性が良く、トラクションの入り具合も良く伝わってくる。
もちろんラフなスロットルワークを行えば、相応の反応を見せるものの、破綻するようなモーションに入らないし、コーナーへ差し掛かる前にしっかり減速し、一気にフルバンク、スロットルをひねり大胆に駆け抜けるという、いわゆるロードスポーツバイクの醍醐味的な爽快な走りを、ライディングスキルのレベルを問わずに楽しめるのである。
CB750ホーネットの試乗テストを行う前に、CB1000ホーネットの試乗テストを済ませており、正直なところ長兄モデルの完成度は高く、さすがにCB750ホーネットはそこまでのレベルに達していないだろうと考えていたのだが、そのように侮っていた自分を恥ずかしく思えるほどに、CB750ホーネットは良いのだ。NC750Xなどに搭載されるエンジンもほぼ同排気量で並列2気筒ではあるが、良くも悪くもCB750ホーネットの方が、エキサイティングなキャラクターとなっており、私はこのモデルをスポーツライディングの教習車的存在だと位置づけることにした。
刺激的な走りを過不足なく日常的に楽しめる上、車体価格は103万9500円、つまり税抜きなら100万円を切る値段で抑えられている。そこそこハイペースな走りも行った試乗テスト中での燃費は約23km/l(満タン法計測)となかなか良い数値である。これらすべてを踏まえて、CB750ホーネットはコストパフォーマンスに優れた魅力的なロードスポーツモデルだと思う。
左側のスイッチボックスは、昨今のホンダ車両で定番化されているタイプだ。ライディングモード切り替えが容易なうえ、4ウェイセレクトスイッチも扱いやすく、スマートフォンの専用アプリなどと連動することも可能だ。
上位モデルにあたるCB1000ホーネットを連想させるフロントマスクの意匠。低く構えた精悍な顔つきは、もはや”ネイキッドバイク”と呼ぶことすら恥ずかしくなるものだ。
795㎜と低く抑えられたシート。全体的に400ccクラス並みにコンパクトなので、多くのライダーが扱いやすく感じられることだろう。パッセンジャーシートは段付きセパレートタイプで、ライダーの腰の抑えも良い。
ステップのセット位置はさほど高くなく、市街地などでも扱いやすいうえにロングツーリングでも疲れにくい。しっかりと荷重をかけることも出来、全体的に好印象。シフトチェンジの際のミッションの入りもスムーズだ。
5インチフルカラーTFT液晶メーターを採用する。多機能でありながらシンプルで各種インフォメーションも伝わりやすい。Honda RoadSyncを搭載しており、アプリと連動した音楽再生や音声通話などもできる。
パッセンジャーシート下にはETC2.0車載器がセットされるほか、多少のユーティリティスペースとしても使うことができる。ライディング時の紛失を防ぐために、ウォレットやスマフォを入れるのも良いだろう。
燃料タンクはカバーではなく造形タンクであることも個人的にはポイントだと思う。カラーリングは写真のシルバーとブラックが用意されている。粗目のラメ感を楽しめるシルバーがお薦め。容量は15L。
”ホーネット”をあしらったラジエーターシュラウドと、ハチの巣を連想させるハニカムデザインを用いたラジエーターガード。こういったデザインの遊び心に物欲が刺激される。
バルブ駆動方式にUnicamを用いた755cc DOHC 4バルブ並列2気筒エンジンを搭載。ボアストロークは87×63.5㎜のショートストロークタイプ。最高出力は91馬力、最大トルク75Nmと十分なパフォーマンスを備えている。
φ41㎜のショーワ製SFF-BP倒立フロントフォークにNISSIN製対向ピストン4ポッドラジアルマウントキャリパーとΦ296mmのダブルディスクを組み合わせる。フロントタイヤからのインフォメーションは素晴らしく、ストリートではこれ以上必要ないと思えた。
フロント120/70ZR17、リア160/60ZR17のタイヤサイズは現代のロードスポーツの定石的なもの。リンクを介してスイングアームにセットされるリアサスペンションの動きも良く、深々と車体を寝かせることができる。トラクションコントロールも標準装備。
コンパクトでスポーティにまとめられたテールセクション。ターンシグナルやライセンスプレートを支持するステーのデザインも良い。ハザードランプを高速点滅することで急ブレーキをいち早く後続車に伝えるエマージェンシーストップシグナルも採用。
実際に跨ってライディングをしてみないことには、なかなか伝わりにくいかと思うのだが、ハンドルバーの幅やセット位置が絶妙であり、扱いやすいだけでなく、スポーツライディングも楽しめ、さらにツーリングでも疲れにくい。
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