掲載日:2025年06月06日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA NC750X Dual Clutch Transmission
2012年にホンダが新たに掲げたものの中にニューミッドコンセプトシリーズがあった。日本、北米、欧州など世界の様々な国や地域の成熟したモーターサイクル市場においてリサーチを行い、ユーザーがモーターサイクルに求める価値観の変化を調べ上げた結果生み出されたシリーズで、その第一弾として登場したのがNC700Xだった。今回取り上げるNC750Xはその後継モデルだ。
当時は珍しかったクロスオーバースタイルで……、いや、今見ても独特な印象を受けるスタイリングでまとめられたクロスオーバー的なモデルで、発表されたばかりの初代モデルを見て、触れた私は、”果たしてコレは受け入れられるのだろうか”と思ったものだが、ふたを開けてみれば、予想をはるかに超える大ヒットモデルとなった。数年ごとに改良が加えられ、2025モデルではフェイスリフトにはじまり装備の充実化も図られている。その最新版NC750Xに触れて、使い勝手、走行面の印象などをお伝えしていこう。
”常識の壁を破ってきた”、2012年にニューミッドコンセプトシリーズがリリースされた時に私が感じたことだ。ホンダのコンパクトカーであるフィットのエンジンを半分にするという着想から生まれたOHC4バルブのパラレルツインエンジンは、扱いやすさや燃費面を考えると確かに秀逸ではあるが、パフォーマンス的には物足りないと感じるものであるし、燃料タンク搭載位置やラゲッジスペース確保のためにアンダーボーン的な形とされたダイヤモンドフレームも美しいとは言い難いものだった。
昭和生まれのバイク乗りとしてはスパルタンなパフォーマンスと芸術品のような美しさをバイクに求めてしまう節はもともとあったのだが、もう時代は移り変わっていたのだ。ちなみにニューミッドコンセプトシリーズのテーマというのは、『日常的な使い勝手の中で誰もが扱いやすく、より一層軽快、快適で、味わい深く楽しいモーターサイクルを低燃費、お求めやすい価格で提供したい』というものだった。
ニューミッドコンセプトシリーズ共通のプラットフォームを持つモデルとして、NC700X、NC700S、インテグラをリリース。その中でもクロスオーバースタイルでまとめられたNC700Xは特にヒットモデルとなった。
発売当時前後の歴史を振り返ってみると、2010年にPCXが登場して瞬く間に全国の市街地を走り回った7年後、2017年に新生レブルが発表され、それも大ヒットを遂げた。その間を埋めていたのがNC700Xであったことを思い出した。
あくまで主観であり個人的な印象ではあるが、PCX、NC700X、レブル、どれもスタイリング、パフォーマンスを見ると腑に落ちないというか違和感のある部分があったのだが、それは斬新ともいえることであり、ホンダが時代を先取りしていたということの証左だ。
実際のところ、どのモデルも最高に感触が良く、しっかりとした内容だからこそ高セールスを記録したことにうなづくことができる。進化を続け、今も色あせずに目に映る最新版NC750Xの試乗テストを行っていこう。
NC750Xが前回改良がくわえられたのは2021年のことで、外観の刷新から7kgもの軽量化、スロットルバイワイヤの採用、ラゲッジスペースの拡大やローレシオ化などほぼフルモデルチェンジといえる内容だった。
そして今回2025モデルで改善された部分は、フロントマスクの変更、5インチフルカラーTFTディスプレイとマルチファンクションスイッチの採用、それに伴い専用アプリとの連携、フロントブレーキのダブルディスク化、環境に優しいバイオエンジニアリングプラスチックやリサイクル樹脂を一部に使用、そしてDCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)のアップデートなどだ。なおNC750Xにはマニュアルミッションモデルも用意されているが、今回はDCTモデルをピックアップした。
新しくなったフェイスマスクはシャープで、かなりソフィスティケートされた印象を受ける。シートは800㎜と数値的にはやや高めに思えるが、またがってみると意外なほど足つきが良く、両足外に開いてもべた足だ。こういうことは、実際に触れてみないとわからない部分である。
エンジンを始動し、ミッションをDレンジに入れ走り出す。実は今回のNC750Xはプラットフォームを共通とする兄弟的モデルX-ADVと入れ替えでお借りしていた。そのX-ADVと比べると、フロントフォークやブレーキなど、NC750Xの方が低グレードなものが使われていることがわかるが、走りこんでいくうちにNC750Xの装備やセッティングがバランス的にはベター、いやベストとも言える程であることが分かってくる。
最も大きなポイントは何といってもDCTの最適化により、ライダーの意思によるスロットルワークと車体側のクラッチ操作、エンジンの特性がほぼ完ぺきにシンクロできている点だ。従来モデルだと若干シフトに迷うようなシーンでも、新型はスッとベストなシフトを選んでくれるのでストレスがない。これは市街地、ワインディング、高速道路などあらゆるステージで感じたことだ。
スクーター的な姿かたちから、ニーグリップはできないし、ライディングポジションも独特なX-ADVと比べても、一般的なモーターサイクルに乗っているという安心感は高く、その分快活な走りをしてしまう。
先だって触れたフロントフォークの動きやダブルディスク化されたブレーキの制動力は、走りこむほどに十分過ぎるほどであることがわかるし、昔から定評のあるリンク式リアサスペンションも路面やタイヤの状況をしっかりとライダーに伝えてくれ、無理も不安もなくタイヤの端まで使うことができる。
以前はパンチに欠けると感じていたパラレルツインエンジンのサウンドはうまく調律され、かなりパワフルな仕上がりとなっている。新たに採用された液晶ディスプレイは視認性もよく、マルチファンクションボタンも扱いやすく好印象を受けた。結局のところ、モーターサイクルのパフォーマンスと乗ってライダーが心地良いと思える部分というのは必ずしも一致しないのだと、改めて感じさせてくれる。
一点、これも時代の流れ的に仕方のないことなのだろうが、旧モデルは抑えられた価格も大きな魅力だったが、DCTモデルが税込み100万円を超えてきてしまっていることは少々残念に思う。ただ間違いなく手に入れて幸せになることができる一台であると断言しよう。
ボア・ストロークを77×80㎜とする745cc、水冷4ストロークOHC4バルブ直列2気筒エンジン。最高出力58馬力を6750回転で、最大トルク69Nmを4750回転で発生。満タン法による燃費は約25km/Lだった。
2025モデルでダブルディスク化されたフロントブレーキは十分な制動力かつ、タッチも良くとてもコントローラブル。ショーワ製正立フロントフォークはSDBV(ショーワ・デュアル・ベンディング・バルブ)でフロントタイヤの接地感、回頭性は良い。
前後とも新設計ホイールを採用している。ホイール自体は軽量化されたというがダブルディスク化などもあり、車体重量は従来モデルと比べて2㎏多い226㎏となっている。タイヤサイズはF120/70ZR17、R160/60ZR17となっている。
よりスマートで精悍なデザインとなったフロントマスク。環境にやさしいバイオエンジニアリングプラスチック“DURABIO”をフロントスクリーンと外装の一部に採用するほか、リサイクル樹脂なども使用されている。
ロードスポーツモデルのようにコンパクトにまとめられたテールセクション。タンデムグリップには荷かけフックが装着されており、パッセンジャーシート上に荷物を乗せることも想定している。
通常燃料タンクがある場所はラゲッジスペースとされている。23Lもの大容量を誇り、X-ADVのシート下にあるラゲッジスペースと比べても使い勝手は良い印象。ただ、スペースをより有効活用するため、できればETC2.0車載器は別場所に設置したい。
パッセンジャーシートを跳ね上げるとガソリン給油口が姿を現す。初代モデルから踏襲されているレイアウトだが、パッセンジャーシート上に荷物を積載した際に、下ろさなければならないとの意見もある。
DCTモデルはシフトチェンジレバーがない。ステップを支えるパーツの前の黒いカバー部分が光沢のある仕上がりとなっているのは、見た目的には良いが、ライディングブーツで傷をつけてしまいそうに思う。
2025モデルで新たに採用された5.0インチTFTフルカラー液晶メーター。すでに他のホンダモデルで多く採用されているものと同様のタイプで、視認性がよく、欲しいインフォメーションを即座に受け取ることができる。
TFT液晶ディスプレイと連動する4ウェイセレクトスイッチが採用されている。ブルートゥースでスマートフォンアプリと車両を連動することで、マップやミュージックアプリなどを操作することが可能。シフトアップダウンスイッチやパーキングブレーキも左側に備わる。
右側のスイッチボックスはスタート/キルスイッチ、D/M、ニュートラルセレクトボタン、ハザードスイッチだけとシンプルな構成。なおグリップヒーターも標準で装備されている。
NC750Xの素晴らしいハンドリングに大きく寄与しているのが、リンクを介してスイングアームにセットされるリアサスペンションだ。動きが良く、トラクションをしっかりと路面に伝えてくれる。プリロードは7段階で調整できるので、適宜セッティングを楽しみたい。
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