掲載日:2025年05月01日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
HONDA NT 1100
ブランニューモデルとしてNT1100が登場したのは2022年のこと。先だって登場していたアフリカツインやレブル1100と同型の並列2気筒エンジンを搭載し、ホンダが独自開発を行い熟成が進められたオートマチックトランスミッションであるDCTが採用された。長めのストローク量が持たされた足まわり、シャチやサメなど海洋大型動物を連想させるなんとも独特なデザインなど、見るからに異端児的な存在であり、むしろそこが強烈な魅力として受け入れられた。
インパクトのある登場から約3年が経った今年、各部をアップデートした新型NT1100へと生まれ変わった。従来モデルからの変更点をピックアップしていくとともに、走りや使い勝手などでどのような変化が持たされたのかを調べていくことにする。
NT1100は今から3年前の登場時に試乗テストを行ったことがある。もはや熟成が進んだDTCに不満はなかったし、エンジンの制御や、巨体を支える足まわりも素晴らしいと思ったことを今も覚えている。
古くからバイクに親しみ、海外のラリーやオフロードコンテスト、トライアルライドなどもするようなエキスパートライダーの知人がいるのだが、その方は北関東に居を置き、毎日都内へバイク通勤を行っている。数年ごとに通勤バイクを乗り換えているのだが、NT1100が登場しすぐに乗り換えていた。「これは快適でパワフル、往復200kmを越す通勤にはもってこいのバイクだよ」と話していた。
それはある意味特殊な使い方ではあるのだが、長期休暇を使い大陸的なロングツーリングを楽しむ文化が根付いた欧州で多くのツーリングライダーにも受け入れられてヒットを遂げた。
アドベンチャーモデルのようにオフロード走行をそこまで想定していなくとも良い。レーシングエンジンを用いたクロスオーバーモデルまでのスポーティな味付けは要らない。街中でも遠出をしても楽に走らせることができ、それでいながらダイナミックなスポーツライディングもイケる。しかもパッセンジャーシートに乗るパートナーも喜んでくれるほど快適。このように全方位まんべんなく秀でたキャラクターのモデルは実は少ないのである。
そのNT1100が今回のモデルチェンジでどのようになっているのだろうか、どこか一部分でも出っ張ってしまうと、持ち味が損なわれてしまわないかと、若干の心配を抱えながら試乗テストは始まった。
ホンダ青山ビルの建て替え工事の影響で、広報車両の受け渡し場所が変更されて早1ヵ月ほど。以前よりも遠くなったのだが、都心部ではなくなったこともあり、往復路だけでもライディングをかなり楽しめることにメリットを感じている。特にNT1100のような大型車ではなおさらであり、久しぶりに目の前に置かれると、”おおっ”と思うほど大きく、それを徐々に体に馴染ませながらじっくりと吟味していくことができるからだ。
新型NT1100はスタイリングから小変更が加えられている。例えばデイタイムランニングライトとターンシグナルを一体化していたり、フェイスマスクからサイドカバーにかけて空力を高め、より一層流麗なラインが描かれている。全体的にソフィスティケートされたと言うのが第一印象だ。
エンジンを始動し、手元のDCTボタンをドライブモードに入れて走り出す。ビッグツインらしい強めの鼓動感がむしろ心地よく感じられる。まず最初に思ったのは足まわりの熟成度の高さだ。
新たに電子制御サスペンションが採用されているのだが、動きが良く、減衰力が自動に調整されるのも非常に的確。普通に市街地を乗り回すだけでも、良いサスペンションだと思えたが、その後様々な場所を走らせているうちにその思いは強まり、ワインディング中に現れる減速帯などの凹凸でのショック吸収も滑らかで、さらにはハンドリングも秀逸。であるからして、ついついアグレッシブな走りになってしまうのだが、車重があるだけに油断は禁物であることも付け加えておく。
足まわりの進化と共に注目したいのがエンジンパフォーマンスの向上、そしてスロットルバイワイヤ及びDCTのセッティング最適化だ。極低速時でのスロットルワークに対する駆動伝達がリニアで、不自然さの無い低速走行ができる。従来モデルでもこの点に関しては十分良く作りこまれていると感じていたが、より一層ナチュラルな感触となった。
エンジンそのもののパフォーマンスも引き上げられており、バルブタイミングや圧縮比の見直しにより、低中速域でのトルクが約7%引き上げられている。7%という数値は実は意外と大きく、スロットルをガバッと開こうものなら、腹部にズンとくる太いトルクを得ながら怒涛の加速を楽しめる。その勢いについつい存在しないシフトレバーを蹴り上げたシーンもあったことをここで白状しよう。
ライディングモードはツアー、アーバン、レイン、ユーザー設定×2の5つ用意されている。アーバンモードが標準とされているが、私の乗り方ではツーリングモードの方がスムーズに走ることができた。タッチパネル式の6.5インチディスプレイは視認性が良く、使い勝手も良い。スクリーンは5段階調整可能で、片手で可動出来るが、できれば電動にして欲しかったと思う。
世の中的に自動二輪車のオートマ化が進んでいる昨今ではあるが、NT1100に乗ると、ホンダは一日の長があるとしっかりと感じられた。それほどDCTは良いのだ。新型NT1100は大胆に扱うことではじめて分かる魅力があり、それはエキスパート向けだとも思ったが、基本的なバランスが良く電子制御も優れているので、深い懐も持ち合わせている。
先だってこれから白バイとしてNT1100が使われることが発表されたことは、全体的な走りやすさというものが認められた証だとも思う。ただ、残念なのは日本で販売されていないマニュアルミッションモデルであるということか。
何はともあれ、私は少なくともNT1100のDCTは推しであるし、率先してシフトチェンジボタンを使えばさらにエキサイティングなライディングが楽しめることも保証する。
圧縮比とバルブタイミングを変更し、低中速域のトルクが向上した1082cc水冷4ストロークOHC4バルブ2気筒エンジン。DCT(デュアル・クラッチ・トランスミッション)もセッティングが見直され、特に極低速域での扱いやすさは向上している。
足まわりには新たに電子制御サスペンションEERA(Electronically Equipped Ride Adjustment)を採用。IMUなどから路面状況をはじめとした走行シーンをフィードバックし、最適な減衰力に自動調整する。タイヤ、ブレーキとの相性も良い。
コーナリング中にブレーキをかけた際に、車体のバンク角、前後車輪速などから算出し、タイヤがロックしないよう自動にコントロールするコーナリングABSや、ハンドルにあるスイッチ操作で調整可能なリアサスペンション電動プリロードアジャスターを装備。
燃料タンク容量は20Lと十分。今回の試乗テストではロングツーリングまでは出られず、ストリートやワインディングを中心としたもので、強めのアクセラレーションを行っていたものの、ガソリン1Lあたり20km以上だった。燃費も良い。
オプションのトップボックスに対応したキャリアが装備されている。パッセンジャーのグリップバーも兼ねているほか、そのまま荷物を括り付けることもしやすい形状だ。急ブレーキ時にハザードランプを高速点滅させ後続車に伝えるエマージェンシーストップシグナルも装備。
6.5インチタッチパネル式TFTフルカラー液晶のディスプレイ。ディスプレイは感圧式でありグローブをしたままでも操作できた。スマートフォンと車体をUSB接続してApple CarPlayやAndroid Autoなどのアプリの使用もできる。
フェイスマスクはデイタイムランニングライトとターンシグナルを内蔵したヘッドライトを採用。全体的なデザインの意匠は従来モデルを受け継ぎながら、ソフィスティケートされた印象を受ける。
高さと角度を5段階で調整可能なウインドスクリーンは調節機構を見直し、操作性が向上している。一番高い位置にすると、ライダーが受ける走行風が気にならないだけでなく、雨天でもほとんど雨水を体に受けなかった。
シートも改良が加えられている。ライダー側は従来モデルに対し着座面積を20%アップさせ、さらにクッションの硬さも適正化。パッセンジャーシートも厚みや広さ、傾斜角が見直されている。
DCTモデルであることからシフトチェンジレバーを持たない。ただ最近DCT車に乗って思うことは、固定式のレストバーがあっても良さそうということだ。白バイや輸出モデルではマニュアルミッションモデルもある。
ハンドルバーは車体の抑えが効き、さらに長時間走らせても疲れない位置にセットされている。スイッチは多いものの総じて分かりやすく、モードやクルーズコントロール、車両状態のチェック、セッティングなどすぐに使いこなせた。
タンデムシート下にはETC2.0車載器がセットされているほか、広めのユーティリティスペースが確保されている。スマートフォンとウォレットなど貴重品を入れるのにも良さそうである。
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