掲載日:2024年10月16日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA MT-09 SP
ヤマハのCP3(クロス・プレーン・トリプル)モデルの新製品攻勢が止まらない。今期はスポーツネイキッドシリーズの長兄であるMT-09、目下再注目モデルであり今年のニューモデルアワードを総なめにするのではないかと噂されているネオクラシックモデルXSR900GP、そしてそれらに続き、ここで紹介する贅沢装備がふんだんに取り入れられたヤマハネイキッドモデルの最上級モデル『MT-09 SP』が登場。さらにその後、次世代型オートマチックトランスミッションシステムを搭載するMT-09 Y-AMTまでもが追加されている。
先だって新型MT-09の試乗インプレッションを行っているのだが、それがべた褒めできる仕上がりとなっていただけに、はたして上級バージョンとなるMT-09 SPがそれを凌駕することができるのか、これが今回のポイントとなってくる。
2014年に初代モデルが登場したMT-09に『SP』グレードが追加されたのは2018年であり、その時すでにフロントマスクのリフトアップをはじめ多岐にわたって手が加えられた2代目がベースとなっていた。前後サスペンションをよりグレードの高いものとしているほか、細部の質感を高めるなど、より一層スポーツ志向であり、さらにプレミアム感を持たせた上級バージョンである。今年4月には3.5世代目モデルチェンジが図られた新型MT-09が発売され、それに追随する恰好で7月にMT-09 SPが登場したのだ。
まずスタンダードバージョンとMT-09 SPの現行モデル同士の違いから説明してゆくと、バネレート強化と減衰特性を従来型MT-09 SPからリセッティングしたKYB製フルアジャスタブルフロントサスペンションと専用開発のオーリンズ製プリロード調整ダイヤル付きフルアジャスタブルリアサスペンション、ブレンボ製Stylama(R)キャリパーの採用、メーター表示パターンにトラックモードを追加、スマートキーの採用、さらに細かい点ではエンジンブレーキマネージメントやリアABSオフなどの設定も可能となっている。カラーリングは”YZF-R1M”をインスパイアしたMT-09 SP専用のものだ。
装備の違いをざっと見積もっても車両価格差以上のハイグレードパーツが用いられていることは明白。スポーツライディング性能も向上しているのだろうが、はたしてストリートというステージにおいてそれは一般的なライダーが感じ取れるものだろうか。実際に試乗して吟味していきたいと思う。
私は直近数カ月の間に新型MT-09だけでなく、XSR900、XSR900GP、さらにはトレーサー9GTプラスも試乗テストを行っている。MT-09 Y-AMTこそまだ触れていないが、あれはトランスミッションにフォーカスすべきモデルであるはずなので、MT-09 SP以外のCP3(クロス・プレーン・トリプル)エンジンを搭載するすべての車両に乗ったうえで、走りの面に関して最も好みなのはMT-09である。
MT-09の足まわりに関しては取り立てて不満も感じなかったので、サスペンションやブレーキを強化したMT-09 SPはより良く感じられるものなのだろうかとも思っていた。しかもこの手のモデルとなるとクローズドコースでの走行も想定しているのだが、今回の試乗テストはストリート(公道)のみなので多くのユーザーの使い方に近いはず。そこでどう感じられるかがポイントだ。
そんなことを考えながら初めて新型MT-09 SPの前に立つと、見た目からして強いオーラを放っていた。新たなフロントマスクをはじめとしたデザインはMT-09と同じなのだが、フラッグシップスーパースポーツ“YZF-R1M”に通じるカラーリングやバフ仕上げされたスイングアームなどスタイリングからして高級感が溢れ出ており圧倒的に格上の存在感となっている。
初採用のキーレスエントリー機能でイグニッションをオンにして走り出す。と、その瞬間に「えっ」と思わされた。それはサスペンションの感触である。まずヤマハの広報車両が置いてあるデポの前にある側溝のグレーチングとコンクリート蓋を乗り越える際にコツコツではなくスッスッとパスしたのだ。これはヤバい、思っていた以上に良さそうだ。
ヤマハのデポと私のヤードは約100km弱離れており、その間に交通量が多く常に渋滞している幹線道路、首都高を含む高速道路、ワインディングロード、そして細かい路地が続く住宅地と、日常使いで遭遇するステージをほぼ網羅する贅沢なテストコースとなっている。
MT-09 SPのライディングモードはスポーツ・ストリート・レイン・カスタム×2・トラック×4が用意されており、パワーデリバリー、トラクションコントロール、スライドコントロール、リフトコントロール、クイックシフト、ブレーキコントロール、バックスリップレギュレータ、エンジンブレーキマネージメント、ABSリアオフなど詳細な設定ができるが、 サーキット走行などでない限り、プリセットされたスポーツモードとストリートモードがメインとなるだろう。逆に言えば、走行会レベルでなくサーキットでのタイムアタックやレースなどでも対応できるほど細かいセッティングが可能ということでもある。
インプレッションに話を戻すと、エンジンを切った状態で押し引きすると、それなりに重さは感じたが、車重は194kgと軽量で走り出すと羽が生えて飛んでいくように動きが軽い。それでいながらもぴょんぴょん跳ねる感じではなく、路面に吸い付くようなシットリとした乗り心地だ。
スタートでフロントアップを決め、コーナーで一気にフルバンク。そんな芸当が誰でもできてしまう設定がなされている。エンジンで言えば3000~5000回転でのクルーズがとても心地よいこと、その上を使えばアグレッシブなキャラクターに豹変。フロントタイヤからリアタイヤまで流れるような動きを楽しめるサスペンション、ブレーキなど足まわりの違いはストリートでも分かる。
つまりMT-09、MT-09 SPの価格差はしっかりと性能反映されているのだ。ワンランク上の走りと所有欲を満たしてくれる質感、あくまで主観ではあるが現行ラインアップされているCP3エンジン採用モデルの中でMT-09 SPはイチオシだ!!
搭載される排気量888ccCP3(クロスプレーン3気筒)エンジンのスペックは兄弟モデルであるMT-09やXSR900などと同様の最高出力120馬力、最大トルク93Nmとされている。
インナーチューブにDLCコーティングが施されたKYB製フルアジャスタブルフロントサスペンションは従来モデルからバネレート強化と減衰特性のリセッティングがなされている。今回ブレンボ製Stylama(R)キャリパーを新たに採用。
バフ仕上げとされたスイングアームにヤマハ独自の技術で作られるスピンフォージドホイールを組み合わせる。デフォルトのタイヤはブリヂストンのS23Rでフロント120/70ZR17、リア180/55ZR17サイズとなっている。
YZF-R1MをイメージしたMT-09SP専用カラーリング。仕上げの質感も高く、所有欲を満たしてくれる。燃料タンク容量は14リットル。
従来モデルからガラリと印象が変わったフロントマスク。小型で薄いレンズモジュールを採用しているが、夜間の照射範囲、光度は十分に思えた。
スイッチボックスはスタンダードバージョンのMT-09と同じでXSR900GPなどでも使用されているタイプ。ウインカースイッチはダブルプッシュキャンセル方式。オートクルーズが使いやすくクルーズも快適。
5インチの大型TFTメーターはスタンダードバージョンのMT-09と同様だが、MT-09 SPではライディングモードが追加されているほか、トラックモード表示も可能。専用アプリの「Y-connect(Yamaha Motorcycle Connect)」と接続もできる。
MT-09 SPではスマートキーが採用されており、物理キーを用いなくてもイグニッション操作や燃料タンクキャップオープンが可能となっている。便利なだけでなくセキュリティ面を考えても心強い。
MT-09 SP専用のKYB製フロントサスペンションは、プリロード調整のほか左右それぞれ伸圧減衰調整機構を備え、より細かいセッティングが可能となっている。
リアサスペンションはオーリンズ製MT-09 SP専用ショックが採用されている。フロントサスペンションと同様スタンダードバージョンよりも細かなセッティングが可能となっているほか、工具不要のプリロード調整ダイヤルも備わる。
MT-09のスポーティなキャラクターをより助長するシャープなテールセクションデザイン。テールライトはコンパクトな形状でありながら、後方からの視認性が高い。
クラッチ操作不要でシフトアップ/ダウンが行えるクイックシフター。シフトレバーの形状を見直し変更したことでよりスムーズなシフトチェンジを実現している。なお、ステップ位置はより高い位置に変更が可能だ。
シート高は825mmで、この数値はスタンダードバージョンのMT-09と同じ。細身なシェイプで足つき性は良好。物理キーでリア側のシートを外すとETC車載器程度が収められるユーティリティスペースが用意されている。
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