掲載日:2023年05月15日 試乗インプレ・レビュー
取材協力・写真/KTM JAPAN 取材・文/鈴木 大五郎
KTM 890SMT
2013年の発売休止以来10年ぶりの復活となったSMTはスーパーモタードとツーリングを意味するネーミング。過去のVツインエンジンを搭載した990SMTに代わって、現行890シリーズに搭載される並列ツインエンジン、通称LC8cを搭載して2023年モデルとして登場した。ベースモデルは890アドベンチャーで、エンジンのほかフレーム&スイングアームを流用。前後ホイールを17インチ化し、適正化されたサスペンションを装着。と、お手軽に制作されたマシンにも思われるが、その走りにはなかなかに唸らされる完成度であった。
イタリア・サルデニア島にて行われた国際試乗会にてアンベールされたマシンはKTMらしいともいえる個性的なスタイリングを持つ。
やや高めとなるシート高ながら、スリムかつ軽量な車体によってプレッシャーは少ない。走り始めたSMTは軽量となったことや足回りの変更によるものか、890アドベンチャーよりもパワフルかつレスポンスの良い印象。トルクフルなエンジンはパワーデリバリーが非常に秀逸で走り始めからすぐに仲良くなれるようなフィーリングである。過去のKTMは全般的に低回転域でトロトロと走らせるようなシチュエーションは苦手であったが、最新のLC8cエンジンはそんな領域でも不機嫌になるようなことはない。
これは高次元化された電子制御の恩恵も大きいと思われるが、790からクランクマスを増大させ、トルク増とともにアクセル操作に対するピックアップの改善によってもたらされたものだろう。
また、ライディングモードによって、あるいはトラックモードを選択することで、アクセルレスポンスも3段階からチョイスすることが可能。シチュエーションや好みによってキャラクターを変えていくことが出来るのも嬉しい。
スポーツを選択すればやや過敏に反応する過去のKTMを思わせるレスポンス具合、ロードやレインでは新時代のKTMの振る舞いを味わうことも出来る。
車体回りもフレンドリーさが印象的だ。これまた、過去のKTMはかなり高荷重設定のものが多く、ある程度以上のスピード域でバランスされるものが多かったのであるが、街中での低速走行であってもゴツゴツ感はなく、乗り心地の良さと高い接地感を提供してくれる。
ハンドリングはスーパーモタードと名の付くだけあって軽快で自由度が高い。スムーズな路面からギャップだらけの荒れている路面、そして高速コーナーからタイトなヘアピンコーナーまで、特別な操作や体重移動を必要とせずあっさりとクリアしていくイージーさ。これなら多少のフラットダートであれば気負いなく入って行けそうだと思わせる操作性でもある。初めて走らせる先行きがわからないようなワインディングであっても、不安なく対処出来るというそのキャラクターは、スーパーモタードの血統を引き継いでいるということかもしれない。実際、このマシンであれば、ワインディングで道を譲らなければならないなどということはないのでは?というほどの走りを持っている。
それでは、ツーリングシーンでのポテンシャルはどうなのだろうか?その走りの潜在能力を考えればついつい飛ばしたくもなるのであるが、先述したトルクフルなエンジンキャラクターと乗り心地の良い車体設定のおかげで快適なツアラーとしての顔も持つが、これは890アドベンチャーをベースとしているのだから当然といえば当然でもある。実際の軽さだけでなく、操作系の軽さ等はスポーティな走りにだけではなくメリットを感じさせるものであった。
ウインドプロテクションはさほど考慮されていないものの、こちらはスポーツ性とのバランスを取った結果であろう。必要であればオプションパーツがあるのだからといった割り切りなのかもしれない。
KTMらしい、走りの本質を追求したマシンとなっているが、その守備範囲が大きな広がりを見せている890SMTとなっていた。
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