掲載日:2022年06月16日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
ROYAL ENFIELD CLASSIC350
イギリスで誕生したロイヤルエンフィールドが初めてモーターサイクルを製造したのは1901年のこと。これは現存する最古のバイクメーカーであることも意味している。第二次大戦中には多くの軍用バイクを供給したほか、その後はレースでも活躍し、その名を世界中へと広めていった。50年代に入るとインドに工場を構えモーターサイクルの生産を開始するが、次第に日本のメーカーが生み出す高性能モーターサイクルが台頭するようになり、イギリスの工場は閉鎖、インドがロイヤルエンフィールドの拠点となっていった。インジェクションの採用など時代に合わせる変化こそあれど、昔ながらの英国紳士的な佇まいは色濃く残っているのがロイヤルエンフィールドの生み出すモーターサイクル最大の特徴だ。ここでは最新モデル、クラシック350を紹介する。
ロイヤルエンフィールドは世界最古のモーターサイクルブランドでありながらも、世界屈指のメーカーを有する日本での知名度は高いとは言いにくいのが実情だ。だからこそ簡単な歴史を書き綴ったのだが、一方でここ数年の間で注目される機会が増えて認知度が上がってきているとも言える。その理由の一つとして挙げられるのが、日本国内での販売網(ディーラー)の拡充だ。
これまでにロイヤルエンフィールドの車両を輸入販売してきた企業は数社存在したが、現在はさらに力が入っているように思える。つまり触れることのできる機会場所が増えているのだ。さらには車両の完成度が飛躍的に向上していることもある。詳しいインプレッションは後述するとして、15年程の間に数回ロイヤルエンフィールドに乗る機会があったが、スタイリングこそほとんど変わらないにも関わらず、とても乗りやすく仕上げられている。そしてユーロ5など厳しさが増してきた環境基準に適合することなく、ライバル的クラシックモデルが軒並み姿を消したこともあるだろう。
そのような中、ホンダがGB350をマーケットに投入し、爆発的なヒットモデルとなっているのだが、あれは現在の技術を用いて生み出されたクラシックタイプのモデルなのに対し、ロイヤルエンフィールドのクラシック350は積み重ねてきた歴史の線上に立っているリアルクラシックモデルだ。この違いが結構大きいポイントとなっていると思う。
日本に上陸したばかりの新型クラシック350は1950年代に作られたG2モデルをインスパイアしたモデルだということだが、実車を目の前にしても目新しいと感じることはなかった。勘違いしないでいただきたいのは、これはあくまでも誉め言葉だということだ。クラシックタイプのモデルだとどうしても”あたらしさ”がどこかしらに見えてしまうものであり、むしろそこが残念に思えることもあるからだ。
キルスイッチと同一とされたセルスタートを押しエンジンを目覚めさせる。クラッチレバーの軽さに少々驚きながら走り出す。若干排気量が大き目の空冷シングルエンジンらしいエキゾーストサウンドが心地よく体に伝わってくる。スロットル操作に対して、ややダルなツキではあるが、ストレスに感じるようなものではなく、むしろまろやかな回転上昇には独特な風味を感じられ、ただ走らせているだけでもなんとも気持ちが良い。サスペンションの動きやブレーキの効き、タッチも良く、しっかりと作られていることが伝わってくる。
以前のロイヤルエンフィールドは、もっと旧車感が強くブレーキや足まわりなどに不安を覚えることもあった。それはそれで良いものだと思っていたのだが、クラシック350のように現在の技術を用いて開発されたモデルの場合、全体的なバランスをちゃんと考えて作られている感じで安心して乗ることができる。これならば誰にでも薦められる。
ワインディングに持ち込んで走らせるとハンドリングもかなり良いことが分かった。フロント19、リア18インチのタイヤは直進安定性が高いが、幅が100と120と細身なので軽くバンクさせることができる。高速道路では思っていたよりも振動が少ないだけでなく、フライホイールの重量が若干あるためか、一度速度に乗ってしまうと惰性でエンジンが回転するようなフィーリングで、リラックスしたクルージングを楽しむことができた。
現在ロイヤルエンフィールドが手掛けるモデルが、とてもまとまりの良いバイクとなったことにはターニングポイントがあると私は思っており、それは2015年にハリス・パフォーマンス社を買収したことにある。ハリスとはイギリスでレーシングバイクを手掛ける老舗ブランドでありフレームビルダーとしても幅広く知られている。その設計力、技術力がロイヤルエンフィールドのモデル開発にフィードバックされたことで、クラシックモデルでありながらも扱いやすく、気持ちの良いモーターサイクルとなっているのだ。
デザイン的にややおじいちゃんぽさがあることは否めないが、威圧感がないために見る者を驚かすようなことはない、このシブカワイイ雰囲気が幅広い層に受けている。乗った感じも高級感すら感じさせるものとなっているので、70万円弱という価格で新車購入することのできるクラシック350は、今後さらに人気が高まることだろう。
排気量349cc空冷シングルエンジンを搭載。最高出力の20.2馬力は6100回転で、最大トルク27Nmを4000回転で発生させる。パンチは強くないものの低回転から粘り扱いやすいエンジンだ。ユーロ5をクリアしていることも見事だ。
フロントタイヤのサイズは100/90-19でチューブタイヤ仕様となっている。ブレンボ社の小排気量モデル向けラインであるバイブレのブレーキキャリパーが採用される。ABSも標準で装備されている。長いフェンダーもデザインのポイントだ。
ナセルに埋め込まれるデザインのヘッドライト。ポジションランプがライトケース上部左右に備わっているのもビンテージテイストで雰囲気がある。オーソドックスながらもフェイスマスクを見ただけでロイヤルエンフィールドと分かる。
エンド部が細く絞られているいわゆるキャブトンタイプのマフラーが採用されている。シングルエンジンらしい歯切れの良いエキゾーストサウンドは心地よく、ちょうどよい音量に抑えられている。
リアフェンダーの後端にテールランプ及びナンバーステーが備わっている。円形をデザインの基調としていることもあり、柔らかで優しいイメージで纏められている。
テストで使用した車両は、純正オプションのローシートやリアキャリアが備わっていた。標準のシート高は805mmとやや高めだがクッション性がある。足つきに不安があるようならローシートへの換装も良いだろう。
半艶消しのデザートサンドカラー。ミリタリーチックにも見える。なお、このほかにブラック、グレー、ブロンズのカラーバリエーションが用意されており、それぞれ価格が異なる。
キロ/マイルで表示されるスピードメーターは時速160キロまで目盛が刻まれている。イグニッションキーシリンダーやロゴペンダントのレイアウトなどがクラシックな様相を助長している。
トランスミッションは5段リターン。クラッチレバー操作が軽い上に、シフトの入りもカッチリしており、良く作り込まれていると感じられる。ステップ位置はミッドで、ライディングポジションは楽だった。
リアサスペンション上部の”握りて”が面白い。リア周りにはサドルバッグなどが巻き込まれないようガードが装備されている。なお、インドでは民族衣装のサリーが巻き込まれないようにサリーガードのオプションが存在する。
スイッチはシンプルで扱いやすい。グリップは樽型形状のものが採用されている。テスト車両は純正オプションのバーエンドミラーに換装されていた。
シート下のフレーム内はバッテリーが収まっているほか、書類及び車載工具が収まるケースとなっている。スペース的にはあまり余裕があるとは言えない。
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