掲載日:2022年01月27日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/中村 友彦 写真/富樫 秀明
YAMAHA YZF-R7
2022年2月から発売が始まるYZF-R7は、スポーツツアラーのトレーサー700/7(日本では未発売)、ネオクラシックのXSR700、アドベンチャーモデルのテネレ700に続く、MT-07の第4の派生機種である。アグレッシブなスタイルを採用したこのモデルは、サーキットやワインディングでの運動性能を重視したスーパースポーツだが、同じYZFシリーズのR1/R6と比べれば、乗り味と価格は格段に親しみやすく、もちろんヤマハとしては、R25/3からのステップアップを考慮して開発している。
なおヤマハは、1999年にもYZF-R7という車両を販売しているけれど、かつてのR7は公道走行をまったく意識しないレース用のホモロゲーションモデルで、生産台数がわずか500台、価格が約400万円という事実を考えると、現代のYZF-R1M以上に特別な存在だった。そんなモデルと同じ車名を使うことに対して、開発陣には葛藤があったようだが、かつてのR7の全盛期からは、すでに約20年の歳月が経過しているのだから、新生R7の車名に違和感を持つ人は、世間にはそんなにいないだろう。
MT-07の第3の派生機種となったテネレ700では、エンジンを除くほぼすべての部品を新規開発したヤマハだが、YZF-R7はトレーサー700/7やXSR700と同様に、MT-07から基本設計の多くを転用している。ただし、R7がMT-07にフルカウルを装着してライディングポジションをレーシーにしただけのモデルかと言うと、まったくそんなことはない。Fun Master of Super Sportというコンセプトを実現するため、多種多様なパーツを専用設計しているのだ。
外装とライディングポジション関連部品以外で、ひと目でわかるR7の特徴は、フロントの倒立フォークとラジアルマウント式キャリパー、ブレンボ製ラジアルポンプ式マスターシリンダーだが、フレーム剛性向上のためにスイングアームピボット上部に追加されたアルミ製センターブレース、バネレートとダンパー特性を刷新したリアショック、スポーティなデザインのLCDメーターなども、このモデルのための専用設計。また、開発ベースのMT-07に対して、フォークオフセットを40→35mmに変更し、キャスター角を24.8→23.7度に立て、ホイールベースを1400→1395mmに短縮したことも、スポーツ性を重視するR7ならではの特徴だ。なお270度クランクの並列2気筒エンジンは、MT-07用を踏襲しているものの、プーリーのハイスロットル化や2次減速比のハイギアード化、アシスト&スリッパークラッチの導入などが行われている。
僕自身は参加していないけれど、2021年12月に開催されたYZF-R7のサーキット試乗会では、ほとんどのテスターが大絶賛だったようである。ではストリートでの使い勝手はどうなのか、というのが当試乗記のテーマなのだが、本題に入る前にこのバイクの運動性に関する僕の印象を記しておくと、スポーツライディングを存分に楽しめる準備がきっちり整っている……だった。
などと書くと、何を当たり前のことを言っているんだと思われそうだが、生い立ちがレースとは無縁のモデルで、そういった資質は貴重なのである。
例えば、基本設計を共有するMT-07や弟分のYZF-R25/3、ライバルになりそうなカワサキ・ニンジャ650などで、サーキットを走ると、いろいろな準備=モディファイが頭に浮かぶことが珍しくないのだが、R7ならノーマルでかなりの領域までイケそう。それでいて、YZF-R1/6を筆頭とするレース用ホモロゲーションモデルのような敷居の高さを感じづらいところに、このモデルの価値はあるのだろう。
さて、続いては本題のストリートの話で、R7でさまざまな状況を走った僕が感心したのは、スポーツライディングの準備を整えたことで生じる(はずの)マイナス要素が、ほとんど見当たらないことだった。もっとも、ライディングポジションはある程度以上のスピードを前提としたレーシーな構成なので、乗り手によってはセパレートハンドルの低さ&遠さやシートの高さに抵抗を感じそうだけれど、それを除けば、このモデルにシビアやハードといった要素は存在せず、どんな場面にも過不足なく対応できる。基本設計がMT-07と共通なのだから、それはまあ当然のような気はするものの、適度な汎用性と快適性が維持されていることに、好感を抱く人は少なくいないだろう。
そして維持と言えばもうひとつ、MT-07に通じる安心感抜群のコーナリング、進入時の舵角の付き方が穏やかで優しく、立ち上がりで感じる濃厚なトラクションが維持されていることも、特筆するべき要素だ。この件に関してはサーキットでの運動性を突き詰めていくと、速度レンジが低いワインディグでは感じづらくなる傾向なのだが、R7にそんな気配は微塵もなく、常用域でのコーナリングがすこぶる楽しい。逆にこういった特性だと、高回転高荷重域の挙動と反応を重視する、エキスパートなライダーは物足りなさを感じるのかもしれないが、MT-07が備えていた美点を維持した開発陣に、僕としては拍手を送りたい気分なのである。
極限性能を追求するのではなく、普通のライダーの視点で開発された、地に足が着いたスーパースポーツ。それが今回の試乗で感じたR7に対する印象で、だからこそ僕は、多くの人にこのモデルを味わって欲しいと思っている。改めて振り返ると、スーパースポーツの試乗でそんな気持ちになるのは、ずいぶん久しぶりかもしれない。