掲載日:2021年10月08日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
Zero Motorcycles SR/S
2006年、元NASAの技術者であるNeal Saikiによって、アメリカのカリフォルニア州で創業したゼロモーターサイクルズ(以下:ゼロ)。EVバイク専門メーカーであり、プレミアムモデル開発から着手したことや同じカリフォルニア州に本拠地を置くことからEVバイク界のテスラと呼ばれているブランドだ。
2010年ごろには一般市販モデルのリリースを開始し、ネイキッドタイプのDSやSR/FやスーパーモタードモデルとなるFXSなど様々なセグメントのEVバイクを輩出してきた。そのゼロの最新モデルであり、世界中のライダーが注目しているのが、フルカウルスポーツモデル、SR/Sだ。最高速度約200km/h、航続可能距離300km超というハイスペックを誇る最新のEVバイク、ゼロ・SR/Sを紹介する。
ゼロ・SR/Sの紹介をする前に、EVバイク界の現状を簡単に説明しておこう。私はここ15年程の間にEV専門媒体なども多く携わってきており、四輪、二輪問わず、世界中のEV化の動向を注視してきた。四輪の世界ではアメリカのテスラを筆頭に、中国のニオなどが市場を切り開きつつあり、日本や欧州のカーブランドがそれを追うという図式となっている。では、バイク業界ではどうだろうか。
国策としてEV開発、生産をサポートしていたこともあり、2010年前後に中国製EVスクーターが出回った時期があった。個人的にも1台購入し現在も所有しているのだが、原付スクーターにとって代わる存在かと問われれば、やはり少々勝手が違うと答える。半径10キロ程度の移動でしか使わないし、上り坂には弱い。ただスマートフォンをはじめとしたガジェットのように、帰宅後充電しておけばいつでも使えるし、ガソリンスタンドに行くわずらわしさからも解放される。要は使い方なのだ。
余談だが世界有数のスクーター大国として知られ、世界シェアのスクーターブランドを有するお隣の台湾は、実はEVスクーター先進国であり、バッテリーパックスタンドがスーパーや街のあちこちに置かれるなどインフラ整備が進んでいる。ただ、先述した2010年前後に生産されていた旧タイプのEVスクーターは駅の周辺などに無数に放置されている現状をこの目で見てきた。長年積み重ねてきて、やっと今、良いところまできたのだ。そして日本は、それを見ると若干出遅れている感は否めない。しかしここにきて、ヤマハやカワサキなどが出した中長期的な展望には、EVバイクの開発、生産の道が記されていた。
それら業界の流れを尻目に、我が道を突き進んでいるEVバイクブランドがゼロだ。プレミアムEVバイクブランドとしてベンチャーした後、製品性能を高めながら現在まで至っている。日本でもオーナーによるミーティングなどが開催されており、世界的にファンを広げてきた。そのゼロが昨年、満を持して発表したフルカウルスポーツモデルがSR/Sだ。先だって登場していたSR/Fのプラットフォームをベースとしつつ、高い運動性能と、快適なクルーズ性能、そして利便性を兼ね備えた、まさしく次世代のEVバイクとしてまとめられている。
初めて目の前にするSR/Sは、想像していた以上にスタイリングが良く、まずは好印象を抱いた。というのも、実車を見るまでは、スーパーバイク的な、タイムをコンマ一秒縮めるようなキャラクターにされているのかと思いきや、アップライトなバーハンドルに、適度な位置のフットレストの組み合わせとされており、スポーツツアラー的なまとめ方がなされていたのだ。
イグニッションキーをオンまで回し、通常のバイクであればキルスイッチが配置されているボタンを押すだけで通電し、発進状態になる。エンジンを持たないためセルも回らなければ音が出ることもない。スロットルをジワリとひねり車体をスッと前へと押し出す。スロットルコントローラーのチューニングが絶妙で、ドンツキもギクシャク感も無い。バッテリーを含んだ車重は約229kgとされており、かなり軽量化に努力したのだと思える。ライディングモードは回生ブレーキの強いECOモードからはじまり、通常モードとなるストリート、EVならではのパワー感を楽しめるスポーツ、パワーを抑えたレインの4パターンが用意されており、どれもモードの違いを体感できるものになっている。
EVの試乗記を見ると、内燃機モデルにはない加速感の話が見られるが、もはやそこは当たり前となってきているので、わざわざ特筆すべきではないだろう。それよりも、テスト中様々な走らせ方をしたにも関わらず、バッテリー残量の減りが少なかったことの方に好印象を抱いた。スタンダードモデルでの航続可能距離は259kmとされており、それでも十分だと思えるのだが、さらにオプションのパワータンクを追加することで306kmまで航続距離を伸ばせる。フル完走できないにしても、スタンダードモデルで200kmは走りきることが可能であろうし、十分に普段使いすることができるということが分かる。
走行面に関して言えば、コーナーに差し掛かり車体を寝かしはじめた際、若干だが立ちが強いと感じた。タイヤとサスペンション、ともに良いものが採用されていることもあり、曲がってゆくには違いないのだが、トリプルツリーの首の部分に大きな負荷がかかっていそうなイメージをすることができた。もしかすると分解整備をすることで解決することなのかもしれないし、個人的には独立懸架式構造のサスペンションを用いてみても面白いと思えた。
そうそうどこかの国のEVバイクブランドが、「ライダーはシフトチェンジをするという儀式や、サウンドを求めている」と言い、わざわざミッションや音を付け加えたモデルを開発していると耳にしたことがあるが、別に既存のライダーのニーズに合わせることなどしないで、どこの誰が見ても”良い物”だと思えるモデルを作ることこそが、本来の姿だと考えている。それを踏まえると、今回テストをしたゼロのSR/Sは、見た目も性能も高い次元でバランスが取れており、これまでバイクに興味がなかった人に向けて訴求しても、受け入れられるのではと感じらるものだった。
これから日本や欧米の大手バイクメーカーも、EVバイク開発にさらに力を入れてくることだろうが、ゼロモーターサイクルズをはじめとしたスタートアップブランドも着実に製品クオリティが向上してきており、意外とその差を縮めることは難しいことになってきているのかもしれないと思っている。
充電システムにはJ1772コネクターを採用。家庭用100Vも、出先の200V充電設備からでも給電を受けることが可能となっている。0%から100%までの満充電時間は、200Vで約4.5時間と優秀な数値だ。
スチールパイプを使用したトラリスフレームに、14.4kWhの大容量バッテリーを抱え込む。モーターの最高出力は110馬力、最大トルクは190Nm。性能的にはスーパースポーツ的なスペックを誇るものとなっている。
フロントサスペンションにはショーワ製フルアジャスタブルタイプの倒立フォークを採用し、そこにスペインのJ.Juan製キャリパーがラジアルマウントされている。フロントの剛性が高いせいか、寝かしこみで若干立ちが強い傾向に思えた。
高い防風性能を誇る、フロントフェアリング。有機的なラインを描き、独特な表情を見せている。同じプラットフォームを使用するSR/Fと比べ約9キロ車重は増加したが、空力性能の向上により、高速走行距離は13%伸びたということだ。
万が一の転倒時に、サイドフェアリングの最初に設置する部分が交換可能な樹脂パーツとなっている。ちょっとした部分だか、こういったところを合理的に作ってくるのがアメリカンブランドの特徴だと思える。
ライディングシートはライダーとパッセンジャーがセパレートしたタイプ。ライダー側のシート高は787mmで、足つき性は悪くない。リアシートの座面がフラットなことと、グリップ部分にフック用ホールが備わっているので、荷物の積載性が良い。
ミッションレスのベルトドライブ。チェーンドライブのように注油の必要が無く、基本的にはメンテナンスフリーとなっている。ボッシュ製のスタビリティコントロールが装備され、トラクションコントロールや出力特性などを制御している。
モーターとスイングアームピボットの出力軸をコアキシャルマウントとしており、ドライブベルトの張力を一定に保ちつつ、モーター出力を最大限伝達することができる。
リアサスペンションにはプリロード及び減衰力が調整できるモノショックを、スイングアームにダイレクトマウント。かなり寝かされた格好でセットされている。
5インチフルカラーLCDディスプレイを採用。速度やバッテリー残量、モーターの温度など、様々なインフォメーションが表示されるが、視認性が良く、車両状態が伝わりやすいものとなっている。
コンパクトでスポーティにまとめられたリアセクション。テールランプ上のパーツが、コンパクトなキャリアのようなデザインとされているのも面白い。日常使いやツーリングを想定していることが伝わってくる。
シート前方には充電用のJ1772コネクターが備わっている。現時点で最も普及しているプラグとの互換性があると考えて良い。なおダミータンク部分はラゲッジスペースとなっており、オプションのパワータンクを追加し、バッテリー容量を増やすこともできる。
ハンドルバーはアップタイプで、リラックスしたライディングポジションをもたらしてくれる。バックミラーはカウルの内側にレイアウトされており、後方視認性は良かった。
ストリート、スポーツ、エコ、レインのライディングモードが用意されており、左スイッチボックスのモードボタンで切り替えが可能となっている。ウインカーやホーンボタンなどは一般的なバイクと同様の場所に配置されている。
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