掲載日:2021年10月01日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
KAWASAKI Ninja ZX-10R KRT EDITION
市販モデルをベースとした車両で競い合うスーパーバイク世界選手権(以下WSBK)。1988年から始まったこのレースには様々なモーターサイクルブランド、そしてライダーがチャレンジしてきた。レース専用車両として作られるMotoGPマシンと比べられることもあるが、実際のところタイムではほとんど差が無く、時と場合によってははWSBKマシンの方が早いラップタイムをたたき出すこともある。
そんなWSBK界において、現在6年連続チャンピオンという偉業をたたき出しているのが、カワサキのニンジャZX-10Rだ(2017年度よりZX-10RRと車名を変更)。チャンピオンライダーは、ジョナサン・レイ。その偉業が称えられ祖国英国から、大英勲章を受章している。余談だが、現在34歳のレイは今年8月にバイクの免許を取得し、先日Z900RSを購入している。なにはともあれ、ZX-10Rこそ現在世界最強の量産型市販スーパーバイクなのだ。今回はストリートにおいて、どのような感触なのかを追求する。
ZX-10Rの歴史を遡ると、1989年に登場したZXR750に辿り着く。WSBKのホモロゲーションモデルであり、いわゆるレーサーレプリカに属する形で誕生した。レースでの成績を残すためのチューニングやレギュレーションの変更などによりモデルチェンジが繰り返され、現在の1000㏄エンジンを搭載したZX-10Rという車名になったのは、2004年のこと。そして2021年、8代目のZX-10Rへとモデルチェンジが行われた。
過去に雑誌媒体の企画でWSBKホモロゲーションモデルの一気乗りなどを行ったことがあるが、当たり前のことだが、どのモデルもストリートではそのポテンシャルを持て余してしまう。サーキットに持ち込んで走らせたところで、一般的なスキルのライダーでは実力を発揮させることは難しい。ただし、そうであったとしても憧れを抱く対象であるし、その中でも6連覇のディフェンディングチャンピオンモデルであるZX-10Rは一際輝かしい存在なのだ。最新最強である新型ZX-10R、本来ならばサーキットに持ち込んでテストを行いたいところではあったが、タイミングが合わず、ストリートで、しかも秋の交通安全運動期間という中で、様々な場所を走らせて感触を調べてきた。
新型ZX-10Rを見て、まずそのスタイリングの変化に驚かされる。これまでは先端から後方に掛けて隆起する格好でスラントされていたノーズ部分が、H2系と同じように逆スラントノーズへと変更されていることや、ヘッドライト脇にはダウンフォースを得るためのウイングレット部が設けられており、従来モデルと比べ印象が大きく変わっているのだ。今回はKRT(カワサキ・レーシング・チーム)エディションということで、ワークスカラーで纏められており注目度も抜群だ。
車両に跨り走り出す。ライディングポジションはタイトであり、スポーツライディングをするには適しているものの、渋滞路などでは疲れやすいのは、この手のモデルでは仕方のないこと。そもそもサーキットで戦うために作られたマシンであり、ストリートで多少の我慢が強いられるのは当然のことである。
そんなポジションとは裏腹に、エンジンは低回転からトルクフルで扱いやすく、3000回転程でポンポンとシフトアップしてゆけば、イージーライドを楽しめる。延々とピットロードを走っている気分になったが、逆に考えると普段使いも割と快適だと思えた。
ワンディングや高速は水を得た魚のごとく楽しめる。ステップ入力と腰使いで、ぐいぐいとフロントを内側に向けて曲がってゆく。長いストレートを見つけスロットルを開けたところ、ギャップでリアが跳ね上がり、タイヤのスキール音が一瞬聞こえたが、電子制御のおかげもあり、何もなかったかのように車体を前へと押し出す。クローズドコースではないので、数パーセントのポテンシャルしか発揮できないが、それにしても乗りやすさと圧倒的な高性能を感じ取ることができる。
16歳でバイクの免許を取得してからレーサーレプリカモデルを乗り継ぎ、メディア業界に入ってからはスーパーバイク専門誌も手掛けていたこともある私にとって、最新のスーパーバイクというのは大好物と言えるセグメントだ。しかしバキバキに体が動いた20、30代から比べ、40代も中盤に入ると衰えを感じる部分も出てきたこと、200kgそこそこの車重に対して、200馬力以上をたたき出す驚くべきパワーウエイトレシオを誇るマシンとなってしまったことなどから、多少接し方にも変化が出てきたことは事実だ。そのような中で、新型ZX-10Rは楽しい時間を持てるマシンに仕上がっていた。
なお、レースベースとなっている上位モデルとしてZX-10RRがある。コンロッドやピストン、ホイールなど多岐に渡り専用パーツが用いられており、世界限定500台となっている。これにさらにレースキットを加えると、秘めたる性能を最大に発揮することになるのだが、はっきり言ってしまうと、イベントレースを楽しむようなライダーでも、そこまでは必要ないだろうし、一般的なスキルのライダーでは違いを引き出すところまで使えないと思う。
ただ国内で2020年から始まったST1000というレースのレギュレーションにある、”300万円以下の車両”に準じていることから、税別299万9000円という車両価格で設定されているのは、お買い得と言えるのかもしれない。なんにせよ世界最強、いや、宇宙で一番のスーパーバイクモデルであるというだけでも、新型ZX-10Rは魅力的に感じられるのではなかろうか。
203馬力(ラムエア加圧時213.3馬力)という最高出力はそのままに、その数値をたたき出す回転数を300rpm引き下げたエンジン。スポーツ、ロード、レイン、ユーザーのライディングモードを選択することができる。
ショーワと共同開発されたφ43mmバランスフリーフロントフォークに、ブレンボ製M50キャリパーを組み合わせる。幅広い状況下においてフロントの高い接地感をもたらしてくれる。ステアリングアングルは27度と割と大きい。
WSBK連覇の偉業を受けて、リバーマークが付与されたフロントマスク。逆スラントデザインとなったことや、ヘッドライト脇に一体型のウイングレットが備わったことなどで、印象が大きく変わった。
835mmと高めのシートではあるが、細くシェイプされているため足を真下におろせることや、重心がセンターに集められていること、軽い車重などから、足つきに対する不安要素は少ないだろう。
スマートフォンと連動できる4.3インチTFTフルカラー液晶ディスプレイが採用された。2パターンの表示を選べる。各インフォメーションの視認性は良い。
高く、後方にセットされたステップバー。KQS(カワサキクイックシフター)の完成度は高く、スムーズかつクイックにシフトチェンジを行うことが可能。クラッチレバー操作をしなくてよいことで、ライディングに集中できる。
スイングアーム長の変更により、従来モデルと比べて10mm伸びている。スイングアームピボット位置は1mm下方に移動されるなど、細かなリセッティングが行われた。
燃料タンク容量は17L。両足で挟みやすい形状となっており、加減速時にも体を支えやすい。オプションで二―パッド(8800円)も用意されている。
後方からの視認性が良いLEDテールランプが採用されている。ウインカーやナンバーステーは、サーキット走行時などで簡単に着脱できるようカプラータイプとなっている。
リアサスペンションはショーワ製のフルアジャスタブルタイプがリンクを介してセットされている。伸側、圧側のダンピングを独立して調整可能となっている。
サイレンサーは大型化されている。排気音は低回転域では控えめで太い音を、高回転では甲高いレーシーなサウンドを楽しむことができる。
テールカウル内のユーティリティスペースはかなり限られているが、ETC2.0の車載器が収められている。カードの状況は、メーターディスプレイ内で確認することができる。
フロントフォークのオフセットが変更されたのは大きなポイント。トップブリッジ上にリバーマークが備わっている。個人的な意見としては、レーサーレプリカなのでスマートフォンホルダーがついている姿は見たくないものだ。
スイッチボックスにはオートクルーズのコントロールボタンも追加された。ウインカーをはじめ各種スイッチのクリック感はなかなか良い。ハンドルは下方に垂れているが、できるだけ力(体重)をかけずに車体制御したい。
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