掲載日:2021年07月29日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
YAMAHA MT-09
ヤマハにとっては久しぶりの採用となる3気筒エンジンを搭載した新世代ロードスポーツモデル、MT-09が登場したのは2014年のこと。加速感やコーナーリング性能など他に類を見ない秀でた運動性能と、何よりも人車一体という言葉がぴったりと当てはまるように、その性能を多くのライダーが引き出せるよう設計されていることで、登場後瞬く間に世界中のライダーを魅了したものだった。それから3年後の2017年にフェイスリフトと同時に細部に手が加えられたマイナーチェンジが施されたが、2021年モデルでは初のフルモデルチェンジが行われた。
排気量を拡大し出力、トルクともに向上させつつも、その発生回転数は引き下げられており、さらには新たに6軸センサーを搭載したことで、車体制御性能が飛躍的に進化した新型MT-09。今回は、そんな新生MT-09の詳細をお伝えしてゆく。
MT-09、トレーサー、MT-07、さらには小排気量モデルまで、10年も経たない間に、一気にモデルレンジを広げてきたヤマハMTシリーズ。どのモデルも個性が光り、それぞれに魅力を感じるのだが、MT-09はその中でも秀でたキャラクターを備えている。クロスプレーンコンセプトから生み出された並列3気筒エンジンは、ツインエンジン特有の低回転からの強烈なトルク感と、マルチエンジン特有の高回転域での伸びの良さを上手くバランスさせた珠玉のエンジンであるし、短くまとめられたショートボディ、豊かなストロークが与えられたサスペンションなど、”エキサイティングに走る”ためのスパイスがふんだんに盛り込まれている。
初期モデルから爆発的なヒットを飛ばし、多くのライダーを虜にしたMT-09だったが、私は楽しさの裏側に、手強い部分も兼ね備えていたことを覚えている。ほぼフロントタイヤの真上に乗っているかのようなライディングポジションと深々とバンクさせられる車体設定などから、操ることの楽しさを満喫できるのだが、その一方で一瞬のミスで大きく振られることもあった。誰でも楽しめるのは本当だが、相応のスキルは備えておいた方が良い。私の考えるMT-09はそういうバイクだった。
ただそれが、今回のフルモデルチェンジで大きく変化したのではないだろうかという期待を持っていた。それは、新開発の6軸センサーを備え、同調する車体制御機能が持たされたことにある。フロントからすくわれそうになったり、テールが滑り出したとしても、それをいなしてくれるのであれば、気持ちよく快走を楽しむことができる。古くからのバイク乗りからは、「電気の力など借りずに乗りこなしてこそのライダーだ」と言う声も聞こえてくるが、それは旧車の話だ。現代のバイクはいかにして電子制御を用い、秘めたるポテンシャルを多くのライダーが楽しめるかにある。その点を踏まえて、試乗テストを行ってゆく。
今回、公道での試乗テストを行う前に、新型MT-09をメインとしたサーキット試乗会に参加する機会があった。その場で感じたことは、超低速域からラフなスロットル操作を行っても、高速域から急減速をするような場面でも破綻するどころか、危ない面も見せずにすんなりと受け入れてくれる車体完成度の高さだった。もちろんそれは公道というステージでもメリットになることは明らかなことなのだが、やはりサーキットというステージは特殊なので、改めて公道での感触を確かめて行きたいと思う。
サーキット試乗ではSPの足まわりの良さが光った。パワーをしなやかに路面へと伝達してくれるサスペンションの性能の高さには感心させられたが、今回スタンダードモデルを公道で走らせて、これでも十分だと感じた。もちろんセンシティブな観察をすれば、低速域でのフロントサスペンションのピッチングが若干感じられるものの、それも違和感というものではない。
888ccまで排気量を拡大した3気筒エンジンは、93Nmという大きなトルクを7000回転で発生させる。一般道での実用回転域は4000~6000回転というところだったが、それよりも先に最大トルクや最高出力の出番が待っているのだ。これは走りに”余裕”を与えてくれるものであり、スポーティなライディングを楽しめながらも、セーフティマージンを得られているというポイントになっているのだと思える。
ただ流して走らせているだけでも楽しいため、ついつい飛ばし気味になってしまう。これがMT-09の魔法であり、しっかりとした自制心も併せ持っていたいと自分に言い聞かせなければならない部分である。つまり、それほどエキサイティングな乗り物なのである。
スタイリングからするとストリートファイター系ネイキッドモデルと捉えられることもあるが、たっぷりとしたサスペンションストロークや、背筋を伸ばすライディングポジションなどから、むしろモタード的な味付けとなっている。従来モデルではスロットルをラフに操るとフロントハッピーになりがちな印象を抱いていたが、新型ではそれが見事に抑えられている。シートやハンドルの位置関係など細かい点の見直しを突き詰めた結果が現れているのだと思うが、それでいながらも優しくなったわけではない、と言うのが非常に魅力として感じられた。
もちろん6軸センサーによる電子制御の恩恵も大きい。急発進、急制動、そしてコーナーリングではハンドルをこじるような意地悪な乗り方をしても、すべてを許容してくれる。バランスの良さと電子制御の両立は、MT-09のスポーツライディングをさらなるステージへと引き上げた。
そして特筆すべきは徹底された軽量化にある。特にアルミ材の独自開発と工法の確立によって生み出された新型ホイールは、従来モデルと比較し、前後で700gの軽量化を実現しており、これが結果的に素晴らしい運動性能をもたらす大きな要因となっている。
炎天下の真夏日、MT-09でストリートを快走すると、うっかりヒートアップしてしまったものだが、それこそが新型MT-09の醍醐味なのかもしれない。アスファルトジャングルが得意ステージなことはもちろん、ツーリングに出てワインディングを走り抜けることも、いざとなればサーキットに持ち込んで本格的なスポーツライディングを堪能することも楽しむことができる。新型MT-09には、バイク熱をさらに燃え上がらせてくれるスパイスがふんだんに盛り込まれていた。
排気量888ccのDOHC3気筒エンジンを採用。78×62mmのビッグボアショートストロークタイプ。最高出力88kWは10000回転で発生させる。さらに1~2速のギアレシオをハイギアしたことで、扱いやすさが向上している。
新設計“SPINFORGED WHEEL”を採用。リム部の最小厚さを従来の3.0mmから2.0mmに引き下げるなど、徹底的な軽量化を追求し、従来モデルと比べ700g軽量、慣性モーメントを11%引き下げている。シャープなハンドリングに磨きがけられた。
高剛性アルミリアスイングアームや動きの良いサスペンションにより、トラクションをしっかりと路面へ伝達する。なお新設計フレームとリアフレーム、スイングアーム合算で従来モデル比、約2.3kgの軽量。車体全体で4kgの軽量化を実現している。
剥き出しの内臓を見せつけるかのようなデザインとされたサイレンサーボックス。新型MT-09ではゼロカバー造詣というデザインコンセプトを掲げており、このほかにも、あえてカバーを持たせていないディテールが各所に見られる。余談だが、排気音も素晴らしい。
アシンメトリーデザインだった従来のメーターパネルから、シンメトリックデザインへと変更された3.5インチ・フルカラーTFTメーター。コンパクトだが視認性は高く、インフォメーションを一目でライダーへと伝えてくれる。
ロービーム、ハイビーム一体型のLEDプロジェクターヘッドランプを中央に備え、メカニカルな表情を持たされた特徴的なデザインのフロントマスク。えぐみさえも感じさせるものだが、他には無いデザインだ。
クッション形状から再設定されたシートは、ライダーとパッセンジャー側一体のワンピースタイプ。SPバージョンではシート表皮が変更される。シート高は825mmと高めだが、先に向かってシェイプされた形状や車体の軽さから、足つき性は悪くない。
シフトアップ、ダウン共にクラッチレバー操作を必要としないアシスト機構を標準装備。スリッパ―クラッチも備えており、スムーズなシフトチェンジを実現している。ステップ位置は2段階から選べるようになっている。
リアサスペンションはリンク方式を変更し最適化したことで、リアタイヤの状況をライダーへと細かく伝えてくれる。前後サスペンション共にプリロード及び伸側減衰力の調整機構を備えている。
ヘルメットホルダーはストリートユーザーにとって嬉しい装備だ。なお、サーキット走行時などは、タンデムステップと共に取り外すことも想定している。
丸みを帯びた有機的なラインを持つ燃料タンク。容量は14Lで、WMTCモード値での燃費は20.4km/L。ポテンシャルを考えたら、優秀な数値となっている。
ブレーキランプケースはテールセクションにインサートし、ナンバープレートホルダーやウインカーは延長ステーを介し設置。車体をショートボディに見せつつ、他車からの視認性も高いものとしている。
ライディングモードなどのセレクトボタンを有する左スイッチボックス。直感的に扱いやすいもので、各種メニューの呼び出しも簡単だった。なおSPバージョンにはクルーズコントロールが標準装備となっている。
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