【ヤマハ トレーサー9GT 試乗記】多機能ナイフのごとく高い利便性

掲載日:2021年10月07日 試乗インプレ・レビュー    

取材・文・写真/小松 男

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YAMAHA TRACER 9 GT

ヤマハのスポーツネイキッドモデルMT-09から派生したトレーサーが、2021年にフルモデルチェンジを受けた。名称もトレーサー9GTへ変更され、運動性能、装備も大幅にグレードアップしている。

スポーツツーリングモデルの
新たなトビラを開いた名機

初代モデルにあたるMT-09トレーサーが登場したのは2015年のこと。MT-09から派生したものであり、ストロークの長い足まわりや、防風効果の高いフェアリング、ケース類の設定など、ツーリングユースを想定したスポーツバイクだ。2018年にはトレーサー900へと車名を変更するとともにフェイスリフトが行われた。内容に関しても最高出力の引き上げやスイングアームの延長、車体制振ダンパーであるパフォーマンスダンパーの採用、そして上級モデルであるGTグレードの設定など、多岐に渡り手が加えられた。そして2021年、満を持してフルモデルチェンジが図られた。名称は「トレーサー9 GT」(今現在国内ではGTグレードのみの販売となっている)。これまでと同様に、MT-09と平行して開発されてきたが、さらにキャラクターは明確に、運動性能は引き上げられたニューモデル、トレーサー9GTを紹介する。

ヤマハ トレーサー9GT 特徴

獰猛とも言える荒々しさと、
それをコントロールする電子デバイス

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歴代モデルがそうであったように、ヤマハが提唱するクロスプレーンコンセプトの下開発された三気筒エンジンを搭載するトレーサー9GT。総排気量888ccに引き上げられており、高い放熱性をもたらすダイレクトメッキシリンダーやパワーロスを軽減するオフセットシリンダーの採用、インジェクターの搭載位置をスロットルバルブ側に変更するなど、エンジンも今回のフルモデルチェンジによって手が加えられた点は少なくない。

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さらに注目したいのは、新開発された6軸センサーのIMUが採用されたことだ。バンク角やスライド、リフトアップなど、車体の状況を即座に感知し、それを制御するこのシステムは、高次元でのスポーツライディングをもたらすだけでなく、安全面のサポートにも一役買って出るものだ。

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これまでのトレーサーも試乗テストを行った経験があるが、6月に開催された新型の発表会にて開発陣の話を直接聞いた印象だと、かなりの変更が行われ根っことなる部分はそのままであっても、根本的に別物に仕立て上げられているという内容だった。なお、発表会はクローズドコースで行われ、その場でも試乗をしているのだが、やはりクローズドコース(サーキット)とストリート(公道)では路面の状況などは異なる。そこで今回は主戦場となるストリートでの使い勝手を注視しながらのテストを行うことにした。

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ヤマハ トレーサー9GT 試乗インプレッション

幕の内弁当的アレもコレも感も、
ここまでくると良し悪しか

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トレーサー9GTと同時にフルモデルチェンジが行われたMT-09とMT-07のファイスマスクが、従来モデルとガラリと印象が変えられたのに比べると、トレーサー9GTのデザインは、あくまで従来モデル踏襲の範囲に抑えられたようである。誰が見ても、一目でトレーサーだと分かるキャラクターデザインは安心感を持てるものであるし、既存ユーザーもほっとしたことだろう。

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エンジンに火を入れると、クロスプレーントリプルエンジン特有のサウンドを轟かせる。3気筒エンジンは、2気筒の鼓動感と、4気筒の高回転性能の両者のメリットの中間を狙ったものであり、一時期モーターサイクルではあまり使われなかったものだが、最近は様々なブランドで採用されている。その裏には加工技術の精度が向上し生産しやすくなったことや、三気筒エンジンはライダーが心地よいと感じるポイントを作り出しやすいということもある。そのような中でヤマハのクロスプレーントリプルは、刺激的なパフォーマンスと扱いやすさを高次元で両立できている。

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そもそもMT-09とシャシーを共通としていることもあるのだが、クイックなコーナーリング性能を求めてフロントフォークはかなり立たされた格好でセットされ、逆に安定面を補うためにスイングアームは長めに設定されている。これはワインディングロードを走るなどのスポーツライディングを楽しむ際には、とても好適なのだが、ストップ&ゴーを繰り返す市街地では、発進時に多少ふらつく。高い位置に備わったリラックスポジションなので、なおさらそう感じやすいのだが、スポーティなハンドリングをスポイルしたとしても、若干ネックを寝かせて設置しても良いかもしれないと思えた。

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エンジンフィーリングは秀逸だ。レッドゾーンは10000回転からとなっているが、トルクフルであり即座に制限速度まで達してしまうので、市街地では5000回転以上を使うことはまずないだろう。今回シャシー、エンジンともに大幅な軽量化が図られているのだが、特に新規採用されたSPINFORGED WHEELの効果は絶大で、左右への切り替えしの軽さは驚くべきものがある。バネ下重量の軽減はとても重要なのだと改めて感じさせられた。6軸センサーも備わっているので、攻めた走りを楽しんでもそう簡単には破綻することもない。現代のスポーツバイクらしいハンドリングは、時間を忘れてワインディングロードを快走することができた。

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今回3.5インチTFTメーターをダブルで採用しているのだが、左のディスプレイにインフォメーションがまとめられているようで、現在の車両状況などを目で探し求めてしまうシーンもあった。クイックシフターは、シフトアップだけでなくダウン時も作動するようにされたほか、クルーズコントロールやグリップヒーターの快適装備も充実している。なので、フルケースに荷物を満載にして長旅にでも出かけたい。という気分にさせられるのだが、いざ走らせるとスポーツバイクのソレなので、なんとも難しい。スーパースポーツバイクでやせ我慢をしながらツーリングをするか、安楽なとっつあんツアラーで快適な旅を楽しむかの、ちょうど中間を狙ってきていることはわかるのだが、てんこ盛りにし過ぎたせいで不透明なキャラクターになってしまっていることは否めない。完成度が高いために、むしろ残念に思えた部分である。最新モデルは従来モデルと比べ、軽量で扱いやすくて安全だ。ただ中古市場で値段のこなれた個体を探すのも一つの選択かもしれない。

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ヤマハ トレーサー9GT 詳細写真

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サイドケースステーは標準で装備、トップケースベースはオプション設定。トップケースはヘルメットが2個入る大容量で使い勝手良好。サイドケースはもう少し容量を拡大して欲しいところだ。

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排気量を888ccまで引き上げられたクロスプレーントリプルエンジン。120馬力のピークパワーは10000回転で発生する。ライディングモードは4パターンからセレクトすることができる。

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新たな工法技術を用いて鋳造ホイールでありながらも鍛造ホイールに匹敵する強度と靭性を確保したSPINFOGED WHEELを採用。バネ下重量が軽量されたことで、ハンドリングの軽快感はさらに引き上げられた。

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どこかしらネコ科の動物を連想させる新型トレーサー9GTのフェイスマスク。IMUのセンシングにより、バンク角に応じて点灯するコーナーリングランプ機能を装備している。

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可変式ウインドスクリーンは5mm単位で、10段階の調整が可能。調整幅が狭いものの、その効果は体感できる。グローブをしたままでも片手で操作することができた。

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これまでシフトアップ側のみ対応していたクイックシフターは、トレーサー9GTではアップ/ダウン両方で作動可能となった。なおフットレスト位置は2段階から選べる。

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リアサスペンションはフルアジャスタブルモノショックをリンクを介してスイングアームにセット。リンクの取り付け位置が絶妙で、リアのトラクションのインフォメーションが良い。

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3.5インチフルカラーTFTメーターを左右にダブルで装備する。細かなインフォメーションを表示することができるが、文字の小ささや、表示されている場所を探してしまうこともあった。

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クルーズコントロールを標準で装備。4速以上、50km/h以上の走行時にセットすることができる。グリップヒーターも装備するなど贅沢な快適機能が奢られている。

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広々とした座面と十分なクッション性を備えるシート。ライダーとパッセンジャーはセパレートされており、ライダー側は810mmと825mmから高さを任意で調整することができる。

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コンパクトでスポーツライクなテールセクション。カッティング加工を施したインナーレンズにLEDランプを採用し、後方からの視認性も高い。

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クロスプレーントリプルエンジン特有の吸排気サウンドをさらに引き立てるサイレンサー。マスの集中化を図るため車体下部にセットされる。剥き出しのように見える”ゼロカバー造詣”が用いられている。

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タンデムシート下のユーティリティスペース。ETC車載器+αの容量がある。ただステーが標準で備わっているので、オプション設定されているサイドケースを購入し活用したい。

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燃料タンクは18リットルと大容量。それでいながら、内ももにあたる部分が細くシェイプされたデザインとなっているため、膝を広げることなく、しっかりと車体を挟み込むことができる。ボディカラーはホワイトメタリック、グレーメタリック、レッドの3色を用意。

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