掲載日:2021年05月20日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
Benelli LEONCINO250
ベネリという名を聞いて、バイクメーカーのことだとピンとこない方もいるかもしれない。しかしイタリア生まれのベネリは長い歴史を持つブランドであり、幾度かの経営難を乗り越えて、今現在に至っているのだ。ベネリの歴史はイタリア中東部に位置するペーザロという都市で1911年にバイク修理工場として設立したことにはじまる。その後自社製エンジンを開発し、ベネリブランドのバイクがマーケットに送り出されてゆく。
世界大戦前にはすでにスーパーチャージャーを備える4気筒エンジンを搭載したレーシングマシンを開発するなど、斬新なアイデアを具現化する活発なブランドだったのだが、戦争の影響もあり銃器製造を進めたり、バイクの生産をストップせざるを得ない状況もあったが、1951年にレオンチーノを登場させることとなる。これが戦後のイタリアでヒットし、その後もマン島TTをはじめ、様々なレースにも積極的に参戦し、その名を広めていった。
余談だが6気筒エンジンを搭載した旧車としてホンダ・CBX1000やカワサキ・KZ1300が知られているが、ベネリではそれ以前にセイという6気筒エンジンモデルを開発、市販している。ただその後、日本車勢の台頭により経営は悪化、モトグッツィとの合併なども行われるが88年、ついにベネリブランドは消滅することとなる。これがベネリ初期の略歴であり、先に名が登場したレオンチーノが、最新モデルとして復活を遂げたのである。
私が頭に思い浮かべるベネリは、新たなオーナーが決まり90年代に入ってから復活を遂げ、大型バイクを製造していたベネリであり、3気筒エンジンを搭載したフルカウルスポーツのトルネード900トレをはじめ特徴的なバイクを開発し、他のメーカーとは違った魅力を持つモデルを生み出すブランドであるという認識だった。その後2005年に中国の銭江グループ傘下となり現在に至るわけだが、ここしばらく日本においてその名を聞く機会は無くなっていた。そんな中、昨年入ってきたのが、愛知県を本拠地とし、幅広いバイクパーツの製造を手掛けてきたプロトが輸入販売を開始するというニュースだった。
そもそもプロトでは先だってベネリ社の電動アシスト自転車を輸入販売していたこともあり、流れとしては自然なものだったのだが、国内販売が始まるベネリのラインナップを見渡すと、125~250ccエンジンを採用したコンパクトモデルが並び、以前のような大型バイクでないことが分かった。この排気量帯は世界中を見渡してもライバルが多く存在し、その中で勝ち抜くためにはそれなりの完成度が要求される。果たして名門ブランドネームを背負った現在のベネリ製バイクは、相応の価値があるものなのか大いに興味を持った私は、さっそく実際に触れてみる機会を探ることにした。4種揃えられたモデルラインナップの中から選んだのは、スクランブラーモデルとして位置づけされているレオンチーノ250だ。なんといっても伝統を持つネーミングを再び起用するということは、自信作となっているに違いないと直感したからだ。
レオンチーノ250を目の前にし、まず思っていたよりも大きいと感じた。テールエンドをタンデムシート後端でスパッと切り落としたショートボディを助長するデザインであるため、もう少しコンパクトかと思っていたのだが、これならば大柄な体格のライダーが跨っても違和感がないだろう。そして縦長のヘッドライト、シートカウルに流れるようなラインを描く燃料タンク、短くまとめれられたサイレンサーなど、オンリーワン的なデザインスパイスが散りばめられたスタイリングは、街中でも映えるものだ。
車両に跨りセルボタンを押しエンジンに火を入れる。249ccDOHCシングルエンジンは、いとも簡単に目を覚ましアイドリングビートを刻み始める。低回転域からトルクがあり、ラフなクラッチミートでもスルスルと車体を前へと押し出してゆく。5000~6000回転の常用域での扱いやすさが光り、さらにスロットルワークに対するエンジンのツキが自然なので、市街地での使い勝手は抜群に良い。ただし高いギアに入れたまま、低回転から高回転に引っ張り上げようとすると、少々息苦しさを感じた。この点に関しては、コンパクトモデルであっても、ギア、回転域を考えずに乗れるオートマ風セッティングのモデルが多くなった昨今において、しっかりとギアを選んでライディングをするというバイク操作の基本的なことを思い出す、いいきっかけになるだろう。
ワイディングでもなかなかシャープな走りを楽しむことができた。Φ41mmという太目の倒立フロントフォークは、オーバースペックとも思えるものが採用されており、ややキャスターが立ち気味かと感じさせるクイックなハンドリングと極低速域で発生する微振動が若干気になったものの、ペースを上げて走るとそれが収まり、フロントタイヤをしっかりと路面に食い込ませる働きをする。対してリアタイヤは150サイズのワイドなものだが、安心感を持たせながら転がりに重さを感じさせることもない。このセッティングがワインディングのみならず高速ステージでさらに効き、俊敏なフットワークを楽しみながらも安定した走りを得ることができる。
回転計は12000回転まで目盛が刻まれているが、10000回転に届かないくらいのところでリミッターが作動する。もうひと伸び欲しいところだが、耐久性を考えた安全マージンが取られているのだろう。6速6000回転で時速100キロ巡行、これはロングツーリングでも問題無いベターセッティングだ。それよりもステップ位置が高いこと、それに付随するシフトチェンジレバーやリアブレーキレバーが、道路に対して水平にセットされているため、足首周りが若干窮屈に思えた。位置調整の範疇なのかもしれないが、テスト時には調整することが無かった。
先にも述べたが、このクラスはライバルが多い。国内メーカーの250スポーツネイキッドはどれも高い完成度を誇るし、KTM&ハスクや、新興ブランドのモデルも粒ぞろいだ。その中でベネリ、レオンチーノ250を選ぶ理由。それは他と違うモデル、ブランドネームが大きいだろう。ただ、それ相応のポテンシャルとバリューもしっかりと備わっていると感じられたし、税込み54万8900円という本体価格もかなり頑張っていると思う。ベネリには2気筒モデルのTNT250もあり、そちらも乗ったがかなり感触は良かった。形から入る初めてのガイシャとしてお薦めできるし、ちょっと洒落たモデルを物色しているリターンライダーなどにも良いだろう。日本未導入ではあるが、海外ではレオンチーノ500が販売されているので、そちらにも興味が湧いてきた。