掲載日:2020年12月24日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/淺倉 恵介
KAWASAKI Z900RS
Z900RSが売れ続けている。発売してから、カラーリング以外の変更はなし。これまで、様々なニューモデルが登場してきているが、セールス面でZ900RSの牙城を崩すことをできたマシンは存在しない。
“ネイキッド”と称されるカテゴリーに属するモデルではあるが、ネイキッドとはレーサーレプリカ全盛期に、そのアンチテーゼとして生み出された言葉。バイクの歴史を鑑みれば、むしろネイキッドスタイルがスタンダード。そして、直列四気筒エンジンを搭載したビッグバイクは、我が日本が産み出した概念。Z900RSは、ジャパニーズスタンダードと呼ぶに相応しい存在。だからこそ、多くのライダーから支持されるのだろう。
現在のラインナップはスタンダードなZ900RSと、ビキニカウルを装備しライディングポジションに手が加えられたZ900RS CAFEの2モデル。カラーリングは、スタンダードはZ1の後期モデルを想起させるグラフィックが与えられたキャンディートーングリーンとエボニー、CAFEはカスタムペイント的なグラデーショントーンが魅力のエボニーが用意されている。
往年の名車Z1/Z2にインスパイアされた流麗なフォルムが、どんなシチュエーションでも端正な佇まいをみせるZ900RS。カワサキのコンテンポラリーなネイキッドモデルZ900をベースに開発されてはいるが、エンジンやフレームの基本的な部分こそ共有してはいるものの、外装パーツを乗せ換えただけの安易なバリエーションモデルではない。フレームは専用品が使用されているし、エンジンも多くの部分に手が入れられ、Z900RSとしての独自性を打ち出している。
排気量948cc、水冷直列四気筒DOHC4バルブエンジンは最高出力111PS。その発生回転数は8500rpmと、ビッグバイクとしては一般的なもの。ギヤ比は1速が低めに設定され、鋭い加速力を実現。一方で6速はロングな設定で、オーバードライブ的なキャラクターが持たされている。ライディングアシストデバイスとして電子制御も採用、トラクションコントロールシステムKTRCは、最大限の加速力を発揮するモード1と、路面状況が悪い場合にタイヤのスリップを防止するモード2を用意。システムのカットも可能となっている。
軽量でしなやかなスチール製トレリスフレームが、ネイキッドモデルらしいハンドリングを実現。絞り込まれたリアセクションは、スリムな形状で足つき性の良さにも貢献している。高剛性な倒立フロントフォークは、多彩なセッティングが可能なフルアジャスタブルタイプ。リアの足回りは、軽量なアルミ製スイングアームに、カワサキ独自のホリゾンタルバックリンクリアサスペンションを採用している。
Z900RSに跨りエンジンを始動させると、耳元に元気の良い排気音が飛び込んでくる。音量が大きく感じ、ノーマルマフラーなのに? と驚いた。だが不思議なことに、マシンを降りて少し距離をとると煩いわけではない。メガフォンルックのサイレンサーはショートタイプで、排気口がライダーに近く上を向いている。どうやら、ライダーにだけ排気音を届けるように考えられているらしい。
排気音もチューニングされているとのことで、ビッグバイクらしい低音の効いたサウンドが気持ち良い。これで、年々厳しくなる排気騒音規制に対応しているのだから素晴らしい。高速道路を走るペースになると、さすがに音が後方に流れてしまい、乗り手に聞こえるのは主に吸気音になる。また、この吸気音も良い音で、乗り手を昂ぶらせる。当然、エンジン音も聞こえているのだが、耳障りなメカノイズは皆無。音の良さはZ900RSの魅力のひとつだ。
その快音に包まれながら、スロットルを開け閉めするのが実に気持ち良い。トルクフルでレスポンスが俊敏だから、どこから開けてもツイてくる。低速ギヤを使った低速走行では、反応が良すぎると感じるかもしれない。けれど、いわゆる”ドン付き”症状とは違う。不意にパワーが立ち上がるのではなく、スロットル操作に恐ろしく忠実にツイてくる。急にマシンが飛び出したのだとしたら、それはライダーのスロットル操作がラフだったということなのだ。
その証拠にパーシャルは普通に出るし、全開時も開け始めのタメを意識すれば自由自在にパワーを引き出せる。それでもレスポンスが過敏に感じるのなら、考えているより1速高いギヤを使うといい。コーナリングがよりイージーになる。Z900RSのトルクは全域で太い、それに900ccの排気量は簡単にはストールしたりはしないものだ。ワインディングでは高めのギヤを使うのが、気持ち良く速く走るコツ。トラクションコントロールを信じて、いつもより大きめにスロットルを開けてやりさえすれば、こんなに速くコーナーを立ち上がれるのかと驚くはずだ。
111PSの最高出力は、200PSクラスが当たり前のリッタースーパースポーツと比べれば見劣りするが、そうそう力不足を感じることはないだろう。超高回転でパワーを捻り出しているエンジンではないから、その分パワーバンドが広く扱いやすい。それこそ街中でも“今、自分は凄い乗り物を操っている”という、ビッグバイクの醍醐味を味わうことができる。全域でパワフルさを体感できる反面、パワーバンドが明確ではなく、エンジン特性にドラマチックな部分が足りなく感じる場面もある。四気筒エンジンなのだから“カムに乗る”ような、盛り上がりがもう少し欲しい気もする。もちろん、回転数が上がればパワーは上がる、だが極めてフラットなパワー特性が、それを感じにくくさせている。まあ、それは贅沢な望みかもしれない。フレキシブルにパワーを引き出せる面白さは他に代え難いものがある。
ハンドリングは極めて素直でニュートラル。サスペンションのダンピングが程よく効いているので姿勢変化は小さめだが、スプリングは柔らかくピッチングも適度にする。難しいことを考えずとも、マシンを寝かせてやればコーナリングはイージーに決まる。ラジアルマウントキャリパーの制動力は十分以上、ラジアルポンプタイムのマスターシリンダーはコントロールしやすく、その幅が広いところも好印象。車体の作り込みに隙がない。
ただ、超高速域での安定感が物足りないと感じるかもしれない。だが、これは乗り手次第な部分が大きい。スタビリティに不満を感じる人は、大型GTマシンから乗り換えたような人ではないかと思う。そうしたモデルと比較すれな、車体の安定性自体は確かに劣るからだ。だから、そこは乗り手がマシンに合わせよう。ボリューミーなタンクを両膝でしっかり挟み込み、ヒールホールドも意識。アゴを引き、上半身を丸めるようなポジションをとれば、バーエンド部が上向きに感じるハンドルがしっくり決まる。
街乗りでは、そこまで構える必要はない。気を抜いた走りでも、Z900RSは容易に“走って、曲がって、止まる”。気になるのは、ハンドルとミラーの幅があるので、スリ抜けで気を遣うところくらいだ。アップライトなライディングポジションは、身体への負担も小さくツーリングも悪くない。ただし、シートは固めだし、上半身が立っている分、尻に荷重が集中するので、尻が痛くなりやすいかもしれない。それに、俊敏で軽快なバイクなのだから、長距離をダラダラと走るよりは元気良く開けて走る方が相応しい。Z900RSは、スタンダードなネイキッドバイクではあるのだが、そのキャラクターはスポーツ寄り。攻めるシチュエーションでは集中して楽しむ、クールダウンは気楽に流す。そんな使い方が似合うと思うのだ。
エンジンのルーツはZ1000で、ストローク量はそのままにボアサイズを下げている。相対的にロングストローク化したが、それでもボア×ストロークはφ73.4mm×L56.0mmのオーバースクエア設計。吸気は当然インジェクション、サブスロットルバルブを採用し、スムーズで緻密なスロットルコントロールを実現。
エンジン下に膨張室を設けることで、コンパクトなサイレンサーでも十分な消音を達成。ショートメガフォンスタイルが、Z900RSのフォルムにマッチ。ヘダースパイプは、熱による変色や錆の発生に強い中空二重菅構造を採用。美しい外観を長く楽しむことができる。
細いスポークを多く配置したアルミキャストホイールは、スポークホイールを連想させるデザイン。フロントブレーキはφ300mmの大径ディスクローターを装備し、組み合わせるキャリパーは対抗4ピストンラジアルマウントモノブロックキャリパー。
ラジアルポンプタイプのマスターシリンダーは、繊細なブレーキコントロールを実現。スモークタイプの別体式リザーバータンクの質感がたまらない。
φ41mm倒立フロントフォークはフルアジャスタブルタイプ。プリロードは無段階、圧側ダンピングは10段階、伸側ダンピングは12段階の範囲で調整可能。
ショックユニットをスイングアーム上側、地面とほぼ水平に配置するホリゾンタルバックリンクリアサスペンションを採用。マスの集中化に貢献し、マフラーからの熱の影響も受けにくい。リアショックユニットは伸側ダンピングとプリロード調整機能を持つ。
アルミ製スイングアームの重量は、わずか3.4kg。軽量ホイールとの組み合わせでバネ下重量を軽減、優れた路面追従性と軽快なハンドリングに貢献。
リアブレーキはφ250mmのディスクローターと、シングルピストンキャリパーを組み合わせる。ABSも標準装備されている。
ヘッドライトの光源は光量が高く消費電力が小さいLED。ユニット内部は6室に分割され、4室がロービーム、2室がハイビーム。ウインカーとテールランプもLEDを採用する。
Z900RSのデザインアイコンであるティアドロップタンク。形が美しいだけでなく、マシンホールド性にも優れる。容量は17Lで十分な航続距離を確保する。
シートはオーセンティックなダブルシート。使用されるレザーは、上面と側面で素材を変更。さらにダブルステッチを施して高級感を演出している。
バンジーフックを左右それぞれ2箇所装備。荷物の積載は、日常使用やツーリング時の使い勝手に大きく影響する部分。
シート裏面には車載工具を備える。ドライバー、両口スパナ、六角レンチが各一つという最低限の装備だが、省スペース性の面では優秀。
シート下にスペースの余裕はほぼ存在せず、ウエスを押し込むのむ難しい。後部にある箱状の部品は、標準装備するETCの車載ユニット。
メーターは、アナログ二眼式+LCDパネルで情報量は豊富。シンプルなアナログ式のスピードメーターとタコメーターは、視認性も良好。
左側ハンドルスイッチ。トラクションコントロールの設定とメーターの表示切り替えは、こちらのスイッチを使用して行う。一般的なスイッチとボタンの配置は、直感的な操作が可能。
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