掲載日:2020年05月29日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/MVアグスタジャパン 衣装協力/KUSHITANI 取材・文/佐川 健太郎 写真・動画/星野 耕作
MV AGUSTA BRUTALE 1000 RR
MVアグスタから3代目となる最新型「ブルターレ1000RR」が登場した。シリーズ歴代最強となる208psのパワーと最新電子制御を搭載し、最高級パーツで身を固めたスーパーネイキッドを今回は都会の街中で試乗してみた。
初代「ブルターレ」はスーパースポーツF4をベースに開発されたスポーツネイキッドとして2000年にデビュー。当初の排気量750ccからモデルチェンジ毎に排気量を拡大しパフォーマンスを向上。2010年に先代に当たる2代目ブルターレ1090系が登場し、その間3気筒版のブルターレ800もラインナップに加わり現在に至っている。
そして今回2020モデルとして登場した3代目となる「ブルターレ1000 RR」は最高峰スーパースポーツ「F4 RC」がベースの完全新設計モデルである。ちなみに「F4 RC」はMVアグスタがスーパーバイク世界選手権に送り込んでいたファクトリーマシン直系のレプリカモデル。そのことからも新型ブルターレは相当気合の入ったモデルということが分かる。
先行発売された世界限定300台の特別仕様車「ブルターレ1000セリエオロ」に対してRRはスタンダード仕様の位置付けではあるが、最高級グレードの装備とテクノロジーが盛り込まれている点はセリエオロ同様。新型では動力性能の向上とそれに伴う車体の強化と電制の進化により、ライダーの扱いやすさをスポイルしない形でのトータルバランスの向上が図られたという。
新型「ブルターレRR」ではエンジンのベースが「F4 RC」となり、最高出力および最大トルクはそれぞれアグスタ史上最強の208 hp、116.5 Nmを達成。もちろんクラス最強レベルである。燃焼室のラジアルバルブにはF1テクノロジーを採用し、更にMotoGP車両の典型であるチタン製ピストンロッドを採用するなど最高峰のモータースポーツで培われたテクノロジーが投入された。吸排気系ではシリンダー毎にツインインジェクター(下部がミクニ製、上部がマニエティ・マレリ製)を装備し、アロー製エキゾーストシステムは4-1-4レイアウトを採用するなど出力特性の向上が図られた。
フレームはスチールトレリス構造とアルミプレートによるコンポジットタイプとすることで入力に対する応答性を高めてスポーティなライディングスタイルに対応。最大速度300 km / h以上に達する空力に対応するためにラジエーター横には新たにスポイラーを配置し、ダウンフォースを与えてフロント荷重を増やすことで超高速域での安定性を向上させている。
足まわりはフロントにはオーリンズ製の電子制御式のNix ECフォークとリアに同じくTTXリアショックを搭載。電子ステアリングダンパーも含めて車速や走行状態によってリアルタイムに減衰力を調整する仕組み。また、ブレーキシステムはブレンボ製Stylemaラジアルキャリパーとダブルディスクを搭載。レースモードを備えた軽量なBosch 9 Plus ABSシステムを搭載するなど安全面にも抜かりはない。
電制も進化。エルドー社との共同開発によるIMU慣性プラットフォーム搭載のフル・ライドバイワイヤ・マルチマップシステムは4つの走行モード(スポーツ、レース、レイン、カスタム)を搭載。バンク角対応の8段階設定によるトラクションコントロールやフロントリフトコントロール、ローンチコントロールの他、アップ&ダウンシフターを装備するなどまさに最新装備のオンパレードである。
デザイン的にもフロントマスクや燃料タンク、テールフェアリングなどの外装パーツは新型ブルターレ専用設計で、LEDヘッドライトには新たにコーナリングライトを採用。第2世代5インチTFTディスプレイカラーパネルから多様な機能にアクセス可能。スマホ接続やクルーズコントロール機能も搭載されるなど日常使いも考慮されている。
高級なバイクは数あれど、“走り”の性能が保証された実績のある量産モデルとして、MVアグスタは最高峰ブランドであることに疑いの余地はないだろう。佇まいだけで圧倒される、4輪で言えばフェラーリのようなオーラが漂う。
エンジンは「F4 RC」ベースとなったことでケタ違いに強力になった。最高出力208psは従来モデルから50ps以上もアップ。スチールトレリスフレームとアルミプレートを組み合わせた車体の基本構造は従来どおりだが、キャスター角も立ち気味になりホイールベースも短くなってハンドリングもよりクイックになっている。
跨ってみると1000ccらしい重厚感があり、直4エンジン特有のマスの凝縮感が伝わってくる。ライディングポジションはコンパクトで従来モデルと比べてハンドル位置は低く、ステップ位置は高めに設定されるなど、よりレーシーな方向性にふってきた。
今回はこのスーパーマシンが街乗りでも楽しめるかを探るため、あえて都会のど真ん中で試乗してみた。公道用市販車としては最強レベルのエンジンはたしかにストリートでは強烈すぎる。スロットルを開ければ瞬時にとんでもない速度に達してしまい、街中では持てるポテンシャルの1割も発揮できない。ただ、湧き上がるパワーや、なみなみなとした中速トルクなどは信号間の短い距離でもそのフィーリングを楽しむことはできるし、4本マフラーが奏でる咽び泣くようなMVアグスタ独特のサウンドに酔いしれることもできる。
ブルターレ(イタリア語で獰猛の意味)というネーミングのとおり、ガッツのあるファイターなのだが丁寧に操作すれば意外にも従順だ。パワーがありすぎて街中では乗りづらいかというと実はそうでもない。エンジンは直4なので極低速から安定したトルクが出ていてUターンなどもハンドル切れ角に慣れればさほど苦にならない。電子制御の進化にも目を見張る。昔のバイクのようにパワーはあってもドンツキがひどくて操れないとかはなく、試しに一番アグレッシブな「レース」モードで走ってみたが、都会の街中でも全然大丈夫。スロットルさえ丁寧に扱えばまったく問題ないし、もっと言えばガバ開けしても「最初の遊びをとる」感じでマシンのほうで制御してくれるのだ。ブレーキも超強力で思いっきりかければリアがリフトするほどの勢いで減速してくれるが、それでもロックしたり破綻することはなく、そこでようやくABSが作動していることが分かる。
200km/hオーバーを想定した車体剛性や足まわりが与えられているので、40~50km/hで走っていても性能的なことは何も評価できない。というか、むしろ車体やサスペンションもガッチリしすぎていて、慣れないうちは車体の動きも感じ取りにくいかもしれない。それでも、ちゃんとスロットルやブレーキで加減速のメリハリをつけたり、速度や負荷に合わせたギアチェンジができれば、だんだんマシンが自分に近づいてきて街乗りスピードでも楽しめるようになる。ちょっとしたカーブを曲がるときにも、狙ったラインをぴたりとトレースしていく精密ハンドリングの気持ち良さを見つけられるはずだ。飛ばさなくても転がしているだけでも悦びがある。まさに4輪高級スポーツカーの感覚に近いかも。
ちなみに4種類のライディングモードによって出力特性も変化しオーリンズ製の電制サスがセッティングも最適化してくれるのだが、街乗りレベルでは正直あまり明確な差は感じられなかった。ただ、「レイン」モードにすると全体的に当たりが柔らかくトラクションコントロールの入りも早いので、まったり乗りたい場合はおすすめだ。
一点、気になったのはシフト操作に硬さがあり、アップ&ダウン対応のクイックシフターの入りにややムラがあったこと。スロットルオフでのエンブレの利き方にややタイムラグがあったことなど。慣らし中だったこともあり、もう少し距離を走りながら電制のセッティングを詰めていけば解決することだとは思う。
「ブルターレ1000RR」はモーターサイクルの美しさと性能を突き詰めた究極の形と言えるかも。全てにおいて最高レベルを求めたい人には最高の一台だろう。