掲載日:2019年11月25日 試乗インプレ・レビュー
写真/井上 演 取材・文/小松 男
HONDA CB400 SUPER FOUR
初代CB400SF(Super Four)が登場したのは1992年のこと。その翌年に中型自動二輪免許(現在の普通自動二輪免許)を取得した私の場合は、教習所におろしたてのCB400SFが2、3台あり、その他はボロボロになったVFR400K、FZX400などだったので、取り合いになったことを覚えているが、それから今までに普通自動二輪免許を取ったライダーのほとんどが、CB400SFでバイクの操作を習ったのではないだろうか。つまり、多くのライダーが触れたことがあるバイクだと思う。
CB400SFが発表された当時、世の中はネイキッドバイクブームに沸いていた。なので、周囲にはファーストバイクがCB400SFだという人間がゴロゴロしていた。私はすでに絶滅しかけていたレプリカ派だったので、こう言っては何だがさほど興味はなかったのだが、友人がピカピカの新車のCB400SFに乗っているのを見ると羨ましく思えたのは事実だ。それに、当時からCB400SFの乗りやすさ、そして速さは認識していた。それから四半世紀以上もの時間が経った今、CB400SFとじっくり向き合ってみる。
大きな波が押し寄せてくるかのように、バイク業界にもブームというのが訪れる。レーサーレプリカ、ネイキッド、アメリカン、ビッグスクーター、ストリートファイターにレトロフューチャーと、その時代によって、溢れかえるセグメントというのがあるのだ。先述したようにCB400SFはネイキッドブームの申し子なのだが、他を見回すと、当時ライバルといわれたモデルで現在残っているものはいない。なぜCB400SFは生き残れたのだろうか。
まず400ccエンジンは、普通自動二輪免許で乗れる最大排気量だ。日本のレギュレーションでは車検制度があるとはいえ、手を出しやすいところにある。昨今では、海外メーカー勢が300~400ccクラスのモデルをこぞって投入してきたこともあり、活気づいている。そんな中にあって、CB400SFという老舗商店のようなバイクの立ち位置というのは、ここにある。「見慣れてるのに、相変わらず一歩進んだ高性能」。
そもそもすでに400cc、4気筒エンジンというバイクで現存するのはCB400SFだけだ。低回転からトルクフルなシングルエンジンは快活かもしれないが、一方でがさつだとも言える。ツインエンジンはこのクラスの排気量だと若干野暮ったく感じないこともない。そんな中、シルキーな感触かつ超高回転域まで楽しむことができる4気筒エンジンは、機械としての魅力があるのだ。本当にこれは日本が世界に誇れる技術のひとつだと思う。
1992年の登場から大きなモデルチェンジを幾度か経て、現在のCB400SFへと続いてきており、現行モデルが出たのは2014年のことになる。2017年にはLEDヘッドライトやサスペンション設定変更などのマイナーチェンジが行われているが、基本構造には手が加えられていない。つまり、すでに現行型であっても5年が経っているのだ。
車両を目の前にすると、今見ても色あせないセクシーな雰囲気を感じる。むしろ最近の尖ったスタイルやレトロフューチャー系バイクばかり見慣れているので、新鮮に思えるから不思議だ。シートに跨りハンドルに手を伸ばすと、とてもリラックスしたライディングポジションにまとまることが分かる。私の身長は177cmなのだが、窮屈に感じるようなことはない。シート高も抑えられているので、ビギナーや女性でも親しみやすいと思う。
エンジンをかけて走り出す。低回転域からしっかりとしたトルクがあり粘り強く、ラフなスロットルワークを行ってもギクシャクするようなことがないのはマルチエンジンならではのことだ。CB400SFのエンジンに採用されている可変バルブシステムHYPER VTEC Revoは、通常は1気筒あたり2バルブが作動し、1速から5速までは6,300回転でもしくはスロットル開度に応じて6,300~6,750回転で、6速時には6,750回転で4バルブが使われるようになる。その作動は実に自然なものであるし、4バルブになってからの吹け上がりは最高である。足回りに関しても、よく動き路面を掴み、ライダーへのインフォメーションをしっかりと伝えてくれる。はっきり言って非の打ち所がないとはこのことである。
仕事柄、様々なバイクをテストし、CB400SFと同クラスのモデルも多いのだが、これほどまでに完成度の高いバイクは他にはない。走っていて楽しくて、タンデムも荷物満載のロングツーリングも、さらにはサーキット走行を行っても高いポテンシャルを発揮する。バランスの良さは唯一無二と言っていいだろう。
もし強いて挙げるとすればCB1300SFとなるのだが、あれはビッグバイクカテゴリーであり、その重量などから女性やビギナーであれば持て余してしまうだろう。CB400SFは万人受けするバイクなのである。だからこそ一方で、面白みがないとか、上がりバイクと揶揄されることもあるのだが、これほどバイクライフを豊かにしてくれるモデルは無いのではないだろうか。突出した部分は持ち合わせていないかもしれないが、すべてに関して上質であり高性能。CB400SFが相棒ならば、末永くバイクライフを楽しむことができる。私はそう思っている。
新車で購入しじっくりと付き合うもよし、こなれた価格の中古を手に入れ、バイク遊びの新しいトビラを開くのも良いだろう。できることならばこの素晴らしさを世界中のすべてのライダーに経験して欲しい、CB400SFはそんなバイクだ。