掲載日:2019年10月11日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/野岸“ねぎ”泰之
FANTIC CABALLERO Scrambler250
ファンティックはモトクロスやトライアルなどオフロード系のモデルを得意とするイタリアのバイクメーカーで、1968年の創業だ。日本市場には本格的なオフロードモデルのほか、「キャバレロ(騎士)」というブランド名で、スクランブラーとフラットトラックという兄弟モデルを2019年から展開している。それぞれ125、250、500ccクラスという排気量があるのだが、今回はそのうち、スクランブラー250を取り上げることにした。鮮やかなイタリアンレッドのボディがまぶしいこのモデル、果たしてどんな実力を秘めているのだろうか。
スクランブラーとは、もともと未舗装のコースで行われるレースに出るため、ストリート用のマシンを改造してオフロードの走破性を高めたものがルーツだ。現在ではネオクラシックスタイルの一翼として、レトロな外観にブロック系タイヤ、アップマフラーを装着したモデルにその名が冠されていることが多い。オンロードはもちろん、ダート走行もそこそここなす、オールマイティなマシンというキャラクターを持っている。
ドゥカティやトライアンフなど、スクランブラーという名を冠したモデルをリリースしているメーカーは他にもあるが、大排気量が中心で、250クラスをラインナップしているメーカーはあまりない。それだけでもこのマシンの存在価値が高まろうというものだ。
ファンティックのスクランブラー250は、昔ながらのバイクらしいシンプルなデザインに真っ赤なタンク(実際はタンクカバー)、黄色のゼッケンプレートという外観で、とてもよく目立つ。実際撮影中には何人かのライダーに「これは何というバイクですか?」と声を掛けられたほど。
外観はレトロだが、ヘッドライト&テールランプはLEDを採用、またシンプルな単眼メーターはフルデジタルで多機能タイプ、ブレーキは前後ペタルタイプのディスクでABSを標準装備するなど、現代の交通事情にマッチした機能と利便性をしっかりと確保している。
タイヤはフロント19、リヤ17インチで、ちょっとしたオフロードに分け入るにもバランスのいいサイズ構成だ。実際に跨ってみると、幅広かつ高めのハンドルで、ポジションはきわめて自然。820mmというシート高は決して低いわけではないが、スリムなタンクのおかげか車体がとても軽く感じられ、気負わずに乗りこなせる“ちょうどいいサイズ”の車格となっている。
まずは一般道を走ってみたが、その第一印象は「とにかくパワフル!」というものだった。最高出力は25HP/8500rpm、最大トルクは22Nm/6500rpmでそれほど高性能なエンジンを積んでいるわけではない。しかし、信号ダッシュではグイと体を持っていかれそうな力強い加速と、そのままモリモリと湧き上がってくるトルクが感じられる。その乗り味は野性的で少し荒々しい雰囲気もあって「このマシン、乗っていると楽しいぞ」と感じさせてくれるものになっている。国産車の緻密でスムーズな乗車感もいいが、こういうプリミティブな乗り味も悪くない。「バイクってそもそもこんな感じだったよな」と思い起こさせてくれるようなマシンなのだ。そして、後方から聞こえてくる排気音がまたいい。250ccクラスにしては重めで野太く歯切れのいいサウンドは、乗り手の気分を高揚させてくれる、ほどよいスパイスとなっている。
ハンドリングはとても素直なものだ。しかし、フロント17インチタイヤを持つ昨今のオンロードマシンのようにコーナーで自然にすっと切れ込んでいく感じではなく、体重移動とハンドルで意識的に曲げていくと、より操縦感が増してライディングが楽しめる。
高速道路では、法定速度での巡航はまったく問題ない。もちろん大型バイクのような絶対的パワーはないものの、走行車線を淡々と走る大型トラックを難なくひょいっと追い越せるだけの瞬発力は持っているし、カリカリと欲張った走りを求めなければ、何ら不満はないだろう。
ただ一点気になったのは、信号待ちなどで右足を下すと、太ももの付け根部分が熱くなることだ。ちょうどこの部分に排気管が通っており、カバーはあるもののかなり熱が伝わってくる。走っているときは全く問題ないが、これについてはぜひとも対策、改良を求めたいところだ。
このマシンの魅力は、カタログ数値では測れない部分にこそある、と思っている。それは例えば、気軽にオフロードに入って行けるという点だ。林道の先にあるキャンプ地に向かうとか、ツーリング中に眺めのいい河原を見つけたのでちょっと川べりに下りてみる、なんて純粋なオンロードマシンならちょっとためらうようなシチュエーションでも、気にすることなく乗って行けるのだ。それも、他社の大型スクランブラーよりもかなり気軽に「行く気」にさせてくれるのである。
また、本格的なトレールマシンとは違うものの、腕さえあればダート道をかなりスポーティに走れるポテンシャルを秘めていることも付け加えておこう。ファンティック キャバレロ スクランブラー250はバイクの楽しみ方の幅をグッと広げてくれる、”ちょうどいいサイズとパワー感”を持った、まさにオールマイティなマシンといえるだろう。
ヘッドライトはLEDを採用。写真の状態はハイビーム点灯時で、ローは中央の大きな球が点灯する。リング状のものはポジションランプだ。
メーターは単眼式のフルデジタル。円周部には燃料計と電圧計が表示されているが、切り替えでタコメーターにもなる。残燃料なども表示できる多機能タイプだ。
独特のデザインを持つ左ハンドルスイッチ。ABSは停車時にボタンを長押しすると解除でき、その場合にはオレンジのランプが点灯する。
右側のハンドルスイッチはスターターボタンとキルスイッチのみとなっている。
アチェルビスのハンドガードは純正オプションではなく、販売元のサイン・ハウスがカスタムの提案として装着したものだ。
タンク(実際はカバー)の上面はトレイ状になっていて、タンクバッグの取り付けに配慮している。燃料タンク容量は125、500と同じ12Lだ。
タックロール付きのシートは先端が絞り込まれ、足つき性を考慮したデザインとなっている。テールランプはLEDだ。
ファンティック キャバレロ スクランブラーには125、250、500があって車体構成はほぼ同じ。ナンバーのほか、ラジエターシュラウドのステッカーで見分けられる。
タンクカバーとともに、デザイン上のアクセントとなっているゼッケンプレート。赤と黄色の配色はとてもよく目立つ。
エンジンは水冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒249.6cc。250と500はインジェクション、125のみキャブレターとなっている。
フロントタイヤは110/80-19。新車時は欧州MITAS製のタイヤを装着しているが、借りた車両はシンコー製のE-804にリプレイスされていた。
フロントブレーキのディスク径は320mm。ブレンボのOEMであるBYBRE(バイブレ)社製のキャリパーを採用している。
リアのタイヤサイズは130/80-17。フロント同様シンコーのE-805が装着されていた。ブレーキディスク径は230mmだ。
スタイリッシュな2本出しのマフラーは、イタリア、アロー社製を採用。太く、歯切れのいいエキゾーストノートを聞かせてくれる。
テスターは身長170cm、体重73kg、足短め。両足ではつま先が着く程度。片足だと指の付け根までしっかりと接地する。
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