掲載日:2019年10月08日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/小松 男
SUZUKI V-Strom 1000XT ABS
その火付け役となったのは、4バルブ化されたボクサーエンジンを搭載したBMWモトラッド・R1100GSだと言い切ってしまうが、大排気量エンジンを搭載し、サスペンションストロークを伸ばしたバイクが欧州を中心に流行り出したのは1990年代中盤のこと。それ以前に多かったオフロードをバリバリ走るラリー系ビッグオフローダーとは少々異なり、オンロード主体のロングツーリングの性能を引き上げるとともに、未舗装路であっても入っていけるというスタイルとなり、その対地球相手に走り回る様から、アドベンチャーバイクという新たなカテゴリーが誕生した。その後、様々なメーカーがアドベンチャーモデルを矢継ぎ早に発表してゆくこととなる。スズキも2002年に欧州でVストローム1000を発表。アドベンチャー戦国時代に名乗りを挙げた。今回はその現行モデルにあたるVストローム1000XTの詳細に迫る。
世界で最も過酷だと言われるラリーレイドのひとつ、ダカール・ラリー。80年代にはFIA及びFIMの公式競技となり、飛躍的に知名度が高まった。当時はフランスのパリからアフリカ大陸にあるセネガルの首都ダカールまでのおよそ12000kmもの距離、しかもその道中のほとんどは砂漠地帯という本当に過酷なものであり、ここ日本においても、ダカールラリーの様子は注目されるとともに、四輪、二輪メーカーがこぞって参戦し始めるようになる。そのチャレンジャーの中にはスズキも名を連ねており、750ccエンジンを搭載したDR-Zで参戦。ライダーには優勝経験を持ち、以前からスズキとも繋がりを持っていたガストン・ライエを起用するも、残念ながら優勝には届かなかった。
と、ここまではラリーレイドモデルの話だが、現行Vストローム1000XTは当時のDR-Zをモチーフにデザインされており、その血脈を感じ取れるものなのだ。ただし中身というか、そのキャラクター的な部分は異なっている。そもそもラリーマシンというのは道なき道を猛スピードで走り抜けるために作られるものであり、足まわりの設定、骨格なども特別なものだ。Vストローム1000XTはいわゆる市販アドベンチャーセグメントにカテゴライズされるモデルであり、オンロード主体のロングツーリングを得意としている。そしてGSXシリーズやハヤブサなどスポーティかつ扱いやすいモデルを多数輩出してきたスズキらしく、アドベンチャーモデルでありながらも、高いスポーツ性能を持たされた一台に仕上がっている。それではVストロームXTを実際に試乗テストした様子を紹介してゆこう。
欧州市場を中心に、拡大の一途をたどっていたアドベンチャーマーケットへスズキが初代Vストローム1000を導入したのは2002年のこと。一見すると当時の他ブランドのアドベンチャーモデルの様相と近しいものだったが、アルミボックスフレームに、心臓部には当時同じく二気筒エンジンを搭載するドゥカティキラーとして人気が高かったTL1000をベースとしたエンジンを搭載、軽量かつ俊敏な性格は欧州のライダーに受け入れられ、ヒットすることとなる。
そして現在も販売されている2代目が登場したのは2014年のことだ。スズキの二輪モデルでは初採用となるトラクションコントロールを装備したほか、フロントサスペンションは倒立フォークに、エンジンにもボアアップをはじめ手が加えられ、スポーツポテンシャルを引き上げながら扱いやすさが増される形となった。2017年にはマイナーチェンジが施され、ハンドルガードやアンダーガードが標準装備となったほか、姿勢制御システムが追加されたことで、トラクションコントロールをより正確に制御することができるようになっている。これらの装備、パッケージングからも分かるように、Vストロームはもはや、アドベンチャーモデルというカテゴリーを超越したスポーツアドベンチャーなのだ。
スズキイージースタートシステムにより、スタートボタンをワンプッシュするだけでエンジンは目を覚ます。クラッチをラフに繋いでも1000ccという大排気量のトルクを活かして、いとも簡単に車体を前へと押し出してくれる。Vストローム1000XTは、フロント19インチ、リア17インチなのだが、元々私自身がこの組み合わせを好んでいることもあり、とてもコントローラブルに仕上がっている。
ピュアスポーツモデル程の俊敏さはないものの、オフロードモデルのようなハンドリングのだるさがない、だから一般的なストリートやワインディングでは19/17の組み合わせはとても扱いやすい。各部が温まってきたことを確認して、少々粗目のライディングをしてみる。エンジンは低回転時よりも高回転域でより一層元気さが増すキャラクターとされている。ハンドル幅がさほど広くなく、しかもこの車体サイズにしては軽量なので、市街地でも振り回しやすい。高速道路を経由していつものワインディングにステージを移す。片手でも調整可能なスクリーンのおかげで、体にあたる走行風も少なくどこでも快適だ。サスペンションは市街地では若干固めかと思ったが、ちょっと気持ちを入れて走ると、よく動きベターセッティングだと分かる。その気になればSSも相手に出来る羊の革を被った狼そのものだ。
BMW・GS、ドゥカティ・ムルティストラーダ、KTM・アドベンチャー、ホンダ・アフリカツインなど、アドベンチャーセグメントは強豪が並ぶ。その中にあってVストローム1000XTを選ぶのは、デザイン、性能、そしてコストパフォーマンスだ。海外勢とは50万円近くの価格差があり、アフリカツインもスタンダードモデル以外はVストロームXTより高価だ。差額を利用して大冒険の資金にあてる。そんなリアリスト向けの一台なのかもしれない。