
掲載日:2017年09月21日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川健太郎 写真・動画/山家健一 衣装協力/HYOD
モトグッツィというメーカー。生粋のイタリアン・ブランドでありながら、ドゥカティやアプリリアといった高性能を追い求める他の同国ブランドとは一線を画し、クラシック路線を守り続けるユニークなメーカーである。それでいて、世の中に背を向けるわけでなく、新たな技術を取り入れ改良を重ねることで一歩一歩着実にマシンを進化させている。地味に見えて実はしたたかなメーカーなのだ。
V7Ⅲレーサーは、クラシカルな外見に現代的な走りの性能が与えられた「スポーツヘリテージ」というジャンルで、V7Ⅲシリーズの中でも最も走りにこだわったモデルである。まずタンクがクロームメッキから落ち着いたサテン仕上げへと変わったのが目に付く。モトグッツィで象徴的な左右に突き出したエンジンのヘッドまわりのパーツが、今回からV9ボバーに代表されるV9シリーズをベースに変更され、またエキゾーストパイプも二重構造となったことでより迫力ある外観になった。
もうひとつ、オーリンズのフルアジャスタブルタイプのツインショックが新たに採用されたことで、スポーティな雰囲気はぐっと高まっている。じつは見た目では分からないが、フロントまわりのディメンションも変更されているとのこと。エンジンと共にシャーシ自体も進化しているわけだ。
空冷縦置きVツインにシャフトドライブ、乾式単板クラッチという半世紀も変わらないエンジンレイアウトは乗り味も独特で、縦に震える逞しい鼓動感もさることながら、スロットルオンで右に車体が傾ぐトルクリアクションや、加速するとテールがリフトしてくるシャフトドライブならではの挙動、スパッと切れてスパッとつながる乾式単板クラッチの操作感も含めて味わい深いものではあるが、そのモトグッツィらしい「クセ」も世代を重ねるごとに薄くなっている感はある。逆に言えば、いい意味で乗りやすくなっているのだが……。
ピストンやヘッドまわりが世代的に新しいV9がベースになったことで、排気量もボア・ストロークも変わらないはずなのに、回転がスムーズかつマイルドになった感じがする。パワフルなのに出力特性は穏やかで、エンジンの吹け上がりも軽やかになった。街乗りしていても何のストレスもないし、高速道路でも十分速い。
気に入ったのはクラッチが軽くなったこと。従来は渋滞などでの半クラを使った低速巡行が辛かったが、新型ではだいぶ楽になった。また、シフト機構自体も改良されて、ギアチェンジがスムーズになり、信号待ちでニュートラルが出しやすくなった点は嬉しい。もうひとつ、標準で2人乗り仕様になったことも見逃せないポイント。一見シングルシートに見えるがシートカバーが簡単に取り外せて手軽にタンデムを楽しめるのがいい。
ライディングポジションはクラシックレーサー風。セパハンでもそれほど極端に低いわけでもなく、前傾も緩め、着座位置は後ろ寄り、ハンドル位置はやや遠いがステップも後退しすぎず、シートも低めなど、快適なライディングポジションだと言える。
フロントまわりのディメンションが刷新され、ハンドリングもより軽快になった。フロント18インチでフォークオフセットも大きめな設定なので、基本的に走りのフィーリングは昔ながらの鷹揚さがあり、コーナーで車体を倒し込むとワンテンポ遅れてステアリングが切れてくる感覚は従来どおりだが、より乗りこなし感、一体感が濃密になった感じはする。特筆すべきはオーリンズの作動性の良さ。ストロークがしなやかで、ギャップでの突き上げも最小限。コーナリング性能だけでなく、乗り心地の良さも確実にアップした。
ブレンボ製のシングルディスクブレーキは穏やかなタッチだが効力は十分で、ABSの作動感も分かりやすい。2段階のトラクションコントロールも介入タイミングは穏やかだが、交差点付近のマンホールなど滑りやすい路面では確実に作動することも確認できた。
3代目ということで各部が熟成され、パーツのクオリティも高くなった。純粋なイタリアン・ブランドであり、50年以上の伝統がある縦置きVツインを搭載するビンテージレーサーの雰囲気を、まさに新車で体験できる。加えて電子制御で安心安全だし、現代のマシンということでメカ的な信頼性も高いなどメリットは大きい。自分ですべての整備ができてしまうエンスーでなくても、気軽に親しめる現代のクラシックモデルだ。
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