
掲載日:2017年06月15日 試乗インプレ・レビュー
取材・文・写真/田宮 徹
欧州仕様と比べればシート高は30mm低減されていて、数値としてはそれほど高くない790mmながら、シートの幅があることなどが影響して、足着き性はあまりよくない。シート最前部に座っても、身長167cmの筆者だと両つま先+αが接地する程度だ。
フロアボードは、前側に足を完全に投げ出せるようなつくり。膝を軽く曲げ、手前側のステップボードにべったり足を着くと、かなり太めのフロアトンネルを両足のくるぶしでホールドでき、ライディング時の安心感を得やすい。ハンドルは、いかにもオフロードバイクな幅広タイプ。バックミラーは大きく、ワイドなハンドルの両端に並ぶように装着されていて、後方視認性は非常によい。
スマートキーをポケットに入れたまま、メインスイッチをオンにしてエンジン始動。排気音は、実用性も重視したNC750シリーズ用がベースということを考えると意外に元気よく、かといってうるさすぎずに心地よい。通常走行用のDモードにして、スロットルを開けると、かなり俊敏なスタートダッシュ。DCTのタイムラグはなく、一般的なCVTスクーターのイメージで乗りはじめると、その唐突感に最初は驚くかもしれない。しかし慣れれば、そのダイレクトな発進加速感が楽しくなってくる。
NC750シリーズと比べれば、低めのギアを使うシーンが多い(=高回転をキープする)DCT制御。日常的な市街地移動なら、Dモードのままで十分だ。ただし、交通量が多い道路をそれなりにキビキビと走りたい場合には、Sモードのレベル1(3段階に調整できるSモードのうち、もっともマイルドな仕様)あたりで乗るほうが、よりフィーリングが合うこともあった。DCTのモードは、好みに応じて積極的に調整したい。
ブリヂストン社が開発した大きなブロックパターンのチューブレスタイヤは、オンロードでも十分なグリップ力を発揮。ワインディングに持ち込んだX-ADVは、気持ちのよいスポーティライドを満喫させてくれる。車重は238kgと軽くはないが、ワインディングで重さが気になることは皆無。ほんの少しライダーにハンドル舵角を感じさせながら、素直で軽快なコーナリングが続く。
ワインディングをスポーティに走らせるなら、お薦めのDCT設定はやはりSモードのレベル3。もっとも高回転を多用する自動変速モードだ。もちろん、MTモードでハンドシフトするのも楽しいが、スクータータイプのX-ADVはリヤブレーキを左手で操作する設計。ブレーキング操作に集中できる自動変速モードのほうが、より恩恵を得られるからだ。
ただし、Sモードレベル3でも1速までシフトダウンしてくれるシーンは少ないので、超タイトなコーナーでより低いギアを使いたいときには、手動でシフトダウン。自動変速モードであっても、左手のスイッチを押せばシフトダウンやアップが可能で、ある程度の時間が経過するとまた自動変速に戻ってくれる。より自在に操るために、この機能は活用したい。
アドベンチャーテイストのX-ADVだが、フラットダートくらいなら実際に未舗装路を楽しむことも可能。CRF1000LアフリカツインのようにオフロードモードのDCT制御は備えていないが、発進時にホイールスピンをさせすぎないようスロットル操作に気をつければ、十分に楽しめる。信頼性の高いABSは、オフロードでも絶大な安心感を生む。さすがに、極低速時にフロントブレーキをかけると、瞬間的なロックに驚くこともあるが、このようなシーンではリヤブレーキを中心に制動させていけば問題ない。
ステップボードとハンドル位置の関係から、残念ながらスタンディング走行は難しく、デコボコがあまりに多いダートを走るのは不向き。スクータータイプとしてはよく動く足まわりだが、本格的なアドベンチャーやオフロードモデルの域には達していないため、シッティングのままではショックを吸収しきれない。とはいえ、スクーターの形状でここまで本格的にフラットダートを楽しめるというのは、十分に新感覚と評価できる。
筆者はこれまでNC750シリーズに対して、スポーツ性よりも実用性を重視している印象を強く持っていて、そのパワーユニットを使ったX-ADVも、スタイリングや装備に遊び心を加えたとはいえ、乗り味にスポーティな要素を感じられないのではないかと想像していた。しかし実際に体感したX-ADVは、それをよい意味で裏切るスポーティ&ファンなテイストがいっぱいだった。
徹底的なつくりこみの結果、車体価格はNC750シリーズに対して大きく上昇することになったが、X-ADVが持つ楽しいライディングフィールと上質な装備、新しさや注目度を考えれば、その価値は十分にある。
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