

掲載日:2014年07月10日 試乗インプレ・レビュー
取材・文/佐川 健太郎 写真/岡 拓 動画/倉田 昌幸 衣装協力/HYOD
BMWのR1200GS、トライアンフのタイガーエクスプローラー、ホンダVFR1200X、ヤマハXT1200ZEスーパーテネレ、KTM1190アドベンチャー等々、いま世界的ブームを呼んでいるアドベンチャー・ツアラー・セグメントにおいて、各メーカーは威信をかけてフラッグシップモデルを投入し、まさに群雄割拠の時代を迎えている。その中で、スズキが満を持して送り込んできたのが『V-Strom1000ABS』である。これは最初から厳しい戦いであることは間違いない。
いずれも劣らぬライバルたちが、フルサイズの車体と1,200ccクラスの排気量を持って力技で押してきているのに対し、スズキはあえて1,000ccのエンジンと、それに見合った軽量コンパクトな車体で勝負に出たことが、まずポイント。結論を先に言うと、これは正しい選択だったと思う。特に日本で乗ることを考えると、ライダーの体格的にも交通環境的にも、ぴったりとはまるモデルと言っていいだろう。
じゃじゃ馬で知られた、かつてのVツインスーパースポーツ、TL1000シリーズのエンジンは、排気量拡大と最新のエンジンマネジメントにより、それこそ見違えるほどジェントルに、扱いやすく進化している。スペック的には100psと控えめではあるが、体感的には110psぐらいは出ていそうな感じ。特に中速域でのトルクの盛り上がりが強烈で、あっという間にメーターの針が跳ね上がる。そして10,000rpm過ぎまで一気に吹け上がる上昇感は、かつてのTLを彷彿させる爽快さ。Vツインらしい鼓動感は感じつつも、どの回転域でもスムーズで振動も少なく快適だ。
一方で、極低速も十分な粘りがあり、余裕のあるハンドル切れ角とも相まって、Uターンもストレスなくこなせる。シート高は850mmで見た目はそれなりに高いのだが、実際に跨ってみると、スリムな車体とイニシャルがソフトな前後サスペンションのおかげで結構沈み込むため、足着きも悪くない。普段使いもストレスなくできそうだ。
圧巻は高速コーナーでのスタビリティ。プレス向け発表会では平日ともあって有料道路をほぼ貸切で試乗することができたが、まったく不安なく、思い通りのラインをトレースできる。公道なのでもちろん、あちこちにギャップやウネリがあるのだが、長い足が外乱を吸収してくれるため平和そのもの。ライダーはいつも豊富な接地感に安心しながら、マシンに身を委ねることができる。だから、リラックスできて速い! ひと口で言うなら“足長スーパースポーツ“といった感じだ。
路面の継ぎ目の鉄板などは滑りそうでイヤなものだが、そんなときに頼りになるのがトラクションコントロール。作動するまではなかなかスロットルを開けられないが、心の安全マージンは絶大だ。試しにフラットダートも走ってみたが、トラクションコントロールの介入度が最も高いモード「2」では効き過ぎるほど。モード「1」ではリアを少し流しながらターンできるレベルで丁度良いかも。ABSも感度が高く、ダートでも十分実用的に使える。
ブレーキも強烈だ。新たに投入されたモノブロックのラジアルマウントキャリパーは、結構ガッツリ効くタイプだ。欧州からの要望とのことだが、個人的にはもう少し穏やかに効いて欲しい気もする。フロントフォークにストロークがあるので、思いのほかピッチングが大きく出てしまうのだ。ただ、これも慣れの問題ですぐに順応できるし、かけすぎても最終的にはABSが作動するので何の問題もない。
オプションのパニア&トップケース装着車両にも試乗してみたが、切り返し等で若干の重さは感じるものの、ハンドリングはニュートラルで特にネガは感じないレベル。専用設計であるがゆえにコンパクトで一体感がある。バンク角も十分で、重量増による車体の接地などもまずないはずだ。ラチェット式の可変スクリーンも簡単便利で実用的だし、豊富なオプションパーツで自分流にカスタムする楽しみもある。
Vストローム1000ABSは、スーパースポーツ譲りのスプリンターとしての素質を持つ、快適ツアラーだ。そして、等身大の自分のままで気楽に付き合える数少ないアドベンチャーモデルである。
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