掲載日:2018年12月21日 試乗インプレ・レビュー
取材協力/ACサンクチュアリー本店
試乗ライダー・文/和歌山利宏 写真/柴田直行 記事提供/ロードライダー編集部
1984年に新世代スーパースポーツとして市販されたGPZ900Rニンジャ。それは、Z1と同様、カワサキが精魂を注ぎ込んだモデルであった。当時進んでいたバイクの大型化に一石を投じたかのようなニンジャは、今乗っても、ジャストサイズであると感じさせ、今もその立ち位置を見失っていない。今回は2000年型A13の試乗を通じてその魅力を振り返ってみる。
1960年代から1970年代、日本のバイクメーカーは日本の高度成長期を物語るように、ラインナップと販路を拡大していった。そのバイクに目を向けても各メーカーとも1970年代前半期にナナハンを、終盤には並列4気筒のリッターバイクをラインナップし、1980年過ぎには1100がひとつの標準になるほど短期間に大型化が進行した。
でも、速くなったもののバイクは重くデカくなり過ぎていた。 そこで、高性能バイクをこの先どう進化させるべきか。この命題にカワサキは1979年頃から取り組み空冷4気筒のさらなる発展を考慮する一方、V4や並列6気筒、はたまた1,500cc単気筒などの試作実験も行っていたという。そして、最終的にGPZ900Rニンジャに採用されたのが、左サイドカムチェーン、水冷4バルブの並列4気筒ユニットだったのである。
並列4気筒としては初の水冷化によってシリンダーピッチを短縮してコンパクトにでき、さらにカムチェーンをサイド配置できるので、吸気ポートをストレートに近付けさらにコンパクト化が可能になる。性能的にも900ccで十分に空冷1,100ccを超えられるというわけだ。
また、2次バランサーを装着すればリジッドマウントしたエンジンを剛性部材として利用でき、ダイヤモンドフレームの採用が可能となる。それによってダウンチューブがなければマフラーの取り回しも有利だし、その分エンジンを前方低位置に搭載できる。前輪分布荷重を稼ぎ、低重心化も図りやすい。
こんな具合に、ニンジャの開発目標は最高水準の高性能たることと、軽量コンパクト化であった。 その上で、当時急激に普及が進んでいたリンク式リアサスの採用など、当時として考えられるアイデアが余すところなく注入された。 そうした狙いは、今回乗っても明らかというものである。
今回試乗した試乗車2000年型A13は、跨るとフルカウル装着であっても、それは小ぶりで、カフェレーサースタイルのネイキッドスポーツといった雰囲気だ。ハンドルは前方にあってステップはやや後退している。このライディングポジションは、コンチネンタルスタイルのようでもある。それ以前のビッグ空冷モデルとは一線を画していることに、今さらのように驚かされてしまう。
だから、コンパクトでスリムで、スポーティに楽しもうという気になる。良い意味で威圧感がなく車体はほどよい大きさだ。足着き性も良好な部類で、跨ってサイドスタンドを跳ね上げ傾いていた車体を起こすのもさほど重くはない。
おまけに足元のスリム感とフィット感ときたら、現在の水準で見ても最高である。アルミ鋳造製のピボットプレートがステップブラケットを兼ね、ヒールガードともなる後方部が絶妙に内側に追い込まれているため、スリムかつくるぶし内側が吸い付くようにフィット。独特なピボットまわりの構成がこのような利点を生んでいるのかもしれない。
エンジンは水冷化のおかげもあって静粛で、フリクション感の少なさもかなり今日の水準に近い。その点で今日的で、これ以前の空冷ユニットとは全く違う。
エンジン特性は、普通に使えてネイキッドスポーツらしい。この国内向き2000年型A13は、初期型の115psに対し86psに抑えられていることもあるが、現行ZRX1200DAEGのトルクを細く回転とレスポンスを少々重くしたようなものと想像してもらって、あながち外れていないかもしれない。
そう、ZRX1200/DAEGのエンジンのルーツはこのGPZ900Rにあるわけで、通じるものを感じても不思議ではない。
ハンドリングもニンジャ以前のビッグ空冷マシンとは違い、重量車ではなく、普通のストリートスポーツを思わせる。リアサスをリンク式としたことのご利益も、多分にあるはずだ。それでいて、コーナーに入ってリアへの荷重感を高めていくフィーリングは、Z系同様のカワサキらしい持ち味である。
でも、ニンジャ登場から間もなくレーサーレプリカブームが勃発。これよりも軽くて高性能なバイクがいくつも出現していった。
カワサキもニンジャの2年後、1986年にGPZ1000RX、1988年にはZX-10、1990年はZZ-R1100へと、900Rベースのエンジンを搭載したモデルを発展させていった。コンセプト的にもこれらは900Rの延長線上にある。もちろん、GPZ900Rは継続販売され根強いファンも多かったのだが、その影は薄くなりがちだった。
それでも、改良の手は緩められなかった。特にフロントが16から17インチとなり、前後タイヤを幅広扁平化、リム幅も拡大し、ブレーキを強化、フロントフォーク径もφ38から41mmに大径化した1990年型A7への進化は印象的だった。フロント16インチの個性は消え、コーナーで倒れ込みそうだったクセも対策され、ニュートラルになった。
そして1999年型A12では、フロントキャリパーを6ポットとしてさらにブレーキを強化。タイヤを同じサイズのままラジアルとし、さらにリアサスは窒素ガス封入式となりリンク比にも手が入れられた。
今回乗った2000年型A13は、その仕様を踏襲する最終型(2002年まで継続生産された)で、そのままの状態で今楽しむことのできる水準にあるし、何よりジャストサイズのストリートスポーツを思わせる。
30年前に登場しながらいくつかの手直しでここまで楽しめるものになるとは、やはり元祖ニンジャは偉大だったということである。 かつてにおいても重くデカくなり過ぎていたバイク。歴史は繰り返されるもので、軽量コンパクトさが実現できれば、次には速さを求め現在のようにまた重くデカくなってしまう。昨今、ミドルクラスに注目が移っているのも、そうした背景のためである。つまり、かつてのニンジャコンセプトのようなバイクが求められているのである。
というわけで、僕がニンジャカスタムに対して提唱したいキーワードは、「軽量コンパクト」である。素材が持ち合わせている資質を昇華させてもらいたいのだ。
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