
2018年春にデリバリーが開始され、大人気となっている250ccツインスポーツ、カワサキNinja250用のフルエキゾーストが、WR’Sからリリースされた。しかし、新型Ninja250が街を走り出してから、すでに半年が経過。人気モデル用マフラーの発売タイミングとしては、遅い気がしなくもない。だが、かけられた時間には当然のこと意味がある。WR’Sでマフラー開発を担当する山本弘之氏は、その理由をこう語る。
SS-OVALタイプは3タイプのサイレンサーが選択可能。チタンの地色を活かした“ソリッドタイプ”は9万4,000円(税抜)、サイレンサー前部に焼き色がつく“焼き色(STD)タイプ”と、サイレンサー後部に焼き色がつく“焼き色(エンド部)タイプ”は共に9万7,000円(税抜)。写真は焼き色(エンド部)タイプ。JMCA認定の政府認証取得済みマフラー。
「WR’Sでは、先代モデルのNinja250用のフルエキゾーストもラインナップしています。かなりの自信作でしたので、当初は現行モデルでも設計データを継続して使用するつもりでいたんです。ですが、マシンが手元に届いたら、排気ポートの形状からして違う。とりあえず、菅長やパイプ径は先代モデル用を踏襲して、現行モデル用のマフラーを作ってみたんです。それでパワーは出ましたが、どうにも面白みのある乗り味が出ない。そこで、現行Ninja250は、形だけでなくエンジンも全くの別物であると認識できたんです。であれば、マフラーも完全新設計で作るしかない。だから、時間がかかってしまったんです。」
WR’Sでマフラー開発を担当する山本弘之氏。長年にわたりマフラー開発に携わるエンジニア。レースにも深く関わった経験を持つ。手にしているのはWR’Sが誇る新型サイレンサー、SS-OVALの焼き色(エンド部)タイプ。
開発は、なかなかに難航したという。ありとあらゆる管長とパイプ径が試され、バイパスパイプの追加も検討された。試行錯誤を経て、集合部までの管長が短めの高速型のパイプレイアウトに決定。最終的な味付けは触媒の取り付け位置で決められたそうだ。
「触媒をしっかりと働かせるには、排気温度が高い方が有利ですから、エンジンからなるべく近い部分に装備したい。最初は集合部直後に置いてみたのですが、パワーにメリハリがなく音量も大きかった。その後、テールパイプの中間でテストして、現在のテールパイプ後端に決めました。音量も規制値内に収まりましたし、面白いパワー特性が出せたと考えています。」
テールパイプの最後端、サイレンサー内部に突き出す位置にマウントされる触媒。法規制に適合させるために必須の部品だが、排気の効率良い流れを阻害することもあり、マフラー開発ではネックになりかねないファクター。WR’SのNinja250用フルエキゾーストでは、マフラーのキャラクターを決定するキーポイントとなった。
WR’Sでは、マフラー開発が終了しても納得のいく性能が出せていない場合、販売を中止することさえあるという。そんな妥協を許さない技術者集団が、時間をかけ自信を持って送り出したフルエキゾースト。これは期待せざるを得ない。ラインナップされるのは、異形6角断面形状を持つ最新デザインのチタン製サイレンサーを持つSS-OVALと、カーボン製のラウンドサイレンサーの2タイプで、ステンレス製エキゾーストパイプは共通。まずは、SS-OVALサイレンサー仕様から試乗を開始。
どんなスロットルの開け方をしても、適度な反応を保ちリニアに吹けるSS-OVAL。右手に忠実なパワーデリバリーはあらゆるシチュエーションで、正確なマシンコントロールを実現。万人が性能を引き出せるマフラーだ。
クラッチを繋いだ瞬間から、トルクの太さを実感する。250ccという排気量から、さすがに凶暴という感触ではないのだが、粘りを感じさせるトルクが発進をラクにさせてくれる。スタートに自信が持てないビギナーでも、安心してクラッチ操作ができるはずだ。
フレキシブルなトルク特性は、加速でも有利に働く。スロットルを捻るだけで、車速をしっかりと乗せてくれるのだが、レスポンスがまさに“ちょうど良い”フィーリングなのだ。どんなラフなスロットル操作をしても、ドンつき的なトルク変動が皆無。低中速コーナーが続く道幅の狭いワインディングといった、ツーリングで多く出くわすシチュエーションでは無類のマッチングをみせる。躊躇なくスロットルを開閉できるので、ライダーを疲れさせることがない。それでいて、車速のノリは良いのだから実質的に速い。バックトルクも適度で、エンジンブレーキの効き具合も絶妙。ゴー&ストップが連続する都市部の走りにも最適だ。通勤や通学で、ストレスなく楽しめるだろう。
だが、扱いやすいだけのマフラーではない。日常使用で多用する3,000~5,000回転あたりのトルクは実にフラットなのだが、6,000回転を越えてからパワーが湧き上がってくる。9,500回転あたりから、さらにもう一段パワーが上乗せされ、そのままレブリミットまで吹け切る。最後までパワーがタレることがない、いわゆる“天井知らず”というヤツだ。回転リミッターさえなければ、ピークパワーはさらに伸びるに違いない。もちろん、トップエンドの強力さは、ノーマルマフラーを大きく上回っている。
気になるサウンドについても触れておこう。アイドリング時は実にジェントルで、音質こそ異なるが音量的にはノーマルと大差ない。回転を上げると低音の強い迫力ある排気音となるが、音量的にはきっちりと法規制内に収められているので、公道走行も安心だ。
ラウンドタイプは3種類のサイレンサーを用意。ステンレスサイレンサー仕様は、7万9,000円(税抜)、カーボンサイレンサー仕様は8万4,000円、ラウンドチタン(焼き色)仕様は8万5,000円。全てJMCA認定の政府認証マフラー。
次にラウンドタイプのカーボンサイレンサー仕様に乗り換える。走り出す前に気づいたのが排気音の違い。高音混じりの歯切れの良いサウンドで、よりスポーティなイメージの音だ。だが、違うのは音だけではなかった。レスポンスが大幅に俊敏になっているのだ。スロットルを開くと即座にパワーは跳ね上がり、これがなんともエキサイティング。ライダーの気持ちを盛り上げ、積極的に攻めていく気分にさせてくれる乗り味だ。スロットルを開閉させるのが楽しい! これは、スポーツライディング好きにはたまらないマフラーだ。
SS-OVALとラウンドタイプ、サイレンサーの違いで乗り味も大きく異なるのだが、意外なことにシャーシダイナモでのパワー計測では差はないのだという。トルクとパワーに変わりはないのだから、絶対的な速さも差はないことになる。それでいて、乗り味が大きく違うところが面白い。スポーツライディングからツーリング、日常的な街乗りに至るまであらゆるシチュエーションで、どんなライダーでもポテンシャルを引き出せるSS-OVAL。鋭いレスポンスが刺激的な、マニアックな走りが楽しめるラウンドタイプ。どちらを選ぶかは、あなた次第だ。そして、どちらのマフラーも、極めて面白い。
SS-OVALは、レース界でのトレンドであるテールエンド部がコーン形状のサイレンサー。ストリート用マフラーにも是非取り入れたかった要素と山本氏は語る。カーボン製のテールエンドも検討はされたが、カーボンの場合強度面の問題から、内部に同形状の金属パーツを仕込まねばならないという。重量増を考えると“本物”を目指すWR’Sのポリシーとは合わずに断念。プレス成型の難しいチタン素材で、コーン形状のテールエンドを作るのは非常に高コストだが、パフォーマンスを追求するために採用された。WR’Sではフルエキゾーストの他、手軽に装着できるスリップオンマフラーもラインナップしている。
ラウンドタイプの重量は、写真のカーボンサイレンサー仕様が最軽量の3.64kg、ラウンドチタン仕様は3.68kg、ステンレスサイレンサー仕様は3.94kgとなる。ノーマルマフラーが6.35kgのため、約半分の軽さを実現。
SS-OVALタイプの重量は全て3.85kg。取り回し時や、跨った状態でマシンを左右に振っただけでも、軽量化を体感できる。
サイレンサーを真後ろから見たところ。左がSS-OVALタイプ、右がラウンドタイプ。SS-OVALはバンク角を犠牲にせずに、十分なサイレンサー容量を確保できるため、より前後長が短くできる。オーソドックスなラウンドタイプは、どんなカスタマイズにもマッチする。
エキゾーストパイプは耐候性に優れ、強度の高いステンレスを採用。ヘダーズパイプは短めで、2 in 1集合部へと導かれる。ヘダーズパイプから集合部、テールパイプ、サイレンサーの3ピース構造で、取り付けも簡単。試乗に使用したマフラーは市販前提の最終プロトタイプで、細部の仕上げに異なる部分があるが、諸元と性能に変更点はない。
集合部とテールパイプはスプリングジョイントの分割式。テールパイプは段階的に太さを増すコニカルテーパーを採用。迫力あるテールビューで魅せる要素にもこだわる。
スリップオンマフラーはラインナップが豊富。好みのサイレンサーを選ぶことができる。写真は一番リーズナブルなラウンドタイプ ステンレスサイレンサー仕様で価格は4万円(税抜)。カーボン仕様は4万8,000円(税抜)、焼き色チタンサイレンサー仕様は4万9,000円(税抜)。チタンオーバルサイレンサーはソリッド仕様が5万3,000円(税抜)、焼き色仕様が5万7,000円(税抜)。SS-OVALサイレンサーはソリッド仕様が5万8,000円(税抜)、焼き色仕様が6万2,000円(税抜)となる。
スリップオンマフラーは、付属の専用取り付けプレートステーを使用することで、UPタイプとDOWNタイプの二つのサイレンサー角度が選択可能。1本のスリップオンマフラーで、異なるふたつのスタイルを楽しむことができるのだ。